第3章 最終話 ハッピーエンド
「はぁ……っ、はぁ……っ」
腹が焼けるように痛い。様々な部位が1秒ごとに軋む。口から零れる血の味が不快だ。
「ああああああああっ!」
俺の腹を包丁で突き刺した根本は、右手首を掴まれた痛みで一心不乱に俺の身体をぶん殴っている。俺の右手には包丁があるし忠告もしたのにずいぶん馬鹿な行動だ。
いや、逆に頭がいいのか。俺は殺されようが傷つけるつもりなんてないんだから。
「やだ……やだぁ……」
後ろから先輩の泣き声が聞こえてくる。最期の時に先輩の声を聞けるなんて俺には贅沢過ぎる結末だが、そう呑気に構えているわけにもいかない。
「せんぱいは……わたしが……!」
「やめ……ろ……」
雑木から奪い取ったのか、瑠奈が根本の横で杖を振り上げている。せっかく俺が引き止めているのにこんなことをされたら台無しだ。何より瑠奈を犯罪者にさせるわけにはいかない。
……これだけ殴られてたら、他の一撃なんて誤差だ。俺が根本を庇えば瑠奈は……。
「せんぱいから離れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「だめぇっ!」
最後の力を振り絞って動こうとしたその時、瑠奈の手を雑木が掴み上げた。
「それだけは……この人の前でそれだけは……やめて……」
雑木……なんだよ……クソ……。悪人だったら恨めたのにな……これじゃあ許すしかないじゃないか。
「この2人はあたしが死んでも守り抜きます。……これでいいんですよね」
もう目は霞んでほとんど何も見えないが、1つの足音と2つの何かを引きずる音が離れていく。
「やだ……やだぁぁぁぁ……」
「せんぱい……わたしは、まだぁ……っ」
そんな声と一緒に。俺の傍からいなくなる。
「はは、は……」
これで本当の完全勝利だ。たぶんあと1分は持つ。これだけ足止めできたらさすがに逃げ切れるだろう。
それにしても、痛い。先輩たちもいなくなったし、どこか適当に刺せば少なくとも殴打は止むだろうか。なんて、そんなこと俺にはできないんだけどな。
俺は人を殺したということになっている。本当は殺していないし傷つけてもいないのにだ。
だから……ちっぽけな自己主張だ。俺は殺されても殺さないと。本当は人を傷つけていないのだと、世界に言いたかったんだ。
そんなことを思っていても誰にも伝わらないと思う。親や先輩でさえも俺が人を殺したことを疑っていない。だからその過去が変わることはない。
そう。過去は変わらないんだ。何をしたって、変わらない。俺が人を殺した過去が消えることはない。積み重なって今の俺を形作っている。生きている、限りは。
そんなの、嫌だった。殺人犯なんて過去を背負って生きたくなかった。だからこれはハッピーエンドだ。
瑠奈はもう1人でも大丈夫だし。俺がいなくなれば先輩は森夏さんと付き合えるかもしれない。そして俺は、死ぬことで失敗と後悔しかない過去を消せることができる。しかも大切な人を守れたという名誉までもらってしまった。こんなに幸せなことがあるだろうか。
心残りがあるとしたら1つだけ。瑠奈は俺のことを忘れられるだろうか。
「むり、だな……」
だって俺は、瑠奈をわからせてしまったのだから。
これにて第3章終了です! ハッピーエンドですね!!!!!
ちなみに言えば全然八雲は生きているのでエンドにはなりません。そう簡単に死ねると思うなよ。
ということで第4章は入院編です。なんか最近暗い話ばっかりなので明るい感じでいきたいと思います! 一応ラブコメ、ラブコメディなので!
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ここからはトゥルーハッピーエンドへと続く物語になります。どうか最後までお付き合いください。




