第3章 第3話 暴露
「久司くん、今の彼女さんが悪いとは言いません! しかし告白もせず、無理そうだから他の女性に切り替えるというのは彼女さんにも失礼です! 愛していたんでしょう? 好きだったんでしょう? 付き合いたかったんでしょう? その想いはどこにいったんですかっ!?」
「待ってほんと待って……!」
必死に止めるが鍬形さんは止まらない。その好きな人が隣にいるのに、めちゃくちゃに暴露してくる! 顔を手で覆って見ないフリをするが、その手が熱くて仕方ない。
「妙ちゃん先輩、八雲ちょっとした事情があるんだよ!」
「そうっ!」
鎌木が助け舟を出してくれたので乗っかることにする。こうなったらもう明かすしかない!
「俺と瑠奈は本当に付き合ってるわけじゃなくて……付き合ってるフリ? をしてるんです!」
「? なぜですか?」
「えと……わからせたいから……?」
「……? 意味がわからないのですが……」
「瑠奈の……成長のため……」
「それがなぜ交際に繋がるのですか?」
「俺だって説明できないよ……」
一応理屈で説明することはできるが、9:1でプライドの面が大きい。相手に負けないために付き合っているのだから。
「でもよかったです。久司くんが愛する女性を忘れたわけではなくて」
「あぁぁぁぁ……」
「お妙……その話やめない……?」
「わ、私歓迎会の話を聞きたいです!」
「いいえ、この際全て明かすべきです!」
先輩と珠緒が話を変えようとするが、空気がまったく読めない鍬形さんが止まるわけもない。
「その人は3年生なのでしょう? 一緒にいられる時間はあとわずか! 全員で協力して久司くんとその人をくっつけようではありませんかっ!」
「それはいい案ですね! なにかせんぱいとたち……その方のエピソードとかはないんですか?」
瑠奈のやつ……! 鍬形さんに同調しやがった……! 恥ずかしすぎて顔を上げることはできないが、きっとニヤニヤしているに違いない。
「では私が感動したお話を一つ。久司くんがその人の誕生日を祝おうとしていたんです。ですが我々は高校生。お金もないし、どこかに行けるわけでもありません。そこで久司くんはその人のためにサプライズでケーキを作ることにしたんです。私や凛さんが教え、久司くんが練習すること約2週間……。そして当日の朝、ようやく完璧なものが完成しました。しかしその人はとても友だちが多いそうで、久司くんのもとにやってきたのは夜遅く。しかもその人が自分でケーキを買ってきてしまった。とても自分のものなど出せない。そう思った久司くんは自作のケーキを隠そうとしました。しかし見つかってしまい、大ピンチ! 仕方なくその人にケーキを渡すと、その人はおいしいおいしいとうれしそうに食べてくれたんだそうです。その様子を見た久司くんはこう思ったそうです。こんな幸せそうな顔を見られて、プレゼントをもらったのは自分の方だと……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なにこれいじめっ!? 剣道部でされたいじめより、遥かに、痛いっ!
しかもこの話、めちゃくちゃつまらないっ! こんなオチもない話が通じるのは恋バナの雰囲気ができてる時だけ……! 今全員引いているこの空間でそんな話をしたらただの気持ち悪い奴だ……! 絶対に嫌われた……!
「体調悪いので帰ります……」
もう無理だ……辛い……耐えられない……。立ち上がろうとすると、左から誰かが耳の周囲に手を当ててきて。
「そんなに練習してくれてたんだね。ありがとう、すごいおいしかったよ」
「っっっっ」
そんな先輩の囁きを聞いたせいで余計居づらくなってしまい、俺は走れないので足早に生徒会室から立ち去った。




