第3章 第4話 重い想い
〇瑠奈
せんぱいの元気がない。いやさすがにあれはかわいそうだったけど、それはそれとしてめちゃくちゃ元気がない。
夜7時にはベッドの中に消えたし、わたしに気を遣って電気をつけたままだったから、しょうがなくわたしも電気を消して寝るはめになった。
そしてそれだけ早く寝たら、当然夜中に目を覚ます。いや、ソファーの方からゴソゴソという音が聞こえてきたというのもあった。
「ん……」
とにかくメガネをかけて、カーテンを少し開けて下を見てみる。するとせんぱいがソファーに座り、テレビをつけながらタブレットを操作していた。たぶん画面ミラーリングをしようとしているのだろう。
ひょっとして……くふふ。立花さんのことを考えすぎて欲求不満になったんだ。だからこんな夜中にコソコソしてるんだ。
当然録画はするけど、この程度じゃ退学への武器にはならない。だから獣のような汚らしい欲望をせんぱいに送って辱めてやる……と思ったけれど。
『ただいま~』
画面に映し出されたのは、満面の笑みを浮かべる立花さんだった。
『あれ~? 撮ってる~?』
『先輩が……いつも思い出は撮っておきたいって言ってたから……思い出に……したくて……』
『え~? じゃあ花音ちゃんの誕生日覚えてくれてたの~? うれし~!』
立花さんが靴を脱ぎ、今わたしたちがいるこの部屋へと入ってくる。なんだか不思議な気分だ。この日常にわたしがおらず、立花さんがいるなんて。
……っていうか。せんぱいメンタル崩れたらこんなことしてるんだ。さすがに非常にドン引きだなぁ……。
しかもこれ、例の誕生日の話でしょ? たぶんせんぱいのことだから、あの話されたー……。でもあの時の先輩かわいかったなぁ……とかでやってるんだ。好きな人っていうか最早ファンの領域だ。
『先輩、なんか食べてきました?』
『たくさん食べさせられちゃったよ~。生徒会でやった後はクラスのとこ行って友だちのとこ行って先輩のとこ行って。ケーキ食べ飽きちゃったぜ~』
『そ……ですか。そう……ですよね……はは』
映像の中のせんぱいの声が震える。食べ飽きたって言ったものを手作りしてしまったんだ。顔は映ってないけど、相当辛い顔をしているに違いない。
『でも、じゃ~んっ。コンビニでちょっといいやつ買ってきちゃった~。やっぱりやっくんと食べたかったからね! コーラまだ残ってたよね~?』
『や! 俺が……とります』
今と全く同じ場所にある冷蔵庫へと向かった立花さんをせんぱいが引き留める。ここにケーキがしまってあるんだ。わかりやすすぎる。
『……やっくん脚痛いでしょ~? 花音ちゃんがやるよ~』
『いや……俺が!』
『もんどうむよ~!』
立花さんが冷蔵庫を開ける。そして取り出したものは。
『おっきい……ケーキ……』
それはウェディングケーキとはとても呼べないが、普通のホールケーキとは決して呼べないほどの、大きなショートケーキだった。
普段の……わたしと一緒にいる今のせんぱいなら、こんな馬鹿なことはしない。誰がどう考えても、こんなの食べきれるわけないって、わかるから。
じゃあわたしに会う前のせんぱいは頭が悪かったのかというと、そうではない。いや、頭が悪くなっていたのだろう。
恋は人を盲目にさせるという。普通に考えたらわかるものだったとしても、恋をしたら見えなくなってしまう。
せんぱいが立花さんのことを好きなことは知っていた。でもそれは、どちらかというと尊敬の意味合いが強いというか、なんというか。お世話になった先輩、としての側面の方が強いと思っていた。
でもこの、せんぱいの想いを形にしたかのような大きな大きなケーキを見てしまったら、嫌でも気づいてしまう。
せんぱいは異性として、本当の本当に立花花音さんに恋をしていたんだ。




