第3章 第10話 もっと
「せんぱいっ!」
慌てて外に出ると、せんぱいは。
「なぁ。俺はなんでって訊いてるんだ。質問してるんだよ。どうして瑠奈を入れられないんだ?」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
五色さんを壁に追い込み、顔を近づけながら凄んでいた。
「だからごめんなさいじゃなくて。学校の規則で生徒の部活動への入部は理由なく保証されている。それなのに入れられない理由がなんだって訊いてるんだよ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
耳のすぐ横の壁に杖を勢いよく何度も何度もぶつけられ、音による身の危険を感じ小さくなる五色さん。おそらく……というか確実に、わたしを入れられないのは姫の座を脅かすから。そんなことを、今のせんぱいに伝えられる人はいないだろう。横顔しか見えないけど、横顔だけでも身が竦むくらいに、怖い。
「有栖ちゃん……」
「むりですむりですぅっ。怒ってる師匠を止められる人なんていませんっ。だれかたすけてぇぇぇぇっ」
中学時代何があったのかは知らないけど、有栖ちゃんの怯えっぷりは異常だ。それだけ、やばいのだろう。今の状況は。
それでもたぶん、立花さんなら止められる。あの人ならせんぱいの全てをコントロールすることができるだろう。
わたしはどうだ? たぶんわたしが見た中で、せんぱいが怒ったのは3回。食堂でナンパされかけた時と、剣道部のマネージャーになった時と、せんぱいを呼んだ時。最後を除いて全部わたしのために怒ってくれた。そして止めていない。全部せんぱいに任せてしまった。
だからわからない。わたしがせんぱいを止められるかどうかは。どうやって止めればいいのか、わからない。そもそも止めるべきなのかも……。
せんぱいはわたしのために怒ってくれている。その想いを無碍にするのは……いや。ここで示すんだ。わからせるんだ。せんぱいはわたしのものなんだよって。
「せんぱい……」
だからわたしはあえて怯え顔を作ってみせた。これが一番効果的だと思ったから。
「わたし……せんぱいの怖いところ、見たくないです……」
せんぱいはわたしのわがままを聞いてくれる。普通にやめてって言っても聞いてくれるとは思う。
でも今後のことを考えたら、これがいい。
わたしの知らないせんぱいの顔は、見たくない。
「…………」
わたしの声を聞き、顔を見たせんぱいは。目と口を大きく開き、絶望した顔を見せた。その顔にどんな感情があるのかわからない。この時点でわたしは失敗したと思った。
「――ごめんなさいっ!」
そして次の瞬間、五色さんに土下座をするせんぱい。その姿を見てわたしは思う。
わたしはあまりにも、せんぱいのことを知らなすぎる。なんであんな顔をしたのか。なんで土下座までするのか。なんであそこまで怒ったのか。
何もかもが、知らなすぎる。だからわたしは、せんぱいのことをもっと知りたいと思った。




