第3章 第19話 拒絶
〇八雲
ゴールデンウィーク前日。部活動入部最終日もとい、簡易的な文化祭である歓迎会が始まった。
上級生は部活ごとに出店や勧誘を行い、1年生は適当に流しながら遊んでいる。去年は先輩と仲が悪かったし、剣道部に入っていたので見たことがないイベント。ちなみに俺は1人で道場で稽古していた。
だがそれは今も似たようなものだ。生徒会は見回り担当だが、脚のせいで何もやることがない運営本部で1人スマホをいじっている。
本当にやることがないので後々瑠奈と有栖の面倒を見に行くが、その前に一つ。終わらせないといけない仕事がある。
俺が喧嘩を売ってしまった文芸部の五色莉羅さん。ただ険悪なだけならそれでいいが、相手が悪質なタイプなため、関係改善をしなくてはならないのだ。
だが直接話をつけるのはおそらく無理。ということで五色さんの同室の後輩である雑木羽衣に接触するよう先輩から言われているのだ。
正直これも無茶振りと言えば無茶振り。だが誰にも話していないが、俺と雑木羽衣は知り合いではないが、全く関係のない相手というわけでもない。だから見つけさえすれば何とでもなる。そして、見つけた。
「少し話いいかな?」
俺は運営本部近くを通った彼女に声をかける。オレンジに近い茶髪に、大きめのパーカー。スカートも学校の制服ではなく、靴もゴテゴテとしている。不良、とまではいかないがそういう系統の人種であることは想像がつく。いや、そういう風に見せかけているというべきか。
「……なんですか?」
そしてイメージ通りに、つり目を細めて睨んでくる雑木羽衣。まぁいきなり知らない男に話しかけられたんだから警戒するのは当然か。ましてや過去的にも仕方のないことだ。
正直この話をすることは憚られる。でも先輩の頼みだし、何より俺自身もこのことに何の恨みがないわけでもない。
なので伝える。俺の名前を。
「久司八雲、って言えばわかるか?」
それだけ言うと雑木羽衣は目を大きく見開き、顔を白くし、ガタガタと震え始めた。よかった、知っていてくれて。
「あ、あぁぁあの、すみま……」
「ここじゃ目立つ。部屋……密室はだめか。行きつけの喫茶店があるからそこで話をしよう。今なら客もいないだろうし誰にも聞かれないはずだ」
杖を手に取り歩き出す。ノロノロとした足取りの俺の後ろをさらに遅い歩調でついてくる雑木羽衣。その鋭いつり目からは涙がボロボロと零れ、荒い息を吐いている。メイン通りから離れていっているので人がいなくて助かった。
「とりあえず確認だけさせてもらうぞ」
このまま過呼吸になられても困るので話を振ってみる。
「平似旭を殺したのはお前だな?」
訊ねると雑木羽衣は立ち止まり、そしてゆっくりと首を縦に振った。
「……そっか」
聞いて、大きくため息をつく。同時に少し、怒りも沸く。申し訳ないが一言くらい言っても構わないだろう。やられたことがやられたことだ。
「俺に殺人を押しつけた気分はどうだ?」
そう訊ねると大きく泣いてしまったので、俺は再びため息をつく。
「めんどくせぇ……」
もうお互い忘れてた過去だろうにな。なんでこんなことになったんだか。




