第1章 第6話 コミュ障
「ここが食堂。基本的にバイキング形式で朝から晩までやってる。ここの飯は無料だけど、ちょっといいのを食べたかったらカフェとかレストランもあるから。あ、ちなみに完全キャッシュレス。スマホにアプリ入れとけよ」
朝食のピークが終わり、比較的人の少ない食堂に瑠奈を連れてこさせる。入れても一学年分くらいの大きさだから、結果オーライと言えばその通りだ。
「はいっ。ありがとうございますっ、せんぱいっ」
「…………」
それにしてもこいつ……めちゃくちゃ猫かぶるな。昨日の朝に見せたあの人当たりのいい気持ち悪い笑顔を浮かべて猫なで声を出している。
それに加えて服装もうざったい。白いブラウスに、大きな胸と細い腰が強調されるようになっているミニスカート。さらにニーソックスまで履いてしまい、完璧な童貞を殺す服になっている。あざといなんてレベルじゃない。
「じゃあ俺帰るから。何かあったら連絡しろよ」
さっそくいつも通りパンをいくつか持ち込んだトレーに乗せ、立ち去ろうとする。が、
「え~? せんぱい帰っちゃうんですか~? 一緒に食べましょうよ~」
笑顔の瑠奈に止められてしまう。でも本心では「さっさと帰れクソ陰キャ」とか思ってそうだな……。
「俺は友だちがいない。だからあんまり人が集まる場所にいたくない。1人だとプライドが傷つくなら知り合いの女子んところに預けるけど」
「そうなんですね~」
瑠奈が相変わらずの笑みを浮かべながら周りをキョロキョロと確認する。そして誰もいないことを確認すると。
「え~? せんぱいボッチなんですか~? だっさ! だからって後輩相手にイキんないでくださいよー気持ち悪いから!」
さっきまでとはまた種類の違う笑みで俺を馬鹿にしてきた。部屋に帰ったら覚えとけよ。
「とりあえず俺は行く。そこにいる……ごめんなさい」
瑠奈に意識を向けていたせいで誰かとぶつかってしまった。
「あ? あぁ久司じゃねぇか」
「…………?」
誰だこいつら。チャラそうな男2人……たぶん2年と1年だろう。となると今しゃべった方が同期か。なんか去年同じクラスだった気もするけどよく覚えてない。
「紹介するぜ。こいつは久司。根暗で陰キャなコミュ障野郎だよ」
「あーぽいっすもんね! 表情がもうそんな感じっすもん!」
馬鹿にされてるなぁ……。まぁ別にいいけどさ。
「ぶつかって悪かった」
だからさっさと朝飯食いたかったんだ。遅くなるとチャラい奴増えてくるから。まぁなんにせよこんな奴らに構うメリットはない。さっさと帰ろう。
「なんだよずいぶんビビってんじゃねぇか。そりゃそうか。花音さんに守ってもらわなきゃなんもできねぇ奴だもんなぁ、お前は」
「まぁな」
ほんとあの人はいてもいなくてもめんどくさい。先輩に出会ってなかったらこの喧嘩も買えたんだけどな。
「まぁいいや。そこのかわいい子、久司のルームメイトだろ? こんなつまんない奴より、俺たちと……」
「おい」
ほんとめんどくさい。先輩と出会わなければこんな喧嘩、買わなくてよかったのにな。
「俺の後輩に手出してんじゃねぇよ」
帰ろうと思っていたのに、ほとんど無意識にこいつの腕を掴んでいた。
「あ? 女の前だからってかっこつけてんじゃねぇぞ雑魚が」
「違うな。お前と同じだよ。後輩の前だからかっこつけないといけないんだ」
チャラ男の眉がピクリと動いた。普段何言っても言い返さない奴がいきなりこんなことしてきたらそりゃむかつくか。それならそれでいい。煽り甲斐があるってもんだ。
「思い出したよ。確か先輩に振られた奴だよな。相変わらず分不相応なことしてるんだな。もう1年だぞ? 恥ずかしくないのか?」
「あ? てめぇ俺に喧嘩売ってんのか?」
「いやいやただの雑談だって。よくあるんだよこういうの。部屋割りってさ、性格的に補完されるようになってるんだよ。でも全部が全部そうできるわけじゃない。たとえば自分の格もわかってないゴミ2人が同じ部屋になったとするだろ? そういう奴らは学校から切り捨てられてるってことになるんだよ。どうせなんも成長しないゴミなんだからどうなってもいいってな」
「てめぇ俺らのことゴミって言ってんのか……!?」
「いや俺が言ってるんじゃなくて学校が言ってるんだって。そんな気になるなら聞いてきてやろうか? ゴミがゴミって自覚ないゴミなんですけどどうしようゴミ~って」
「てめぇぇぇぇっ!」
やっぱゴミだなこいつ。なんも考えなしに……いや、考えてこれなのか? 俺の顔面を殴ってきやがった。
「ごめん、瑠奈。怖い思いさせたな。ちょっと離れてろ」
「い、いえ……」
吹き飛ばされ床に転がったのをいいことに瑠奈に伝える。怯えた顔は演技……じゃないか。この距離なら演技しなくてもいいもんな。
「下着見えてるから離れた方がいいぞ」
「きゃっ……!?」
瑠奈がスカートを抑えて離れてくれた。準備完了。何が起きても瑠奈は関係ない。
「ちょっとあんたたち。その喧嘩、生徒会が預からせてもらうから」
ずっと遠くからチラチラこちらを伺っていた同級生、鎌木凛が駆けつけてくれた。




