第4章 第6話 報せ
〇八雲
「久司、入るぞ」
有栖が来た次の日。前日に引き続き緒歳先生が俺の病室にやってきた。
「先生、来てくれるのはありがたいんですけど仕事は大丈夫なんですか?」
「お前が自殺なんてしないって言ってくれれば仕事に集中できるんだけどな」
「じゃあ俺が死ねば全部解決ですね」
「相変わらず口が減らないな。お前もよく立花に似たよ」
「先輩と俺を一緒にしないでくださいよ。俺なんて先輩の劣化版でしかないんだから。俺じゃなくて先輩が先輩だったら瑠奈ももっと幸せに……」
「……悪かった。それよりお前にお客さんだぞ」
先生がそう言うと、3人の女子が病室に入ってくる。
「鎌木、鍬形さん、珠緒! ひさしぶりっ!」
「……ひさしぶり」
「ずいぶんやつれてますね。ちゃんとごはん食べられてるのですか?」
「これ……お見舞いのフルーツバスケットです……」
フルーツバスケット二つになったな……。ていうかせっかく来てくれたというのに顔が暗い。ほんとは来たくなかったのに無理矢理来させられたのか?
「本当は剥いてあげたかったのですがナイフは没収されてしまって。あなたの自殺に利用されかねないからだそうです」
「先輩お願いだからこの場では空気読んで……?」
鎌木は鍬形さんをたしなめると、頭を下げずに言う。
「ごめん。あんたがいじめられてるの知ってたのに止めなかった。……なんて謝られるのも嫌だろうけど、言わないとと思って」
「いやいいって別に。鎌木のおかげで今までたいした問題を起こさずに済んだんだから。それに色々動いてくれてるのも知ってるしな」
「そう……だけどさ……」
鎌木の歯切れが悪い。何を言うべきなのかわからないんだろうな、お互い。まぁこの人には関係ないんだろうが。
「それにしてもなんで自殺なんてしたいのですか? そんなに辛いことありました?」
「ごめんこいつすぐ追い出すからっ!」
「いいって鎌木。いや、なんなら帰った方がいいか。俺は大丈夫だから心配しなくてもいいよ、珠緒」
そう声をかけると、珠緒は暗い顔をさらに俯かせた。
「あるあるだよな。先輩の知り合いのところに連れてこられてもいやこいつ誰だよってなる現象。鎌木も後輩を面倒な場に連れてこさせるなよかわいそうだから」
「……私と先輩は、仲良くないんですか……?」
ようやく珠緒が口を開く。まぁそれは……。
「ごめん、俺コミュ障だから会って1ヶ月くらいの人とはあんまり話せない……」
「……部屋に遊びにいって、同じ委員会に入って、一緒に剣道をしたのにまだたりませんか……? 関わりだけで言えば瑠奈さんよりも広いはずなのに……」
「いや瑠奈は直接の後輩だし、色々ダメダメだからな。俺が面倒見てやらないとって思うけど……珠緒はさ。真面目だし、俺がいなくてもなんとでもなるだろ?」
「やっぱりいつの時代もそうですね……。女の子って、少しお馬鹿なくらいがかわいいですもんね……」
うーん……珠緒の言いたいことが見えてこない。薬のせいであんまり考えることもできないし……。
「とりあえず俺が死ねば珠緒は元気になる?」
「なんでそうなるんですかっ!」
怒られた……。そして、泣かれた。
「わかってるんですよ……勝ち目がないことくらい。でもあなたもそうなんじゃないんですか……? たとえ選ばれるのが自分じゃなくても、幸せになってほしいと思うのが、恋なんじゃないんですか……!?」
恋……? 今恋愛の話してたか……? 何か勘違いしているような……。
「先輩、私はあなたに幸せになってほしい。だから……!」
「それは無理なんだよ、珠緒」
でもこれだけはわかる。俺に幸せになる資格なんてないってことだけは。
「珠緒。知ってるかどうかわからないけどさ、俺、人殺しなんだよ」
「それは……比喩とかではなく……?」
「ああ。俺が木刀で人の頭を殴って撲殺した。殺人犯が幸せになっちゃいけないだろ?」
「そ……うかもしれませんが、でも……!」
「珠緒、少しの間だけど剣道ができて楽しかった。俺にはもったいないくらい幸せだった。ありがとな」
「先輩……ならせめて、私の想いを……!」
「ごめんなさい……少しお邪魔させてください」
珠緒の言葉を遮り、2人の女子が部屋に入ってきた。雑木と……えーと、確かその先輩の五色莉羅。俺のクラスメイトだと思う。仲は全然良くないどころか嫌われてるけど。
そんな俺のことが嫌いな2人がなんでわざわざお見舞いなんて……貶しにきたのか……?
「今日はあたし自身の謝罪と、お手紙を届けにきました。金銅さんの、お手紙です」
「瑠奈の……?」
その報せはみんなには申し訳ないけど、今日で一番嬉しかった。




