第5章 第1話 一時帰宅
「ただいまー……」
瑠奈との仮面恋愛が次のステップへと進んでから数日が経ち、5月中旬。俺は一時的に退院し、学校へと戻っていた。
「おかえりなさいっ」
そんな俺を部屋で出迎えてくれたのは瑠奈。普段よりテンションが高いし、笑顔もまぶしい。何にせよ記憶が泣き顔からアップデートされてよかった。
「よかったですね、退院できて」
「3日間だけだけどな。もう夜だし、実質明日1日だけだ」
元々入院は5月いっぱいという話だったが、先輩の計らいで左脚の痛みを緩和する手術を受けられるようになったため、入院期間はさらに伸びて6月上旬辺りまでという話になった。この仮退院は着替えなどの荷物を取りにいくのと、俺のメンタルを回復させるためのもの。だから本当に一時的なものだ。
「にしてもあれだな、部屋汚くなってるかと思ったけどだいぶ綺麗で安心した」
「で、でしょー? わたし綺麗好きなんですよー」
「あとはゴミ袋を捨ててれば完璧だったな。ベランダにめちゃくちゃ溜まってるの外から見えたぞ」
「わかってて褒めたんですか!? やっぱ最低っ!」
「やっぱってなんだよ。後で一緒に捨てにいくぞ」
「……せんぱいまだ脚悪いでしょ。良くなってから、一緒に捨てにいきましょう?」
「なんかいい感じに聞こえるけど不衛生なだけだからな」
玄関で軽く話をし、ソファーに座る。すると瑠奈も隣に座り、距離を詰めてきた。
「そんな近寄んなよ。風呂入れたの一昨日だったから臭いだろ」
「そうですねぇ……とりあえずベッド入って布団にくるまってください」
「シャワー浴びた後な。もう夜だし」
「いま! いまじゃないとやだ!」
「えぇ……」
なんかわがままが強くなってきてないか……? あんなことがあったんだし少しは優しくしてくれるかと思ってたんだけど。
「これでいい?」
「もう少し! もっとぎゅーって布団握りしめて!」
「……これでいいか?」
「はい! ありがとうございます! じゃあシャワー浴びてきていいですよ」
「悪いけど風呂場借りる。シャンプーとかは買ってきたから安心しろ」
「いいですよわたしの使って。いい奴だから!」
「ありがとう」
「はーい」
なぜか瑠奈のいい匂いが染みたベッドから出て、着替えを持って普段俺は使わない風呂場へと向かう。そして脱衣所に入り、隠れてベッドの方を見てみる。
「むふふ……」
なんで瑠奈は俺のベッドに入って布団にくるまってるんだろうな……まぁいいや。瑠奈が満足できるようにそれなりに時間をかけて風呂に入り、ドライヤーを長めにかけて逃げやすくしてから瑠奈の元に戻る。
「おかえりなさーい」
寝るためなのか、汗をかいたからなのか。あざといネグリジェへと着替えたツヤツヤ笑顔の瑠奈がソファーに座っていた。それで誤魔化せたと思ってるんだからやっぱりまだ詰めが甘い。
「明日はお見舞いに来てくれた人に挨拶回りに行かなきゃいけないからもう寝るぞ。灯りはつけてていいからな」
「いえ、わたしも寝ます。明日の夜は長くなりそうなので」
俺が甘い香りのするベッドに入ると、ほとんどノータイムで瑠奈が横に転がってきた。
「……自分のベッドで寝ろよ」
「いいじゃないですか、別に」
「まぁいいんだけどさ……」
「せんぱい」
風呂上りで火照っている俺の顔と、なぜか火照っている瑠奈の顔が近づく。
「わたしに寂しい思いをさせた責任、とってください」
はぁ……。俺も明日の夜は忙しいというのに、今夜も長くなりそうだった。




