第2章 第10話 マウント
「それじゃあ八雲の復帰を祝って、かんぱーいっ!」
キャンプファイヤーが終わり、風呂も入った夜。俺は生徒会用の部屋に赴き、旧生徒会メンバーと会っていた。
「なになにノリ悪くない? 八雲が生徒会に帰ってきてくれるんだよ?」
去年の生徒会は、俺、花音先輩。鎌木とその先輩、鍬形妙さんの4人。
「そもそもそれに納得していません。一度辞めたのに復帰したいだなんて、生徒会を舐めています。……まぁ久司くんの頼みだから特別に受け入れましたが、夜に男性を女性だけの部屋に入れるのは大問題です」
鍬形さんは生徒会唯一ともいえる真面目な人なので乗ってこないのもわかる。それに当事者の俺もこれには積極的に乗りづらい。
でもノリがいい……というか、空気を壊すことをしない花音先輩が乗ってこないのはおかしい。鎌木も空気読みすぎてそれに触れようとしないし、ちょっと空気が重い。
「どうしましたか? 夕食の前はとても元気だったではありませんか。なんでも久司くんの後輩と仲良くできたとか言っていて」
「馬鹿……」
だがさすがは鍬形さん。真面目すぎて全く空気が読めてない。鎌木も頭を抱えてるし……やっぱりそうなんだ。
「すいません……先輩。先輩のお願い無視しちゃって……」
「そうじゃない……」
先輩が俺の肩を掴んで顔を近づけてくる。でも、
「……先輩?」
「…………」
それだけでそれ以上近づけることもせず、布団の上に倒れて手足をバタバタとさせた。いつもならキスしてくるところなんだけどな……。やっぱりやらかしちゃったか。
「なにやってんの八雲……! そこは男らしく自分からしなよ……!」
「いやそれは駄目だろ倫理的に……」
鎌木が小声ながらも力強く言ってくるが、そんなこと許されるわけもない。というか、できない。
「でもあの子……瑠奈ちゃんにはしたじゃん……!」
「いやそれは……別に好きだからじゃなくて駆け引きだし……」
「なんで女子と1年間同棲してて女心がわからないの……!?」
「いやでもあれだから……。瑠奈とキスするの2回目だからそんなに……」
「ああああああああっ!」
先輩が何か叫びながら悶えている。かわいい。……いや本当にかわいいな。かわいすぎる。
「先輩……ん?」
先輩に声をかけるとほぼ同時に、扉がノックされる。先生だったら少しまずいか……? 緒歳先生なら大丈夫だろうけど……。
「どうぞ」
「失礼しまーす」
鍬形さんに促され、部屋に入ってきたのは3人の女子。
「瑠奈……有栖……珠緒……!?」
「珠緒ちゃんにここにいるって聞いたので、来ちゃいました」
何やってんだあいつら……一応ここ3年の部屋だぞ……!
「何の用ですか? 用がないのなら……」
「鍬形さん、大丈夫ですよ。久司先輩に確認したいことがあるだけなので」
鎌木繋がりで面識があるのか、珠緒が鍬形さんを抑える。そして部屋にいる許可をとると、瑠奈が一歩前に出た。
「せんぱい。立花さんと和解したそうですけど、これから部屋に来ることはありますか? わたしも気を遣わないといけないので」
「いや、来ない。お前の面倒を見るのは俺だ。そうですよね、先輩」
「……そうだね」
花音先輩に確認をとると、珍しく先輩が怒気のこもった瞳で瑠奈を見上げていた。そしてその瞳を俺へと向ける。
「やっくん、こっちきて」
「え? はい」
「せんぱい、こっちです」
「え? うん……」
「やっくん」
「いや後輩優先なんで……」
先輩が怒ってこようが、後輩を尊重する義務が先輩にはある。ていうかやっぱり怒ってるよな……珍しい……。やっぱ俺のせいか……。
「くふ。つまりせんぱいは立花さんよりわたしの方が大事、ということですね?」
「まぁ……そうだな」
「くふふ。それだけ確認したかったんです。先輩後輩関係を深めている最中に余計な邪魔者が入っては迷惑ですからね。それじゃあ立花さん、せいぜいがんばってくださいね」
何をしにきたかよくわからないままだが、瑠奈たちが帰ろうとする。でもそれは甘いよな。
「待てよ、瑠奈」
「ふぇ?」
去ろうとする瑠奈の手を引き、抱き寄せる。
「お前の言うことを聞いたんだ。次は俺の番だよな」
「ふぇ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
そしてまだ事態が呑み込めていない瑠奈の唇に、強引に口をつけた。顔は真っ赤。完全に不意を突いた。
「俺の勝ちだな」
甘かったな。手加減はしないって言っただろうに。こんな無防備にこっちのテリトリーに入ってきたら……。
「八雲ほんと馬鹿っ!」
「不埒です! 破廉恥です! 最低です!」
「……先輩? これは性犯罪ですよ? ここは同意の上が成立する私に……」
なんか鍬形さんの系譜にすごい責められてる……。いや当然か……。これは俺と瑠奈の戦いだから他の人には関係ない。裏を返せば普通に咎められることをしたってことになる。
「いやあのこれは違くてですね……」
「八雲こっち!」
鎌木が俺を引っ張り、部屋の隅に寄せる。
「あのね……今の瑠奈ちゃんはあんたじゃなくて花音さんにマウントをとってたわけなの。なんで瑠奈ちゃんにも攻撃しちゃうかな……」
「いやでも瑠奈は俺にしか……」
「女子はそういうもんなの!」
「そうなんですか……」
マジで全然わからん。なんで俺こんなに怒られてるんだ……?
「ほら上手いこと2人にフォローして!」
「フォローって……」
そう言われてもな……。
「次からは誰も見てないところでやります……?」
「「馬鹿っ!」」
「ぶへっ」
花音さんと瑠奈から枕を同時に投げつけられ、俺は床に転がった。




