第4章 第9話 先先後
「八雲の……後輩……?」
わたしが電話をかけたのは、せんぱいの2個上の先輩。動画では何度も見たのに実際は初対面というのが変な気分だ。会ってはいないけど。
「今電話大丈夫ですか? できれば立花さんには聞かれたくないんですけど」
「ちょっと待っててね……。花音、ちょっと大学の人から電話だから……浮気じゃないって! そもそも付き合ってないし……抱きつかない! まて! そうそうまてしててね……はいオッケー」
どうやら立花さんがあっちにいるのと、ベタ惚れというのは本当らしい。家から出たのか扉が閉まる音がしたのでもう大丈夫なのだろう。
「せんぱい……久司せんぱいの話はどこまで聞きましたか?」
「刺されて自殺未遂したってとこまでは……ううん、ごめん。たぶん全部聞いてるよ。あたし緒歳先生と仲いいから」
最初は情報を絞ろうとしたのだろうが、そういうのはいいと判断したのか全てを明かしてくる今井さん。せんぱいの後輩ということで信用はされているのだろうか。ちょっと試してみよう。
「わたしのことはどこまで聞いていますか?」
「八雲からよく相談されてたよ。花音からもね。情報源が2つあったから性格もわかってるつもりだよ。猫被らなくていいからね」
「そうですか……ありがとうございます」
どうやら筒抜けらしい。なんか恥ずかしいな。立花さんが愚痴っている姿は想像できるけどせんぱいはなんて言ってるんだろう。
「それでですね、せんぱいの話ですが……いいえ。直球で行きます。明日、せんぱいのところにお見舞いに行ってもらえませんか? 立花さんを連れて」
「うーん……ちょっと考えさせてもらっていいかな。あたしも早くお見舞いに行きたいって思ってるんだけどさ、花音のメンタルが少し心配でね。今八雲が自殺未遂したなんて聞いたら後を追いかねなくて……」
「行ってさえくれればわたしが全部解決してみせます。これを聞いてもダメですか?」
「直球で行くって言ってなかった? 花音を当て馬にしたいんでしょ?」
わ……ばれてる……。さすがせんぱいの先輩の先輩……。
「はい……そうです。立花さんには悪いんですけど……」
「いやいいよ。花音も後輩離れさせなきゃいけないし、いい機会かも。ごめんね、あたしも八雲も花音をずいぶん甘やかしちゃったから迷惑かけてるよね」
「いえ……まぁ、はい……」
「はは、了解了解。お願いは花音を明日八雲のところに連れていく、だね? 了解した。じゃあ高校の授業終わり……17時頃に行くから」
「はい、お願いします」
意外とすんなり話通ったな。イメージだともっとしたたかな……。
「その代わり、一つ条件」
「はい? なんですか?」
訊くと、一言。
「大事なのは君の作戦じゃなくて八雲を立ち直らせること。だからこっちも色々やるけどそこは許してね」
つまり今井さんも何か考えがあるのか……問題ない。手紙の下準備がある以上せんぱいはわたしのことしか考えられないはずだ。
「じゃ、そういうことで。また明日ね」
「はい、お願いします」
よし。これで完璧。待っててくださいね、せんぱい。わたしが助けてあげるから。




