第4章 第4話 死の理由
「こんにちはぁ、きちゃいましたぁっ」
「…………」
有栖ちゃんたちから話を聞いた後、わたしは事件の発端ともなった文芸部の部長でありオタサーの姫、五色莉羅さんの部屋に訪れていた。
「ど、どうしたのかなぁ、瑠奈ちゃん。根本くんとリラは関係ないんだけど……」
「あぁあなたが原因でせんぱいが殺されかけた話をしに来たんじゃないんですよ」
「いやだからその……ごめんなさい……」
「なんて。冗談に決まってるじゃないですかぁ。五色さんは関係ありませんよぉ。……雑木羽衣。出してください」
そう。わたしの目的は同じクラスの雑木さんだ。あの日、なぜかせんぱいと一緒にいた1年生。そしてせんぱいが刺され病院に運ばれた後、それこそ立花さんにも負けないくらいに取り乱していた。
刺された瞬間のやり取りといい、せんぱいと何かしらの関係があるに違いない。わたしが知らされてないってことは、わたしに知られたくないことがあったということだ。ここにわたしの知らないせんぱいの姿がある。
「雑木さん、少しいいかな」
五色さんに許可をとり下のベッドのカーテンを開けると、雑木さんはヘッドホンで音楽を聴きながら顔だけ出して布団にくるまっていた。何かから身を守るように。
「……金銅さん、だっけ。どうしたの……?」
雑木さんが動揺に満ちた視線を向けてくる。あの事件が起きるまでの雑木さんの印象は、一匹狼のヤンキーだった。
鋭い視線に派手なオレンジに近い髪色。休み時間はヘッドホンで音楽を聴きながら窓の外を眺めており、話しかけるなオーラばんばん。正直怖かった。
でもあの事件が起きてから雑木さんは時々頭を抱え、見てわかるくらいに怯えていた。人が刺された現場を見たからそのせいと周りは思っていただろうけど、わたしだけは。こいつはせんぱいを恐れているのだと思っていた。
でも素直に訊いたところで正しい情報を教えてくれるかはわからないし、確かめる術もない。せんぱいならこういう時どうするのだろうか。やるとしたら……。
「せんぱいが自殺したそうなので、わたしも死のうと思うんだ」
「っ」
自虐、かな。直接教わったわけではないけど、せんぱいはそれで相手の反応を見ていたんだと思う。そんなこと目の前で言われたら何かしらのフォローをしなくちゃいけないわけだし。と思ったけど雑木さんは……。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
頭を抱え、ひたすらに謝罪の言葉を述べていく。わたしは謝られることなんてされてないし、だとするとせんぱいに対してか。
「遺言、って言うのかな。せんぱい、あなたのこと書いてたよ。あんなことするなんてどういうつもりだったの?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 怖くてっ! 動かなくなっちゃってぇ、血が出てきてぇ……! 殺しちゃったって気づいたら……もう……わけわかんなくなっちゃってぇ……。罪を認められなくて、あたし悪くないのにって思って、パパに言ったら、全部あの人のせいになっちゃってたのぉ……。ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃぃ……!」
適当なカマかけのつもりだったけど、どういうことだ。殺しちゃった? あの人のせい? せんぱいのこと?
「せんぱいは……人を殺してない……?」
だとすると、わかった。人を殺したのがせんぱいでなく雑木さんだとしたら。せんぱいがこんな泣きながら謝ってる姿を見たら。どうするかなんて決まっている。
人を殺したら賠償金を払うはず。でも過剰防衛で相手が犯罪者ならたぶん、そこまでにはならない。そして殺されかけたら示談金、的なやつをもらうはず。先生から聞いたけど、せんぱいは根本の両親からも殺されかけたらしい。だとすると、確定的だ。
「せんぱいの、ばか」
自殺する理由ができた。迷惑をかけた親に金を遺せた。ちょうどよかった。
せんぱいは雑木さんの罪の意識を軽くするために死のうとしたんだ。




