第1章 第20話 プレゼント
「はいせんぱい。あーんっ」
「…………」
「あっれー? せんぱい朝ごはん食べないんですかー?」
「……お腹すいてない」
「えー? 昨日のお昼から食べてないのにですかー?」
「…………」
「わたしはせんぱいのためを思ってやってるんですよ? それなのにこんな無下に扱うなんて……しくしく」
「……ごめん」
「まぁまぁわたしもきつく言いすぎてしまいました。せんぱいが恥ずかしがるのも当然。こーんなかわいい美少女にあーんされて、照れない男なんているはずもありません。ねーせんぱい。意識しちゃったんですかぁ? 同室の、後輩の女の子を。いけないんだぁ」
「あああくそう……!」
ひさしぶりの激しい運動と古傷により、全身がほとんど動かなくなってしまった俺は、瑠奈による看護という名の嫌がらせを受けていた。
ベッドに寝た状態の俺の上に瑠奈が乗っかり、ごはんを食べさせてくれている……いや、俺はまだ食べてない!
「あのな……! 確かに筋肉痛だけど全然動けないってわけじゃなくて……!」
「確かにさっきトイレに行ってましたね、5分くらいかけて。でもー、歯磨きしてあげたのは誰でしたっけー?」
「……ありがとう」
「別にお礼なんていいんですよー? せんぱいが誰かの助けがないとおはしすら持てない赤ちゃんなだけですから。ねーせんぱい、バブバブ言いまちょうねー」
くそくそくそ! 屈辱的すぎるっ!
「お前……覚えとけよ」
「えー? いいんですかー? わたしを怒らせちゃってー。わたしがこうするだけで……ほら」
瑠奈がお茶碗を置き、俺の身体に完全に覆いかぶさってくる。
「退学、ですよ?」
「……顔赤いぞ」
「くふ……。せんぱい、鏡持ってきてあげましょうか? 今のせんぱいの顔、とってもださいですよ?」
「ああ……もう……!」
自分の命が他人の掌の上にあるという実感が怖くて悔しくて仕方がない。
「くふっ。仕方ないですねぇ……」
短く笑うと瑠奈はベッドの上から降り、パンを手に取った。そして一口サイズにちぎると、右脚のニーソックスを脱ぎ、それを俺の枕元へと伸ばして置く。
「な……なにする気だよ……!」
「脚フェチの変態なせんぱいのために、わたしがサービスしてあげます」
そして瑠奈はちぎったパンを足の指で挟むと、ベッドの外から俺の口元へと運んできた。
「さぁ、食べなさい」
片脚を上げ、嘲るような顔で見下す瑠奈。こいつ……マジで調子乗ってる……!
「食べ物で遊ぶなよ……!」
「せんぱいが食べればいいだけでしょう?」
「お前な……!」
「きゃーっ、そんな横向くなんてー。そんなにわたしのパンツが見たいんですかー? へんたーい」
……瑠奈は角度的に見えていないと思ってそうだが、普通に見えてるぞ……ピンク。機嫌を損ねたくないから言わないが。
「ほらほら早く食べてくださいよー。あと5秒以内に食べなかったら、自動的にゴミ箱行きです。ごーっ、よーん……」
「……ぁ、む……」
「くふっ。わたしの脚をおかずに食べるごはんはおいしいですかー? へんぱい」
「お前、なぁ……!」
「えー? またこうして食べさせてほしいんですかー?」
「……おいしかったのでぇ……! 普通に食べさせてください……!」
「よくできました。えらいでちゅよー、へーんぱいっ」
「く、そぉ……!」
屈辱的な食事が終わると、瑠奈は一枚上着を羽織り、行きの支度を始める。やっと終わった……。
「じゃあせんぱい、わたしは別の部活を探してきます」
「なんかあったらすぐ連絡しろよ。すぐ行くから」
「くふっ。せんぱい役立たずのゴミだからいらなーい」
「お前のピンチなら無理してでも行くよ」
「っ……! ほ、ほんとせんぱい嫌いっ! ……せんぱいこそ、何かあったら言ってください。すぐ戻ってくるので」
「ああ。ありがとう」
顔を赤くした瑠奈が、何が入るかわからない小さなピンクのリュックを背負い、出て行こうとする。
「あ、そうでした。せんぱい、これあげます」
「……?」
瑠奈が枕元に置いたのは、残っていたもう片方のニーソックス。
「わたしからのプレゼントですよ、へーんぱいっ」
「お前、マジで……!」
「くふふっ。じゃあねー、せんぱいっ。また後で」
心底楽しそうな瑠奈がスキップのような歩調で部屋を出ていく。今ここにいるのは俺1人。
「…………」
くそ……なんかもう……くそぅ……!




