第1章 第13話 昔話
「まったく……。せんぱいはほんとにまったく……」
大きな体育館で行われる部活動紹介に、わたしは1人で臨んでいた。せんぱいも部活に入らなきゃいけないみたいだけど、せんぱいなんてもう知らない。本当にむかつく。ということで。
「鎌木さん、せんぱいの秘密とか教えてくれませんかぁ?」
わたしは生徒会のブースに赴き、せんぱいの弱点を聞くことにした。
「なになにどしたの? 喧嘩?」
「そうなんです……。せんぱいったらひどいんですよ……」
外で本性を現すわけにはいかないので、いかにもかわいそうな後輩を気取りながら長机の前のパイプ椅子に腰かける。すると鎌木さんは爽やかな笑顔で応対してくれた。
「わかるよ。八雲って言わなくてもいいことすぐ言うんだよねー」
「そうなんですっ!」
「……どしたの。すごい元気になったけど」
「いえいえ……お気になさらず」
「別に八雲が悪いわけじゃないんだけどさ、嫌な言い方するからこっちもわーってなって当たっちゃうんだよ。そのくせ八雲怒らないからさ、こっちだけ悪いみたいになって余計むかつくんだよねー」
「ほんとその通りですっ!」
「は、はは……。とりあえず話聞こうか」
「はい……お願いします……」
まずい。せんぱいへのイライラは全人類一緒のようで、思わず本音が出てしまう。
「それで、八雲の秘密だっけ?」
「はい。ちょっと弱みを教えてもらえれば……上手く話せるんじゃないかって」
ちょっと弱い理屈だけど、わたしのかわいさなら押し通せる。わたし最強。
「秘密って言ってもねー……。あ、とっておきのやつある!」
「なんですかなんですか!?」
「これ知ってる人少ないからあたしが言ったって言わないでね?」
「もちろんもちろん! 内緒にします!」
女子の会話はここから始まる。そしてめちゃくちゃ広がるまでがワンセットだ。
「八雲さー、元々結構荒れてたんだよ」
「荒れてたって……ヤンキーだったってことですか?」
「うーん……そこが八雲のめんどくさいところなんだけどさー。真面目なのに結構ずれてるでしょ? 優しいのに無駄なところがきついとかそういうところあるじゃん」
「ありますね。完全に」
「だから曲がったこと……犯罪だったり理不尽が許せないんだよね。普段は全然ただの陰キャなのに、時々すごいブチギレるんだよ。普段キレない人ほどキレた時怖いって言うけど、八雲はその極地。色んなところが常識外れっていうか、常識知らずなんだよ」
「……それで?」
「えーと……桜豆学園に入る人って基本的に2パターンで、強い部活に入りたいか、親元を離れたいかなのね。八雲は完全に前者。元々剣道部だったんだよ」
「へぇー……全然知りませんでした」
「でうちの運動部……特に武道系なんだけど、ちょっとパワハラ気質っていうかさ、ザ・厳しい運動部! って感じなんだよね。先生先輩の言うことが絶対っていうかさ。なんとなくわかるでしょ?」
「イメージは……できますね」
「そういうとこってだいたいさ、気が弱かったり生意気だったり普通から外れた子がターゲットにされるんだよ。で、八雲は気は弱いくせに生意気で普通のことができない。典型的なターゲットにされたんだ」
「まぁ……なんとなくいじめられそう、ってのはわかります」
「パシられたり、怒られたり、稽古っていう体の暴力だったり。あたしも聞いただけだけどさ、剣道部の友だちに聞いた限りでは相当ひどかったらしいよ」
「それで……怒ったんですか?」
「まさかまさか。八雲はそう簡単には怒らないよ。1人だけ寝れないくらい仕事押し付けられても、骨を折られても怒らない。自分がやられる分にはどんな理不尽なことでも受け入れちゃう。真面目だからね」
「そう……ですね」
「でもゴールデンウィーク前日。部活の先輩たちに、八雲の先輩。花音さんの裸の写真撮ってこいって言われて、ブチギレた」
「……暴力、ですか?」
「そういうのができる奴ならもっと早く暴発してるよ。八雲がやったことは1つ。稽古だよ」
「……?」
「ゴールデンウィーク中一睡もすることなく、水だけで稽古をし続けた。先生先輩を帰らせず休ませず、ただただ稽古をし続けた」
「……え? それってどういう……?」
「暴力じゃないけど、結局のところ力が全て。逃げ出そうにも、相手の方が強かったら逃げられない。あいつ、めちゃくちゃ強かったんだよ。誰も道場から逃がさないくらいに」
「え……? え……?」
「ゴールデンウィークだったのが最悪だったよね。7日間部屋に帰らなくても問題にはならなかった。見つかったのが、休み明けの午後。全員栄養失調で病院に運ばれた。八雲に至っては元々なってて病院にも行かせてもらえなかった骨折がすごいことになってさ、運動できない身体になっちゃったんだって」
「ちょ……っと、意味がわからないんですけど……」
「つまりコミュ障な陰キャなんだよ。ちゃんとした話し合いができないし、やり方が陰湿。あたしも八雲が悪いとは思ってないけどさ、どうしても悪いって言わなきゃいけないよね。そんなやり方しかできないんだから」
「…………」
「結果的に八雲は退部させられて、入学してすぐだったからそんな怖い噂が広まることもなく。ただの陰キャが生まれたってわけ」
「そ……なんですか……」
「そんな八雲を更生させたのが花音さん。今はだいぶ丸くなったけどさ、昔はほんとひどかったんだよ。態度はひどいし、話さない。とにかく嫌な陰キャだったんだ。……っていうのが八雲のたぶんばらされたくない秘密。どう? 仲良くなれそう?」
「そう……ですね……」
そんな話を聞きたいわけじゃなかった……。でも、こんな話をしてきたってことはたぶん……。
「八雲を追い詰めることはできそう?」
鎌木さんには、わたしの本性がばれている。




