第1章 第2話 面倒な奴ら
「……また俺の同室の相手は女子ですか」
入学式の後生徒会担当教師の緒歳文先生から伝えられたのは、そんな冗談みたいな決定事項だった。
「何考えてるんですか入試課は……」
「いやー申し訳ない。今の時代色々うるさいだろ。男女平等とかそういうやつ。だから同数に揃えるのが難しくてな」
「本末転倒すぎませんか」
「こういうのに文句をつける連中は目先のことしか見えていないし、本質を見ようとはしないもんだ」
ここ、桜豆学園は全寮制の高校だ。3年生は1人につき一部屋が与えられるが、1、2年は2人で一部屋。それも先輩後輩同士で組むことになっている。
だから1年と2年の生徒数は同じ。さらに男女の数も合わせないといけないのだが、今年もミスをしたようだ。
「まぁそれはいいんですけど……なんで俺なんですか」
「経験者の方がいいに決まってるだろう」
「コミュ障には荷が重いって言ってるんですけど。友だちすらいないのに後輩の女子と仲良くなんて……」
「むしろそういう人間の方がいいんだ。下手に口が上手い奴こそ危険。だがお前なら安心安全だ」
……流そうと思ったけどこれ悪口だよなぁ……。誰もお前なんか好きにならねぇよって言ってるんだろこのいい加減教師は……。
「それに何より」
俺の気持ちを知ってか知らずか。緒歳先生は自信満々な顔で断言する。
「あの桜豆学園のアイドル、立花花音と同室でありながら手を出さなかったお前なら信頼できる」
…………。
「……あの人のことを好きになる奴なんてただの馬鹿ですよ。アイドルと付き合えるわけないじゃないですか」
「……そういうとこさ、直した方がいいぞ。もう1年の付き合いがある私だからわかるが……」
「こういう人間だから任せるんですよね」
「口下手のくせに口が回る……。まぁいい。受けてくれるな?」
……この人の性格はわかってる。
「拒否権ないんですよね」
「あるが、お前以外に頼む気はない」
「怠慢教師……」
「そうじゃない。期待してるんだよ。私は、お前に。頼んだぞ、先輩」
そんなやり取りがあり、俺は出会う。
「こんにちはっ。金銅瑠奈と言いますっ」
緒歳先生はいい加減教師ではあるが、駄目教師ではない。部屋割りはちゃんと考えられてある。
静かな先輩にはうるさい後輩を。人見知りな後輩には元気な先輩を。性格を補完し、共に成長できるような部屋割りにするようになっている。
だからこの男女同室の部屋割りは、他と比べて何倍も気を遣われている。わけではない。
男女同室なんて学校側としても厄介。できることならない方がいい。つまりこの部屋は。
「仲良くしてくださいねっ」
処分しても構わない、問題児の集まりである。