第1章 第16話 イライラ
「先輩、大丈夫ですかっ!?」
「あー……うん……大丈夫大丈夫……」
複数の先輩から暴力の限りを尽くされた俺は、ようやく体育館に帰ることができていた。こんな姿誰にも見られたくなかったが、真っ先に珠緒に出くわしてしまった。
「ひどい怪我……。早く保健室に行きましょう!」
「いやいいよ。問題になりたくないし」
「……問題にしなくてはいけないと思いますが」
「……俺の先輩と約束したんだよ。困ったことがあったら先輩が引き受けるから問題は起こすなって。ちょっとした事情で……先輩に話に行けないから……問題にしたくないんだ」
自分でも面倒だと思うが、仕方ない。そういう約束をしてしまったのだから。じゃなかったら食堂の時にもっとちゃんと反撃した。
「そうですか……。では改めて……本当にありがとうございました。それと怪我をさせてしまい申し訳ありません」
「いや俺が勝手に首突っ込んだだけだし……。女子剣道部には鎌木経由で行けば大丈夫だと思う」
「いえ……あんな暴力的な人を見てしまってはこの学校の剣道部には、少し……。なので別の部活を探してみたいと思います」
「そっか……。なんかごめん、俺のせいで」
「いえいえそんなつもりじゃ! ……でしたら少しアドバイスをもらえませんか? 和系のものがいいのですが、あまり知らなくて……」
「あーうん、それなら大丈夫。一応生徒会やってたから部活の事情にはくわしいから」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「うん、気にしないで。じゃあまず茶道部は……」
〇瑠奈
「そう。柔道部は暴力的なんだ。でも強いからちゃんとやりたいならいいと思う」
「そうなんですね。でもあまり本格的にやるつもりはないんです」
「そっか。それなら……」
「なるほど。でしたら……」
せんぱいが、女子と楽しそうに話してる……。
え……? なんで……? 知り合い……? いやでもあの子……確か新入生の羽撃さん……。じゃあ1年生の女子と楽しげに話してるってこと……? そんな……どうして……。わたしのことは放ったらかしにしたのに……! ……いや、それよりもせんぱい……顔……!
「せんぱいっ!」
「あ、瑠奈。どうした?」
「どうしたじゃないです顔です顔!」
「またブサイクって話か……」
「そうじゃなくて! 怪我っ! 大丈夫ですかっ!?」
「あーそれは……」
「ごめんなさい。それは私のせいなんです」
羽撃さん……!
「私が喧嘩に巻き込んでしまいましたから」
「いや珠緒は悪くないから……」
「珠緒……? とにかくせんぱい! あっち行きますよ!」
せんぱいの腕を引っ張る。でもせんぱいは動かない。いつもはわたしの言うことは何でも聞いてくれてるのに。
「今は珠緒の手助けしてるから。後にしてくれ」
「っ……! ……せんぱい、わたし知ってますよ。喧嘩、強いんですよね。それなのに負けるなんてありえません! この人がせんぱいを嵌めたに決まってます!」
「……瑠奈、やめろ」
「とにかく行きますよ! まず保健室! その後学校に報告しますよ! その女を退学させるんです! まったく、最低な女です! 絶対に許しませんっ!」
「瑠奈、いい加減にしろ」
「……え?」
せんぱい、怖い顔してる……。今までに見たことがないくらい、怖い顔。なんで、そんな目でわたしを……。
「俺ならわがままは聞いてやれる。でも他人に迷惑かけんな。珠緒は悪くない。とりあえず謝っとけ」
「誰の……ためだと……!」
むかつく! むかつくむかつくむかつくっ!
「ばーかばーかっ! もう知りませんっ! わたしなんか捨ててその女とイチャイチャしてればいいじゃないですかっ! 陰キャ変態クソ脚フェチっ!」
「おい待て瑠奈! あ、すみません……」
「脚フェチ……?」
ふんだ! ほんとにもう知らないんだから……! せっかく……! せっかくわたしが心配してあげたのに……!
「せんぱいは……わたしのせんぱいなのに……!」
あーもうむしゃくしゃするーっ! なんでこんな気持ちに……! この気持ちはなんなんだろう……! あーーーー!
「……ピコーン」
くふふ。いいこと思いついちゃいました。せんぱいに、わからせてやります。わたしの価値を。
「男子剣道部マネージャー志望の金銅瑠奈ですっ。よろしくお願いしますっ」
せんぱいをいじめたっていう連中を謝らせる。これでせんぱいもわたしのことを大切に扱ってくれるはず。




