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真夏の雪ごおり  作者: アルヤン
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謎の生き物

 その後、一旦しぐれ達と別れて急いで動物病院に向かった俺とおじいちゃんは、小さい狐みたいなやつを獣医に見せた。


 獣医は拾った場所を聞いて、とても驚いた様だったが、しばらくすると頷いて大丈夫と言い切った。


 ガラス越しに治療されていくあの小動物を眺めていると、目があった様な気がした。


 小動物の目はキラキラと輝いていて、とても……綺麗だった。


 その目は何かを言わんとしている様子であったが、獣医に連れられて奥の装置に連れて行かれてしまった。


 しばらくすると小綺麗になった小動物が何故か誇らしげに台に乗って運ばれて来た。



「うん、この子ね、うん、全然健康だねうん、うんあのね、一応ワクチンとかももう打っといたから大丈夫だようん」


「おお、そらえらいおおきに!んでいくら?」


「うん、いつも良くしてもらってますからねうん、ちょっとまけさせてもらいますようん」


「おぉ!そらホンマにおおきにですわ!」



 と、先生とおじいちゃんが話していると、このモフモフは台から飛び上がって俺の肩に乗っかって来た。


 意外と軽い事に驚いていると、この小さなもふもふは俺の首元で丸まって目を閉じてしまった。



「お、おじいちゃ……」


「ん?おぉ!もうえらい懐かれとんなぁ!あどれどれ……」



 そう言うとおじいちゃんはこの小さなもふもふの毛を手で触った。



「もふもふやなぁ……思い出すわ、アレは爺ちゃんがまだ戦場にいた時の事や……」


「長くなる?」


「あー……多分なるわ、また今度にしよか」



 おじいちゃんはたまによく分からないほら話をするのだが、その時は大概話が長くなって気がつけばだいぶ時間が経っている事がしばしばあった。


 おじいちゃんに触られても、この小さなもふもふは眠りから覚める様子は全くなかった。


 俺は方から抱き上げて腕の中で、この小さなもふもふを抱き抱えながら動物病院の外へと出た。


 外に出るとそこにはしぐれや啓介が不安そうな表情で待っていた。



「ユキの様子は!?」


「ゆ、ユキ?」



 聞きなれない名前に驚いていると、しぐれは急に近づいてきて俺の腕の中で眠りこけるもふもふを覗き込んだ。


 クウクウと寝息を立てるもふもふにしぐれは安心した様な表情を浮かべると、もふもふの小さな頭を優しく撫でた。



「……どうするの?」


「一応おじいちゃんが飼っても良いよって言ってくれたから、おじいちゃん家で飼うつもりだけど……」


「なら、明日もまた様子を見にきても良い?」


「ぼ、ボクも……!」



 グイッと近づいてきた二人に若干後ずさると、俺を首を縦に振った。



「も、ちろん……」


「そう……良かった……」



 安堵の表情を浮かべるしぐれと啓介の顔を見て、俺はこのもふもふの名前を決めていなかったことを思い出した。



「そういやこいつの名前どうす「「ユキ」」えぇ……」



 間髪入れずにしぐれと啓介は答え、先ほどのユキがこのもふもふを指していることがようやく分かった。



「あ、白いから……ユキ?」


「「うん」」



 意気投合してるじゃん


 そうして、ユキと名付けられた謎のもふもふの生き物を俺達は囲みながら賑やかに自分達の家へと戻ったのであった。


 家に戻ると、おじいちゃんが、



「その毛皮じゃ日本の夏は暑いだろう」



 と言って、ユキのためにタライに水を入れてくれた。


 井戸から汲み出した水はひんやりとしてとても気持ちがよかった。


 縁側に座ってユキを撫でていると、おじいちゃんが地面にタライを落とした音で跳ね起きた。


 腕の中で小さな手足をバタバタとひっくり返って動かしているのは見ていてとても、可愛かった。


 タライに水が入れられるとユキは動きを止めて、じっと水を見つめていた。


 そして、唐突に俺の腕の中から飛び出ると、タライの水をバシャバシャと跳ね飛ばして遊び始めた。


 あまりにも可愛らいし光景に、俺はうっとりと見惚れていると、表からしぐれと啓介が呼ぶ声が聞こえた。


 向かってみると、二人とも非常にソワソワとしていた。


 ここで俺は2人の意図を察して、縁側に案内した。


 2人はタライの水で遊ぶユキの姿を見て、癒された様に微笑んでいた。


 俺はふと、ユキがこちらをじっと見つめていることに気がついた。


 もしやと思い、タライの水を少しかけてやると、ユキは嬉しそうに、



「キューウ!」



 と、よく分からない鳴き声を出した。


 よく分からず手を止めると、ユキはタライの水をこちらにパシャパシャと掛けてきた。


 あまりの可愛さにぎゅっと胸が締め付けられる思いを抱きながらも、俺はユキに仕返しとばかりに少し水を掛けてやった。


 ユキはそれを避けると次はしぐれ達の方を向いた。



 もしかして、しぐれ達とも遊びたいのか?

 

 と言うか、そんなこと考えれるほどこの子頭いいのか?


 狐って頭よかったか?



 等色々なことが頭の中を過ぎったが、しぐれ達はすぐに駆け寄ってくると、ユキと遊び出した。


 その楽しそうな様子に俺の疑問はかき消され、俺もユキと遊ぶことにした。


 そして、時間も忘れて遊んだ俺たちは日も暮れてきた頃、ユキは最後に盛大に水飛沫をあげてタライに飛び込んで俺たちをビシャビシャにすると、満足そうにおじいちゃんに体をふかれるのだった。


 そして夜、お風呂に入ろうとすると、ユキも一緒に着いてきた。


 何度もお風呂から出そうとすると嫌がるので、せっかくなのでお風呂に入れて体を洗ってやることにした。


 タライに少しお湯を張ってやると、もう少しと言わんばかりに何度もタライを叩いて、お湯を体が浸かるぐらいの量まで入れさせると、前足で湯加減を確認してゆっくりとお湯に使った。



「キュイィー………」



 と言ってお湯に入ると言う、あまりにも人間臭い行動に、俺はこの生き物は元は人間だったのではないかと思ったが、そんなファンタジーはこの世に存在するはずないので、その考えを捨て去った。


 お風呂から上がり、体を拭いてやり俺も寝巻きを着てゆっくりしようとしていると、ユキが俺の肩まで駆け上り前足でタライを指してから、蛇口の方を指して、



「キューイ、キュキュキューイ」



 と、鳴いた。


 恐らく、タライに水を入れて欲しいのだろうが……


 何故かは分からないが、タライに水を入れてやると、ユキは何度か水面を叩いた。


 するとユキが水面を叩いた瞬間、タライに張っていた水が徐々に凍りついて行った。


 唐突な出来事に声が出ずにいると、ユキは氷の上に立って、



「キューン」



 と、誇らしげに胸を張った。


 と、そんな風にしているとユキの足元の氷が割れて冷たい水の中にユキは落ちてしまった。


 水から引き上げたユキは震えており、またお風呂場に連れて行って暖かいお湯に浸けてやった。


 その時もまたユキは、



「キュイィー……」



 と、気持ちよさそうに耳を後ろに倒して顎をタライの蓋に乗せるのだった。


 お風呂から再び上がったユキは、先程落ちたタライを苛立たしげに何度も叩いた。


 そして、その後暫くじっとした後、俺の方を向いて既に氷になったタライの氷面を何度も叩いた。


 すると、今度はタライの中から凍る音が聞こえ、ユキは満足そうに氷面の上に乗った。


 そして、前足を上げてとある物をユキは指した。


 かき氷を作るかき氷機だった。


 アレでかき氷を作れと言うのだろうか……


 取り敢えずかき氷機を、ユキの様子を伺いながら下ろして、少し切り出した氷をセットした。


 ユキはじっとこちらを見つめて、かき氷機のレバーを持つ俺の手を、てしてしと早くしろと言わんばかりに叩いた。


 何をする気だろうと思いながらも、俺は器にかき氷を作ってシロップをかけようとした。


 するとユキは不思議そうに見て、俺がかき氷にシロップをかけると、衝撃を受けた様な顔をして固まった。


 そして、暫くすると顔をプルプルと振って、俺が取り上げるよりも先にかき氷を食べた。


 ユキの顔は一瞬でシロップまみれになり、かき氷を食べたユキの表情は何というか……宇宙の真理を垣間見た様な表情を浮かべていた。



「キュ……キュキュキューイ!」



 突然そう大声で鳴くと、ユキはかき氷をみるみるうちに食べてしまった。


 お腹は壊さないだろうか


 シロップは動物にダメなんじゃあ……


 などと思っているうちに、ユキは顔の周りのベタつきが気になるのか、顔の周りを舐めようと必死に舌を出してペロペロとしていた。


 あったかいお湯に浸けたタオルで顔を拭いてやると非常に満足した表情で、俺の肩に登ると丸まって眠ってしまった。


 どうしたものかと思ったが、取り敢えず明日まで様子を見ることにした。


 俺は自分の布団の横に、買ってきたユキ用の寝床にユキを寝かしつけて、薄いなのを体の部分に掛けた後、俺も眠りの世界へと誘われて行った。

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