第3章 第6話 もやもや
朝起きると、せんぱいが女を連れ込んでいた。
カーテンの隙間から下を覗き込んでみると、ソファーに2人並んで談笑している。しかも相手にミニスカメイド服を着させてる……ほんとへんぱい。ん? メイド服?
「有栖ちゃんじゃん……」
すぐに相手の素性がわかったので、着替えてベッドを降りる。
「彼女がいるのにずいぶん堂々とした浮気ですねー、へんぱい」
「えっ!? 嘘だったんじゃないんですかっ!?」
「それで合ってる」
有栖ちゃんの反応を軽く楽しみ、洗面所で洗顔と歯磨きを済ませてからせんぱいの横に座る。
「それでどうして有栖ちゃんがいるんですか? こんな朝っぱらに」
「もう10時だけどな。有栖がまだ部活決めてないって言うから、ちょうど休みだし手伝おうと思って。瑠奈もまだ決めてないんだから付き合えよ」
「えぇー……。歓迎会あるんだからまだいいじゃないですかー……」
中学は帰宅部だったし、高校もそのつもりだったのに強制的に入らされるなんて……めんどくさい。
「瑠奈はどんな部活がいい?」
「楽でイケメンがいっぱいいるところ」
「清々しいな……」
なんかクズみたいに言われてるけど、実際興味ない人の部活選びなんてこんなもんじゃないだろうか。
「有栖は運動系がいいんだよな」
「はい! でもできれば師匠と同じ生徒会がいいです!」
「生徒会なぁ……。そんないいとこじゃないぞ。普通の学校と違って内申点にも関係ないし忙しいし偉くもないし。第一真面目なことやるから向いてない……まぁ俺も向いてないけどさ」
「そんなことありませんよ! 師匠はとても真面目な方ですからっ!」
「俺が真面目だった瞬間があったか? よく2人で授業サボってたろ」
「あれは学校側の要請です。サボった内に入りません」
「そんなかっこいいもんじゃないだろ。ただの喧嘩とか揉め事の仲裁だ。そもそも有栖一人でどんな問題も解決できたから俺何もやってないしな」
「いえいえ! それを言うなら師匠がいなかったらアリスもあっち側でしたし……全部師匠のおかげです!」
「俺がいても時々暴走しただろうが。今は警棒持ってないだろうな」
「ここは中学ほど荒れてませんし持っていませんよ。代わりにほら! 折り畳みの杖を持ってます! もしもの時師匠の助けにもなりますし、何より武器になりますからっ!」
「絶対使うなよいいか絶対だぞ。俺庇いきれないからな」
「安心してください! 師匠のためにしか使いませんっ!」
「俺のためにも使うなよ」
「そんなぁ……」
……なんだろう。せんぱいと有栖ちゃんの仲がいい。
いや、仲がいいのは知っていた。確かせんぱいが中3の時の付き合いだったはず。たった1年の付き合いで高校にまでついてくるのだから、相当深い関係だったのだろう。
だから当然といえば当然の光景。なのに、なんだろう、この胸のもやもやは……。
せんぱいの口調がいつもより自然体な感じで荒いし、顔もわたしと一緒にいる時より楽しそうだ。
いやだから……仲がいいのは当然なんだって……。わたしたちは出会ってからまだ1ヶ月も経ってないし、せんぱい昔は少し荒れてたらしいから、元々の口調がこんな感じなんだと思う。
だから、当然。そう。これは当然の出来事。仕方のない出来事なんだ。……でも。
「……せんぱい、色々見て回りたいんでついてきてください」
「え? あぁいいよ」
「アリスも同行します!」
有栖ちゃんもついてこようとしてるけど……なんか、やだ。
「わたし文化系の部活回りたいんだけど。有栖ちゃんもそれでいいの?」
「アリスは運動系がいいなぁ……。でも師匠が行くのならアリスも!」
「入る気もないのに見学するなんて失礼なんじゃないかな」
「そうなんですか? 師匠」
「まぁそうなんじゃないか?」
よし、勝った。
「ならわたしとせんぱいの2人で行きましょう? そうですねぇ……まずは文芸部がいいです」
「ああわかっ……」
「あ! それならアリスの先輩が所属しているのでアリスが案内しますっ!」
「…………」
そういうことなら……断る理由はない。
でも、なんだろう。この、消えないもやもやは。




