表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏の雪ごおり  作者: アルヤン
4/8

依頼

 島に来て4日目の朝、そろそろまともな田舎の平凡でゆっくりとした起き方をするかと思っていたんだが……



「マサ君マサ君……起きて?」


「……ごめんな、先ずはケータイを取ってくれないか?」


「はい、どうぞ」


「……よし、『もしもし警察ですか?不法侵入です』」



 次の瞬間、俺の近くにいた奴が首を振って涙目で違う違うと言い始めた。


 正直こんな可愛い女の子がいる事は嬉しいのだが、不法侵入は不法侵入だろう。


 何が違うのだろうとと思っていると、おじいちゃんが部屋にひょっこりと顔を覗かせた。



「いやー、すまんすまん!啓介君がどうしてもって言うから入れたんやけど、驚かせてしもたみたいやなぁ!」


「だからって女の子をいきなり男の部屋に放り込むのはどうかと思うぞ」



 すると、おじいちゃんは何を言っているんだと言う風に首を傾げた。


 いやいや、その顔をしたいのはこっちだ。


 しかし、そんな顔のおじいちゃんの口から出たのは、正直俺からしたら予想だにできない事だった。



「いやいや、この部屋に女の子なんて誰もおらんぞ?」


「……………は?え?何?じゃあ啓介は……男?」



 そう言って啓介の方を向くと、啓介は恥ずかしそうに何度も頷いていた。



「……ちょっといいか?」


「え?な、なに?」



 俺は啓介の体をペタペタと触った。


 肩や胸、足回り、そして……



「すまん!」


「うえっ!?」



 股関節にぶら下がっている実がふたつなっているヤシの木を確認して俺はすぐさま土下座を決行した。














「本当に悪かった……」


「い、良いよもう、そんなに気にしてないし」


「はっはっはっはっはー!あーっはっはっっ……」


「おじいちゃん笑いすぎ」



 むせかえるほど笑っていたおじいちゃんを横目に、俺はとりあえず何をしに来たかを啓介に聞く事にした。



「んで、何か用があったんだろ?」


「ん、あ、あぁ!そう!」



 ずいっとこちらに身を乗り出してくる啓介の距離感の近さに若干身をひきながら、手で啓介を抑えた。



「ご、ごめん……えぇと」



 要約すると、自転車を直したのを聞いた。


 そこでさらにじいちゃんから『機械系なら多分何でも直せる』と言う話を聞く。


 そして、そこで家にあるパソコンを直してもらえるのだろうかと思って来た。


 らしい……。



「いやいや、機械系って言っても簡単なものだけだし、芝刈り機のエンジンバラしたり、修理したりとかそれだけだぞ?」


「うん……わかってる、でもねどうしても直してほしいんだ」


「なら、本土の専用の店に直して貰えば良いじゃねぇか」


「お小遣いが厳しくて……」


「今すぐじゃねぇといけねぇのか?」



 俺の詰問に、啓介はプルプルと震えていたが、意を結した様にこちらを見て、



「うん」



 と言い切った。



「……しょーがねぇなぁ、一回こっちに持って来てみろ、直せるかやってみるからよ」



 その言葉を聞いて啓介はパァッと顔を明るくさせた。


 そして、そのパソコンを持ってくると言って俺の部屋から出て行ってしまった。


 その間に俺は着替えて待つ事にした。


 着替えが終わり待っていると、おじいちゃんがまた部屋に顔を出しに来た。


 

「啓介君はもう帰ったのか?」


「一旦ね……にしたって寝てる所にやって来させるのはどうなの?おじいちゃん」


「いやー、すまんすまん、何、この島での友達が増えたのかと思ってな嬉しくてつい……」


「……今度から一旦起こしてよね?」


「すまんすまん」



 申し訳なさそうにテヘッと頭を下げるおじいちゃんに、やれやれと首を振っていると、



「まぁ……仲良くしぃや」


「はーい」



 おじいちゃんは何か言おうとしたが、口を閉じて行ってしまった。


 一体何を言いたかったのか分からなかったが、取り敢えず用意できる工具を用意する事にした。


 工具を揃えて待っていると、啓介が両手に何かを抱えて部屋に入ってきた。


 そして、それを俺の目の前に下ろすと、くたっとへたり込んだ。



「お、重かったぁ……」


「こ、こんなに……すまん、気が付かなくて」


「いいのいいの………それでどうかなぁ?」


「あ、あぁ……これは……壊したのか?」


「うん……」



 俺はパソコンの専門家でもなければエンジニアでもないが、傍目でまた見てもこのパソコンは明らかに人為的に破壊された様だった。


 

「取り敢えずちょっと見てみるか……」


「うん、何か手伝えることある?」


「んー、すぐにはわからねぇから、適当にそれまでくつろいどいてくれ」


「うん」



 俺の言葉を聞いた啓介は、部屋に置かれている漫画に興味を示した様でそれを読み始めた。



「……さてと」



 俺はパソコンの壊された破片を取り除いて、中をいじり始めた。


 取り敢えず配線から見ていこうと、中をいじっていると、啓介が話しかけてきた。



「ねぇ……何で君一人でこの島に来たの?」


「気分だよ」


「そっか……この島どう?楽しい?」


「まぁ、来たばっかりでよく分かんねぇけど、悪くは無いと思うぞ」


「そっか……えへへ……」



 何だこいつ、カワイイやつだな


 小動物に感じる様なトキメキを感じ、また啓介は漫画を読むのを再開した。


 しばらくして、配線を多分ちゃんと繋ぎ直したと思われる段階に入り、コンセントに繋いで電源を入れると、電源のランプがついた。


 しかし、ランプがついただけで、どこも動いている様な様子は無かった。



「ダメか……うーん……じゃあ……」



 と言った様に何度もトライアンドエラーを繰り返していると、すっかり昼になってしまった。


 おじいちゃんが下から声をかけてきて、俺達は一旦昼ごはんを食べる事にした。


 啓介のお母さんには既に話を通しているらしく、俺達は三人で煮魚などのお昼ご飯を食べた。


 おじいちゃんは昼からしぐれのおじいちゃんと、何やら用事があるらしく昼ごはんを食べて片付けをすると、出かけてしまった。


 そして、また再び修理を再開したのだが、



「っだぁー!やっぱり!基盤割れてんじゃねぇか!」


「え?え?何?どうしたの?」


「このパソコンを動かす大事な回路の部分がダメになってた……同じ基盤……これと同じパーツが居る……でも、そんなの使ってももう直せるかどうか……」


「そっか……取り敢えず直すにしてもそこの部品と同じパーツがいるって事だね?」


「そー言う事だ」



 完全になってしまった俺達は腕を組んで唸った。


 外を見ると、そろそろ日も暮れようとしている頃だった。



「今日はこの辺にするか、取り敢えずこれは預かっておこうか?」


「うん、お願いしようかな……あのさ!」



 部屋から出ていこうとする啓介は一度こちらを振り向くと、



「……明日、一緒にさ……散歩しに行かない?」


「あ、あぁ……いいぞ?」



 それを聞くと啓介は嬉しそうに笑うと、じゃあね、と言って出て行ってしまった。


 俺は少しずつ増えていく友人に、嬉しく思いながらも、完全に破損してしまっているパソコンの基盤をもう一度見て、どうしようかと首を捻るのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ