第1章 第19話 やり返し
〇八雲
「はぁ……つかれた……」
剣道部のくせに剣道を全くやる気がない奴らと稽古すること約10時間。深夜1時を周り、俺はようやく帰宅していた。
去年の180時間稽古はさすがにまずかったので今回は竹刀を全て使えないようぶっ壊すところまでやったが、やっぱりブランクがある。疲労感はかなりのものだ。あと歳もあるのかもしれない。
そして何より……脚の怪我。去年剣道部にやられたものが、ここに来てぶり返している。まぁ運動するなって言われたのにしちゃったんだから仕方ないか。
とにかくシャワーは浴びてきたし、鎌木への根回しも済んである。あとはベッドで寝るだけだ。
「瑠奈、起きてるか?」
返事はなし。もう寝たか。瑠奈には悪いことをした。俺が今朝ちゃんとあいつと向かい合えていれば、剣道部の人たちに嫌なことを言わずに済んだのに。
「……ん?」
制服から部屋着に着替えようとした時、気づく。俺の学習机の上に、コンビニのショートケーキが置いてあることに。
それと1枚の置き手紙。『ありがとうございました』とだけ書かれた紙が置いてあった。
「瑠奈……」
やばい、なんかわからないけど泣きそうだ。あいつ、いつの間にかこんなことができるようになってたなんて……。
これは明日直接お礼を言ってからいただこう。さすがに疲れすぎて飯を食う元気はない。
「あ、ぁぁぁぁ……」
ベッドに寝転がると、一瞬で睡魔が俺の頭を支配した。もう寝る……寝れる……。
完全に眠りにつくその寸前。誰かが枕元に立っているような気がした。
目は開かないし、言葉は発せない。ただ存在だけを感じる。
「……おやすみなさい」
そしてなにか柔らかいものが頭を撫でる、仄かな温かさを感じ、俺の意識は完全になくなった。
「せんぱーいっ、朝ですよーっ」
翌朝。瑠奈の声が部屋に木霊する。瑠奈が目を覚ます前からずっと俺は起きていた。でも時間はわからない。確かめることができない。
「せんぱーい、開けますからねー? 変なことしてたらやめてくださいねー」
ま……ずい……! かなりのピンチだ……! こんな姿、瑠奈に見られたら……終わる!
「……せんぱい? どうしたんですか?」
カーテンが開けられ、瑠奈の怪訝な顔が目に映る。いや……遅かれ早かれだ。言うしかない。
「筋肉痛で……身体が動かない」
「――へぇ」
瑠奈の瞳が、妖しく歪んだ。




