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虚ろなる羊の内に 2



 臨の打ち明け話を聞き終えた後、文恵と正雄は隣室の様子が観察できるマジックミラーを通し、晶子の前でうなだれる守人を見つめていた。


「そうか、そんな事があったんか」


 流石に神妙な顔で正雄が呟き、文恵も首を傾げる。


「う~ん、あの大人しい高槻君が陰惨な連続殺人事件と関わってるかも、なんて、私にはとても……」


「草食系だもんなぁ、見るからにオカピ」


「オカピ?」


「臨ちゃん、合コンで聞いとらんの? 草食系の中の草食系」


 きょとんとする臨へ正雄がコホンと咳払い、厳かに解説を始める。


「アフリカのコンゴに住んどるキリンのちっちゃい奴やな」


「……キリン?」


「通称、森の貴婦人。物凄~く臆病でな。ただ人が見てるだけで逃げだすから、観察するのも難しいと言う……」


「そういう蘊蓄、今は要ンないでしょ」


 ツッコミを入れつつ、軽~く正雄を文恵が睨む。


「何でや、姉さん達がノッてきたから、俺は、やなぁ」


「そもそも、その姉さん呼ばわり、何時の間に定着してんの?」


 他愛無い会話の応酬で、沈みがちな空気を払おうとする友の気持ちは有難かったが、


「高槻君のこと……他の人には言わないで」


 割り込むように言う臨の言葉は、どうしても重くなる。


「警察に相談するにも不確かな事ばかり。何より、高槻君の気持ちが不安定になってて、もう少し落ち着いてからでないと、他の動きは無理だと思う」


「じゃ、臨は信じてるんだね、彼が犯罪を犯しておらず、警察に知らせなくても次の事件は起きないって」


 文恵の問いかけに臨は口ごもる。


 まだ知り合って間もない大学の同級生を信じられるのか、信じて良いものなのか、確信なんて持てない。しかし、


「決めたんだ、あたし。しばらく彼を支えようと思う。自分で決めたんだから、絶対後悔しない!」


 言い切る言葉には力がこもっていた。


「う~ん、出てきたね、臨らしいポジティブさ。ちょっと開き直りっぽいけど」


「ふふっ、先生には前向きバカって言われた」


「で、そのPC画面が殺人を予言したっちゅう物騒なサイト?」


 正雄の言葉に臨は頷き、パソコン机に座り直す。


「文恵、あなた、こういうの得意よね」


「ま、一応、理工科。IT系のエンジニア志望ですから」


「見つけたばかりの仕掛けがあるの。コレ、何とかなんない?」


 マウスを動かし、臨は古風なゴシック調の魔王らしきイラストへポインタを移動させる。


 その閉じられた目蓋の上に、ポップアップ・スイッチが隠されていて、マウスポインタで撫でる動作により、カッと魔王は目を見開いた。


 その瞳孔にうっすら五芒星らしき形が視認できる。

 

 なぞって素早くダブルクリック。サイトの他の仕掛けのようにサブウィンドウが開く反応は起きない。

 

 代りに『タナトスの使徒』サイト自体が閉じ、別のホームページ画面へ丸ごと入れ替わってしまう。

 

「ほぉ、こりゃ隠しリンクだね」


「そうみたい」


「凝ってるねぇ。他のサイトへリンクが張られていて、一定の条件でクリックすると強制的に飛ばされるんだ」


「で、『タナトスの使徒』へ戻るのが又、大変なんだけど……とりあえず、っと」


 ウィンドウ上をもう一度クリック、すると曖昧にぼやけていた移動先の表示がはっきり浮かびだす。


 如何にもアングラ・サイトという感じの毒々しい『タナトスの使徒』とは対照的にアイボリーを基調とするシンプルな造りで、最初のページは西洋の宮殿を象っている様だ。


 門のCGをクリック。


 サイトの奥へ踏み込むと過去の名画と思しき額が並ぶ回廊風の画面上、タイトル・バーに『隅 心療内科クリニックへようこそ』と書かれている。


「大層な段取りで出てきた割にショボいサイトやな」


「見た感じ、町医者のHPみたい」


「でも、やっぱり少し変なんだ」


 ブラウザの「元に戻す」ボタンを臨は押してみる。でも、前の画面には戻らない。


「あれ? もう一度、それ押してみて」


「前に一度試した。そうすると『タナトスの使徒』へ戻らずにブラウザがフリーズしちゃって、一度閉じないと何処のサイトも閲覧できなくなるの」


 臨は『タナトスの使徒』のアドレスを直接アドレスバーへ打ち込み、前と同じ操作をして『隅 心療内科』のHPを表示させた。


「うわっ、メンドクサっ」


「でしょ。ここ『タナトスの使徒』を通さないと、どうやってもアクセスできない。直接、ブラウザへアドレスを書き込んだら、『存在しないページ』って出てきちゃうんだ」


「へえ」


 臨に椅子を譲られ、文恵がデスクに向かって『隅 心療内科』HPを覗き込む。


 画面構成のシンプルさに比し、中身は意外と凝っていた。


 博物館か何かの回廊を模す画面はマウス操作に合わせて手前から奥へスクロールし、3Dの迷路風になっている。


「ふう~ん、突き当りに来たら左右のボタンを押す事で曲がれるのね。まんまロールプレイング・ゲームのノリじゃない」


「……それがね」


 臨が説明するより早く、画面の奥からフラリと真っ赤なてるてる坊主のCGアニメが現れ、文恵は「わっ」と驚愕の声を上げた。


「敵キャラの代りに、そいつが時々出てくるの」


「気味悪いな」


「このキャラ、『タナトスの使徒』のHPにもいるし、高槻君の部屋で見た殺人動画の中で犯人が着ていた衣装とそっくりなんだ」


「という事は、つまり隅って医者も事件に関係してて、このサイトに何か手がかりがあるって事?」


「多分ね。でも、あたしじゃすぐ行き詰っちゃうのよ」


「で、私の出番か?」


 ハハ~ッとかしこまる臨の態度でその気になり、文恵も前のめり気味でホームページを調べ始める。


読んで頂き、ありがとうございます。

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