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真夏の雪ごおり  作者: アルヤン
1/8

来訪

海風が真夏の日差しには少し心地良く、都会では味わえない様な雰囲気を楽しんでいる俺は徐々に大きくなっていく島を見つめ、部活を真面目に頑張っていたある日、同級生から気だるげな様子で、



「そんなに人に尽くして、そんなに好かれたいのか?」



 と言われた事を思い出し少し溜息をつくと、目を瞑って大きく深呼吸をした。


 そう、この夏休みは思いっきり楽しむと決めたのだ。


 そうして目を開けると、既に島は驚く程巨大になっていて、俺は少し驚きながらも、暫く住む事になる島をじっくりと観察した。


 船からアナウンスが流れ始めると、俺は島側の手すりに寄った。


 港を見ていると、あちらからでも分かったのか、おじいちゃんが嬉しそうに手を振っているのが見えた。


 少し恥ずかしくなって小さく手を振ると、俺はずっしりと重たい荷物を持ってフェリーの降船口へと向かった。


 暫くして、船が港に停泊すると、人の並びに沿って船を降りた。


 眩しい太陽に目を窄めながらも、嬉しそうに近寄ってくるおじいちゃんに、人違いだったらどうするんだろうと、少し悪戯心が騒いだ。



「マサ!ようきたなぁ!」


「ええと……人違いじゃあ……」


「えっ!?アレッ!?ゴメンなぁ?あれぇ……?」


「ふふっ、ゴメンゴメン、冗談だよ」



 少し申し訳なくなって早めに白状すると、おじいちゃんは楽しそうに笑った。



「いやいや!知ってた!知ってたで!?分かってたわそんなん、分かっててわざと!わざと引っかかってんで!?」


「分かってるよ、おじいちゃん」



 悪戯した事を少し後悔しながらも、蝉が大合唱し、波の音が聞こえるこの島に正直、俺は楽しみを隠せなかった。





 おじいちゃんの家に着いて荷物をある程度纏めると、近所に挨拶をする事にした。


 おじいちゃんの家の向かって右側が一軒家なのだが、左側がお寺と俺からすると余り見ないような立地になっていた。


 しかもどうやらその両隣に俺と同い年の奴らがいると言う。


 島がどんな場所か話を聞こうと、俺は菓子折りを片手に先ずは一軒家の方を訪ねた。


 インターホンを鳴らし、セミの合唱に負けないように、しかし迷惑にならない程度に声を上げて自己紹介をした。



「はじめまして!隣の山代の孫の雅紀です!」


『はぁーい、待ってて下さーい』



 インターホンから女の人の声がすると、声の主らしき人が出て来た。



「こんにちは!隣の山城の孫の雅紀と申します!夏休みの間だけですが宜しくお願いします!」


「あらぁ、ご丁寧にどうも、高杉と申します……聞いた話だと15歳ですっけ?息子の啓介も同い年だから宜しくしてあげてね?」


「はい……!今けーすけさんはどちらに?」


「さんなんて付けなくてもいいわよ?……ケースケ!お隣の雅紀くんが挨拶に来てくれたから出て来なさい!」



 暫くして出て来たのは、可愛い顔つきのなよなよとした奴だった。



「この子ねぇ、人見知りが激しくて……」


「よ………よろしくお願いします……」



 消え入りそうな声でそう言ったけーすけは、周りを見回すとまでは行かずとも少しソワソワしていた。



「これからよろしく!」


「………うん」


「また島の事教えてくれよな!」


「……うん」


「一応機械系の修理とかは得意だから、何かあったら言ってくれよな!」


「…うん」



 そうして若干の手応えを感じつつ、俺は反対側のお寺を訪ねる事にした。


 お寺の雰囲気はとても周りとは違っていて、境内に入ると蝉の声などが一気に静かになったように感じられた。


 お寺の隣に立っている家のチャイムを雰囲気に少し飲まれて緊張しながら押すと、中から何故かおじいちゃんが出て来た。



「おう!来たか!」


「来たけど……何でここにいるの?」


「いやぁ!ここの住職とは仲良しでな!よー遊んどるんよ!」


「えぇ……お坊さんがそんなことしていいの?」


「大丈夫大丈夫!ウチは取り敢えず念仏唱えとけばOKだから!」


「ちょっと待てよ、俺をどうしようもない遊び人みたいに言わないでくれるか?」



 おじいちゃんの次に出てきた恐らくここの坊主頭な住職が、仕方なしと言うふうに首を振って出て来た。



「何でぇ、良く釣り行くくせに、お坊さんが殺傷してええんですか?」


「それは……念仏唱えるから大丈夫」


「ほれみぃ!」



 恐らくキリがないので俺は早めに切り出す事にした。



「あの!これつまらないものですがどうぞ!」


「ん?おぉ、わざわざすまんな……こら、勝手に食おうとすんじゃない」


「じゃあ貰う」


「許可はやらん……っておい!どっちにしろ勝手に食うやないか!」



 と、また言い合いはじめたので、同い年の子への挨拶はまた今度かなと、考えていると、背後から住職の声が掛かった。



「なぁ!ウチの孫の自転車が壊れてしもたみたいやねんけど、ちょっと直してくれたりせん?勿論お小遣い渡すから」


「良いですよ、道具を取ってくるんで自転車の場所だけ教えて下さい」


「家の裏に停めてあるから勝手に回ってくれてもええよ」


「分かりました」



 俺は道具を取りに戻り、もう一度境内に入った。


 今回はセミの声もバッチリと聞こえ、それだけでなく、



「そもそも、孫が持って来た挨拶用の菓子折りを 食べるとはどう言うことだ!」


「お前だって、ワシが作ったカレー勝手に食いにくるじゃろ!」


「それはお前が作るカレーが美味いのが悪い」


「ならワシも良いだろうがー!」



 と、大人気ない二人の老人のどこか楽しそうな話をしている隣を抜けて、自転車の横に膝をついた。


 幸いタイヤのチューブの交換などはせずにすみそうで、少し弄れば直るような故障だった。


 貰うお小遣いは少しにして貰おうと考えていると、ふと視線を感じて振り返ると、そこには小学五年生ぐらいの少女が家の中からこちらをのぞいているのが見えた。


 成る程、この家には姉と妹がいるのか、姉はどの様な人物だろうと考えていると、丁度修理が完了して、そこに住職もやって来た。



「もう終わったん!?」


「はい、別にそれほど深刻な故障でも無かったので直ぐに修理出来ましたよ」



 それを聞くと、住職は感心して懐から千円札を取り出すとこちらに渡そうとして来たが、



「初回はサービスという事で」



 と言ってお断りさせてもらった。


 住職はますます感心して、ウチの孫の嫁にならないかと冗談半分でそう言って来た。


 正直返答に困ったが、なんとかはぐらかす事に成功し、俺はおじいちゃんの家に戻る事にした。


 最後にもう一度家の方を振り返ると、やはり小さな女の子がこちらを見ていて、何かと思って首を傾げていると女の子が声を掛けて来た。


 これはチャンスと思い、俺は女の子に話しかける事にした。


 と、俺は小学生と思っていた子を近くで見てみると、どうしても小学生とは思えない雰囲気を感じさせた。



「や、やぁ……何かな?」


「私の自転車を修理して頂きありがとうございます」


「……え?」



 一瞬頭が真っ白になったが、直ぐに状況を理解する事が出来た俺は、



「あ、あぁ!君が俺と同い年の……!初めまして俺は山城雅紀って言うんだけど、夏休みの間だけだけど宜しく!」


「はい、よろしくお願いします……私は瀬戸宮時雨、しぐれと呼んでください」



 と、早口で自己紹介をすると、とても優しくお淑やかな雰囲気の彼女はそう言って、丁寧にお辞儀をして、少しこちらの様子を伺うような素振りを見せると、こちらの顔を下から覗き込むように近寄って来た。


 何だろう、凄く距離感が近い気がする。



「……島の事で分からない事がありましたら、私に声を掛けてください、出来る限りのお手伝いをさせて頂きます」


「お、おう、その時は頼むよ」



 しぐれは少し微笑むと家の中に戻って行ってしまった。



「……気のせいだよな?」



 その後ろ姿の時に見えた頬が赤かったのはきっと夕焼けのせいだろう。


 その日の夜は長旅の疲れからか色々と思う所はあったが、ぐっすりと眠る事が出来た。

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