第3章 第17話 昔話の終わり
タブレットに残っていた最後のデータ。3月30日に撮影された過去が再生される。
『やっくんしゅきしゅき~! だいすきっ!』
いきなり、吐きそうになる。ソファーの上でせんぱいと立花さんが抱き合って絡み合っていた。
『ねぇやっく~ん、やっぱ離れたくない~。ちゃんと毎日花音ちゃんの部屋に来てね~? なんなら一緒に住んでもいいんだからね~?』
愛おしそうに、惜しそうにせんぱいの胸に顔をうずめる立花さん。でも、様子がおかしい。
『……そっすね』
せんぱいの顔が暗いのだ。いつもならそっけない態度を取りながらも顔は満面の笑みを浮かべているはずなのに。この日はたぶん立花さんが部屋を出ていく部屋だし、やっぱり寂しいんだろうか。
『知ってた~? やっくんの相方問題児なんだってよ~? 花音ちゃん心配! その子ね~?』
『そういうのは聞かないって決めてます。俺も後輩に人殺しだなんて知られたくないんで』
『え~? でも花音ちゃんやっくんがひどい目に遭うのやだ~』
『先輩の後輩ですよ? そんじょそこらの悪人には騙されません』
『そんな言い方されると花音ちゃんが悪人みたいじゃ~ん。こんないい子なのに~』
『いい性格はしてると思いますよ。……いい女だとも、思ってます』
せんぱいの顔を見上げていた立花さんの表情に突如焦りが見えた。
『ね~やっぱりずっと一緒にいよ~? 後輩なんてほっといても大丈夫だよ~』
『……俺が惚れた女は、そんなこと言わない』
『そんなことよりさ~大学! どうなってる? やっくん学年1位だし心配してないけど3人同じ学校行って同棲するんだからさ~……』
『嫌ですよ、先輩が他の男に言い寄られるのを見るのは。……そういうのを避けるために、彼氏を作っておくのもいいんじゃないですか』
『と、ところで……』
『先輩、俺と付き合ってください』
必死に話題を逸らす立花さんを逃さず、まるで普通の会話のように。せんぱいが立花さんに、告白をした。
『あ、この前お妙ね……』
『あなたのことが大好きです。絶対に幸せにします。結婚を前提に付き合ってください』
聞いて尚逃げようとする立花さんを、せんぱいの強い言葉が繋ぎ止める。
『……なんで、そんなこと言うの。わたしの気持ち、知ってるよね』
ついに観念した立花さんが、うつむきながらぽつぽつと言う。
『ここでわたしが断ったら、やっくんはどうするの?』
『先輩のことは諦めて別の恋を探します。少なくとも絶対に付き合えない女性のところに入り浸ることはありません』
『いやっ!』
告白の結果とは裏腹に、立花さんがせんぱいを強く抱きとめる。
『やだ……やだよ……。なんで……やっくんさえ諦めてくれたら……わたしたちはずっと一緒にいられるのに……。なんで、そんな恋愛に拘るの……?』
『……先輩のことが、好きだからです』
脚を怪我していても、腕力には関係ない。せんぱいが立花さんの腕を引き剥がし、杖を手にソファーから立ち上がる。
『俺は先輩の名前を呼びたい。先輩を俺のものだって周りに自慢したい。先輩と結婚して世界から認めてもらいたい。先輩の子どもをかわいがりたい。先輩と一緒に死にたい。先輩後輩の関係を終わらせたい』
コツコツという杖が床を叩く音が響く。まるで隣にいるこのせんぱいが、わたしのもとからいなくなってしまったような感覚だ。本当に、吐きそうになる。
『でも俺は一生先輩の後輩で、この関係が終わることはない。だから、しばらく別れましょう。俺はしばらく先輩とは会わない。この恋をちゃんと終わらせたいから』
『やだ……やだよやっくんっ! ずっと、一緒に……!』
ソファーの後ろの扉が開き、せんぱいは言う。
『……それは、無理でしょ。俺と先輩は夫婦にはなれないんだから』
そして、扉が閉じる。
『さようなら、花音』
最期の未練を、吐き捨てて。
クリスマスにこんな話を投稿するのもなぁ……と思い昨日はお休みさせてもらいました。ごめんなさい。
とりあえずこれで昔話編は終わりです。次回更新はひさしぶりのわからせマッサージ回です。暗くなった雰囲気を変えたいと思います!
最後にぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブクマのご協力お願いいたします! 停滞していて辛いです!




