第4章 第1話 心
「久司、調子はどうだ?」
「緒歳先生! おひさしぶりです!」
俺の病室に担任の緒歳先生がやってきた。お見舞いとしては5人目。そしてやっと来てくれてうれしい人の来訪にテンションが上がる。
「ほら、フルーツバスケット。何が食いたい?」
「なに言ってるんですかナイフも持ってないのに」
「ああ……そうだな……」
先生はリンゴやらが入っているフルーツバスケットをテーブルに置くと、椅子を持って俺の顔の横に座る。
「調子はどうだ?」
「んー今は大丈夫ですかね。入院も一年ぶり二度目なんでそんな困ってませんよ。1ヶ月くらいで退院できるみたいですしね」
「そうか……。それは……それは……」
普通に話していると、なぜか先生の瞳からぽろぽろと涙が零れ始めた。
「久司……ごめん……。私がもっとちゃんと見ていれば……!」
「いやなに言ってんですか! 先生は何も悪くないですよ! 悪いのは全部俺じゃないですか! なので死んでお詫びしますから安心してください!」
「久司……久司ぃ……」
なんだろう。大人の女性ってどうやって慰めればいいんだ? すごい困るな。
「……先生、少しいいですか?」
困っていると、病室の扉が開いて主治医の梅村先生がやってきた。若くて美人な大人の女性2人に囲まれて少し緊張してしまう。
「ここではなんなので別室で……」
「は? ちゃんと見ろよ先生泣いてんだろ。そんな状態の人に外を歩かせるな」
「……そうだね。じゃあここでお話しよっか」
梅村先生が緒歳先生にハンカチを渡し、その隣に腰かける。
「先生……久司は……」
「先程伝えた通りです。それなりに危険な状態でしたが、1ヶ月ほどで退院できます。脚も歩けなくなるほどの負荷は負っていない。とりあえずは大丈夫だという話は伺っています。ですが問題は私の専門でしてね」
梅村先生が俺の方をチラチラと確認しながらも伝える。
「これも先程伝えましたが、久司さんの精神状態が非常に不安定です。それも話を聞いた限りでは中1の頃から、4年間ずっと。それが今回の出来事で限界を超えて、2度の自殺未遂を起こしました」
俺が死にかけたのはあれから計5回。1度目は普通に刺されたことで死にかけ、その後は面会解禁直後に根本の母親から俺のせいで息子が捕まったとボコされ、2度目。さらに息子と妻が捕まったと父親からボコられた。
そして動けるようになってから窓から飛び降り、4度目。病室が2階だったのと無意識に受け身をとってしまったので生き残ってしまい、次は首吊りをと電灯に縄を括りつけたが、途中で電灯が外れてしまい5度目となる。
それから俺は個室に移され、ベルトで四肢と胴体を固定され全く動けなくされてしまい、今に至っている。
「今は薬を飲ませて精神が落ち着いています。ただ勘違いされたくないのが、薬は性格を変えるものではなく、性格を元の状態に戻すもの。先生は驚いたでしょうが、本来の久司さんは明るく、感情の起伏が激しい人間だったようですね。それが度重なる不幸で徐々に崩れていったと思われます」
なんか緒歳先生、すごい泣いてるな……。どうにかして慰めないと……。
「先生、大丈夫ですよ。だって俺が死ぬのって当然のことじゃないですか。人殺しで、脚に障害を負っていてまともに動けない。好きだった剣道もできなくなったし、好きな人は俺がいなくなれば好きな人と結ばれる。後輩は俺がいない方がいいみたいだし、勉強だって全国で見たら上の下から中の上レベルでしょ? なんかもう、生きててもしょうがないじゃないですか。今までは親に人殺しの賠償金を返さなきゃって思ってがんばってたんですけど、示談のお金で余裕でおつりが出るみたいだし、親からも直接どうせなら死んでくれたらよかったのにって言われたし。だから俺に生きる価値がないのは当然だし、先生が気に病む必要はないですよ!」
そう当たり前のことを教えてあげると、先生がさらに泣き出してしまった。どうすればいいんだろうな。
「精神科医の身からすれば精神病棟に入ってもらうのが一番いいと思うのですが、ご両親からは息子にかける金はないから早く退院させろと言われましてね。最低限怪我が治るまでということで話はつけましたが、ここから先は学校で対応してもらうしかありません。未成年ですし、保護者の意向に反するわけには……」
「なら私が養子として引き取って……!」
「先生、落ち着いてください。現実的な話をしましょう。久司さんは学校でいじめなどを受けていますか?」
「それは……はい……」
「把握していてなぜ対応をされていないのですか? それがこの状況を招いたと言っても過言ではありませんよ」
「申し訳ありません……。久司はいじめに屈する人間ではないし……私や彼の先輩がフォローしていたから致命的なことにはならないと……。それに、自分のことで他人が処罰を受けるのを嫌がる生徒ですので……久司の強さに甘えていました」
「……確かにそう思ってしまうものなのかもしれません。ですが心の負荷は積み重ねで負うものです。一見大丈夫そうに見えても、何度も何度も悪意を向けられれば心は壊れてしまいます。……そして極端な自己犠牲はリストカットと同じです。自分を傷つけることで精神の安定を図ろうというもの。そのSOSに気づいてあげていればこんなことには……」
「すいません……。本当に、申し訳ない……」
……なんで、先生が怒られてるんだ。悪いのは全部、俺なのに。
「緒歳先生を責めるんじゃねぇよ!」
「……そうだね。私が悪かった。とにかく様子を見ましょう。なるべく久司さんと仲がいい子をお見舞いに寄越してください。久司さんの心の問題は、自己肯定感の欠如に原因があります。自分が必要な人間だと、生きていてもいい人間だと伝え続けてあげてください。今風に言うとわからせる、という感じでしょうか。それだけで久司くんは救われるはずです」
「……わかりました。私も全力で努力します」
なんだか心がふわふわしていてよくわからなかったが、とにかく。緒歳先生を泣かしているのは俺だということはよくわかった。
やっぱりそうだ。俺は死ぬしかない。どうにかしてみんなにわかってもらわないと。
ここが最暗です! ここから明るくしていきます!
そしてこれは特定の病気を揶揄するものでありません。あくまでもメンタル弱ってるよ程度で考えていただきたいです。デリケートな問題ですし、知識もあまりないもので、不快な思いや間違った対応を書いていたら申し訳ありません。わからせるをテーマとしたフィクションとして捉えてください。
何が言いたいかというと、ブクマ剥がさないでね! ということです。必ずハッピーエンドにするので!




