第2章 第9話 チーム1年
〇瑠奈
ああああああああっ! やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! 人前で! しかもキャンプファイヤーなんていうイベントで! せんぱいと……キスをしてしまった。
後悔はしてる。でも反省はしてない。ああするしかないと思ったから。
あの女……立花花音。直接言ってはこなかったけど、たぶんわたしを邪魔だと思っている。
わたしを見るあの目。話している時は気づかなかったけど、あれは確実にマウントだった。せんぱいは気づかないだろうなぁ……女子特有のめんどくさいやつだから。
決定的なのは、せんぱいがわたしをパシったこと。絶対にあの女が関わってると思った。そしてせんぱいはその目論見に気づいていない。恋は盲目とはよく言ったものだ。普段は滅多に隙を見せないのに、あの時のせんぱいは心ここにあらずって感じだった。
だからもう、ああするしかなかった。せんぱいを1人の人間にするには、どれだけ恥ずかしいことをしてでもわからせるしかなかった。
だからあれはわたしの勝ち。わたしがせんぱいをわからせた。せんぱいの負け!
勝てばなんでもいいんだ。そう、なんでもいい。だから……。
「ねぇ金銅さん、さっき男の人とキスしてなかった?」
「あの人って久司って人だよね。いやー、お似合いだと思うよ。末永くお幸せに!」
クラスのゴミ共が何を言ってきても気にしちゃだめだ。
このオリエンテーションの部屋は、1クラスごとに男女で分かれている。だからひさしぶりにせんぱいと別れて寝ることになっていた。
つまりクラスメイトもひさしぶりに先輩から解放されて、調子に乗っている。わたしみたいなかわいい子がせんぱいのようなクソ陰キャと付き合ってると思って見下してきているのだろう。
でもなんだろう。不思議と嫌な気がしない。せんぱいと付き合ってると思われることが誇らしいわけではない。
ただ単純に、相手にならないんだ。あのむかつくけど的確にわたしの心に寄り添ってくるせんぱいと比べたら、こんな煽りなんて耳から耳に通り抜けるだけだ。
「でもすごいよねー。あんな人と付き合えるなんて。いや悪口じゃなくて……ねぇ?」
「うんうん。だってあの人って無抵抗の相手に暴力を振るって1ヶ月も停学になって、生徒会長に守ってもらってる人でしょ? いや……いい人だと思うよ? ねぇ?」
まったくあの人は……。その1ヶ月の停学って入院期間でしょ。そんな噂流されてるなら否定すればいいのに……。はぁ……めんどくさい。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、わたし別に久司さんと付き合ってないよ?」
でもちょっと、遊んであげようか。
「でもさっきキスして……」
「あぁ……そうだね」
フッと笑い、流し目で唇を撫で、言う。
「好きな人としかキスできないんだ。お子様だね」
演技は元から得意だった。でもそれはあざとかわいい演技だけ。自分でも自然とこういう雰囲気を出せたことに驚いてしまう。これもせんぱいを見ていたからだろうか。まぁあの人は表情の変化は下手だけど。
「そ……そうなんだ。大人だね……」
「ビッチだって思った? これくらい高校生……いや、中学生でも普通だって。あんまり人前でそんなかわいいこと言わない方がいいよ? ほら……恥ずかしいでしょ?」
「ご……ごめんね。ちょっと行くとこが……」
モブ共が焦りながら去っていく。結局わたしよりかわいい子なんていないんだ。かわいい女子は嫌われるけど、それは嫉妬心から。つまりやる前から負けを認めてる。そんな雑魚に負けることはない。
「へぇ。くわしく話聞きたいな」
「師匠のこと好きじゃないんですかっ!?」
だから厄介なのは、わたし並にかわいい相手。同じクラスの羽撃さんと地板さんが、怖い顔をして近づいてきた。
「私見てなかったけど先輩とキスしたんだ。へぇ」
「それで好きじゃない!? 師匠のことからかってるんですかっ!? やっぱりぶちのめすべき……!」
「ちょっ、ちょっと待って!」
羽撃珠緒さんと地板有栖さん。この2人を敵に回したくない。いや、味方にしたい。
「ちょっと近づいて。……あのね、わたしたち協力できると思うんだ」
小さく固まり、小声で声をかける。
「羽撃さんはせんぱいのことが好き。地板さんはせんぱいを助けたい。何か間違ってる?」
「間違ってないよ」
「その通りです!」
よかった。これなら協力できる。
「わたしはせんぱいをからかってる。でもこれはせんぱいのためでもあるの。せんぱいはわたしを育てたい。誰が相手でも優位に立てるようにしたいんだって。だからわたしのキスは、その成果なんだ」
大丈夫。話せてる。
「でもせんぱいの先輩……生徒会長が、厄介なんだ。その人はせんぱいを好きだし、せんぱいを困らせようとしてる」
「「は?」」
よし、乗ってきた。このままこのまま……!
「わたしは成長したい。羽撃さんは付き合いたい。地板さんは助けたい。でも1人1人の力じゃ、立花さんには勝てない。だから協力しよう。せんぱいのためにも」
わたしだけじゃだめだ。せんぱいを理由にすることで効果が生まれる。
「……本当に先輩のことが好きじゃないなら、いいよ。協力してあげる」
「師匠のためなら何でもしますっ!」
「よかった。じゃあわたしたちはチームだ」
金銅瑠奈。羽撃珠緒。地板有栖。
「わたしたちで立花さんを倒すぞー!」
「「「おーーーっ!」」」
3人の協力関係が始まった。




