第4章 第10話 勝負の刻
せんぱいは愛を欲している。初めてそう思ったのは、せんぱいと立花さんの動画を繰り返し見ていた時だった。
結局せんぱいが一番幸せそうな顔をしていたのは、立花さんに愛を囁かれ、抱擁され、褒められていた時だった。
でもせんぱいは人から好かれていない。好かれていても気づかない。直接好きだと言っても伝わらない。立花さんは自分に興味がない、なんて発言をするほどに、自分が誰かから好かれているという自信がない。
だからみんながやっていたことは間違えている。死なないで。今までごめん。そんな発言はせんぱいの心を傷つけるだけだ。
せんぱいを救う方法はたった一つ。徹底的に甘やかすことだ。何かをお願いするのではなく、好きなことをしてもいいよと伝えること。それがせんぱいには一番効く。
でもそれができる人は少ないだろう。立花さんでさえ、動画を観る限りこういう状況では泣き叫ぶことしかできないはずだ。
だからわたしが、やる。わたしが甘やかして、わからせてやる。わたしのことを好きにさせてやる。
まず第一段階。手紙によるメッセージは想定以上の効果を発揮したようだ。今せんぱいは、わたしを求めているに違いない。わたしと会って、わたしに慰めてほしいと思っているはずだ。
でもそう簡単に楽にはさせない。1日、焦らす。これにより効果をさらに高める。そして一番好きな立花さんが失敗してから、わたしが出る。立花さんを当て馬にする。
そのための準備はしてきた。朝から学校をサボって美容院に行き、服もせんぱいが好きそうな清楚な感じの、それでいてミニスカートにニーソックスという脚フェチにはたまらないものを買ってきた。
後は簡単。せんぱいの話を聞き、脚を触らせながら頭でも撫でてあげればいい。それだけでせんぱいはコロッと落ちるし、わたしのことが大好きで大好きでたまらなくなるはず。
くふふちょろいちょろい。さっき立花さんと今井さんが病室に入ったのは物陰から見えた。あと少ししたら……。
「……え?」
まだ入って5分も経ってないのに2人が出てきた。そんなに早くせんぱいを怒らせた……? いやそんなことは……でも2人とも顔色が悪いし、立花さんに至ってはボロボロと涙を零している。
「……こんにちは」
状況を聞くために2人の元に駆け寄る。そして立花さんの瞳がわたしを捉えると。
「どうしてあんなひどいことができたの……?」
わたしを咎めて、泣き崩れた。
「ひどい……こと……?」
「私宛ての手紙に書いてあった……。金銅さん、死にたいのなら死ねばいいって手紙をやっくんに出したんでしょ……? そのせいで、やっくんは……」
心臓が、破裂しそうなほどに波打つ。視界が真っ白になる。
そんなわけない。わたしに会うまでせんぱいは、わたしの計画では……!
計画が、失敗していたら?
今さらながら、その可能性がどうしようもなく頭によぎる。手紙の通りになっていたとしたら。いや……そんな……はずは……!
「緒歳先生から連絡が来たよ。朝から瑠奈ちゃんの姿が見当たらないって。八雲のために、って思ってたけどその格好……ただ遊んでただけなんだね」
「ち、ちがっ、わた、しは……!」
急激に力が入らなくなりその場に崩れるわたしに、今井さんの蔑む声が突き刺さる。
「ちがう……ちがう……! わたしは……せんぱいのために……」
「死にたがってる八雲のために、ね」
「ちがうぅぅぅぅ……!」
ちがうちがうちがう……! せんぱい、せんぱい、せんぱい……!
わたしは、また――!
「わたしは……せんぱいと……」
「……これ。八雲からの手紙。受け取ってあげて」
震えた手と霞む視界の中、なんとか手紙を開く。せんぱいからの、最期の言葉を……え?
「ドッキリ……大成功……?」
ドッキリ……え? ドッキリって……どゆこと? それしか書かれてないよね……え?
「せんぱい……?」
「今度は俺の勝ちだな」
おそるおそる病室の扉を開けると、そこにはいた。やつれた顔に笑みを浮かべて、勝ち誇っているせんぱいが。
「ついていい……嘘と……だめな……嘘が……!」
「俺たちの戦いにそんなのないだろ」
「そうだけど……ばかぁ……!」
思い出したかのように涙が溢れてくる。完全に、やられた……!
「まぁそもそも亡くなったなんて言ってないし」
「実際手紙とか服装とかあんまりよろしくないしね」
立花さんと今井さんがわたしを引っ張り病室へと入れる。この2人、せんぱいのグルだったんだ……。
「ごめんね、瑠奈ちゃん。昨日八雲に電話されてさ。言ったよね、こっちも色々やるって」
「瑠奈の手紙、感動したよ。でもやりすぎだよな。あそこまでクサかったらメンタル弱ってても流石に気づく。色々仕掛けてきてるって。だから今井さんに昨日の内に頼んでおいた。瑠奈が接触してきたら一芝居打ってくれって」
あぁ……もう……完全に読まれてた。その上で上をいかれた。
「せんぱい……わたし、死んでほしくない。ずっとあなたと一緒にいたい」
わからされた。
「わたしが幸せにしてみせます。だから」
わたしの、想いを。
「わたしと、付き合ってください」




