第8話『跳越』
どうも、デモンズドライバーとツーサイドライバーを一緒にゲット出来てホクホクなライダー超信者です。
お久しぶりです。 LEDスゴい!!
第8話です、ストリームフォームの力を果たして虚空蔵くんは使いこなせるのか?
「あんたは、一体何者なんだ?」
突如現れたもう一人のスペクター。その変身者である少女と向き合う俺達。
少女の外見はかなり個性的で、赤く染めた肩につくほどの長髪である右側に対して左側はベリーショート……というよりバリカンで刈り上げたのが少し伸びたほどのアシンメトリーな髪型をしており、服は赤いラインの入ったライダースジャケットを着込んだパンキッシュなスタイル。背丈は女性としては高く160後半はあり、俺とそこまで目線は変わらない。
覇気のないジト目で俺達を見る少女は気だるげな態度で頭を掻く。
「あーウチ?通りすがりだよ、うん」
低いテンションと声で答えにならない答えを返してくる少女。詰め寄ろうとすると少女が手を突き出してくる。
「ごめん、面倒くさくなりそうだからまた今度ね。あんたらも早く逃げた方がいいよ」
少女はそう言うと再びスペクターに変身し、走り去ってしまった。
どういう意味かと思ったその時遠くからサイレンが聞こえてきたことで意味を理解する。
「警察来やがったか……!みんな行くぞ!」
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異空間 城内 広間
「申し訳ありません。グラスのゲームに干渉してしまいました。いかなる罰も受ける所存でございます」
「気にすることはないよアラン。過度に干渉したわけじゃないからね、問題ないよ」
「しかし…………」
「面白いことは多い方がいい、そうだろう?もう一人のスペクターまで現れて…………ふふふっ、面白いねぇ」
「…………テオス様、あの赤いスペクターは一体?」
「誰でもいいさ。ゲームを盛り上げて私を楽しませてくれるなら、ね。
グラス、君は魔皇石はいるかな?」
「……はい、頂戴します。ですが俺は俺の力だけでゲームを成し遂げます。
俺は、他の連中とは違いますから」
「そう。なら頑張ってね」
「はっっ!」
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名取市 PM14:19
「………………うし、鶏ムネ肉ゲット、と」
現場から撤退した俺達はそのまま今日の夕飯のメインである唐揚げの材料を買いに大型スーパー・トライアルに来ていた。
目当ての百グラム五十五円の鶏ムネ肉のパックをカゴに入れる。
「ねぇねぇ虚空蔵くん、百グラム五十五円って安いんだっけ?」
「安いよかなり安い、他所のスーパーではそうそう見ないね。しかも毎日これだからスゴいよ。
一応鶏ムネ肉って鶏ももと比べると半分くらいの値段で平均でも五十円半ばくらいなんだけどさ、平均がそれだからってどこでもそれくらいの値段で売ってるわけじゃないからね。
解凍の輸入モンとはいえ他のスーパーじゃセールでもここまで下がることはまずないから、やっぱすげぇよトライアル」
「肉の値段どうこうを力説されてもオレ達にはわかんねーよ」
二人に安さを力説しながら材料を買って回っているとカゴにお菓子が入れられる。振り向くと、さっきまでいなかった筈の奈緒がそこに立っていた。
「奈緒ちゃん!いつからいたの?」
「夢芽、ちょっと持っててくれ」
「お、おう」
「いやぁ、まぁちょちょいのぱぁぁぁぁぁぁ!?」
奈緒の顔面にアイアンクローを炸裂させ、更に流れるようにヘッドロックへ移行する。
「てめぇよくもノコノコ面出せたもんだなおい……おめぇのせいでこちとら散々だったんだぞこら…!!」
「いがぁあ!何の話ですぅ!?」
「しらばっくれんな!ストリームフォームの弱点教えなかっただろてめぇ!知ってりゃやりようだってあったのによぉ、おかげでエヴォリオル取り逃がしただろうが!」
「虚空蔵くんっ、ここお店の中!あんまり騒いじゃダメだよ、しーっ……!」
美弥ちゃんは人差し指を口に当てる。その可愛さ…………もとい指摘で我に返り、奈緒を解放する。
「ごおぉぉぉ頭部がまんべんなく痛いぃ…………」
「自業自得だろうが馬鹿たれ。俺の味わった痛みと比べりゃ屁みたいなもんだ」
「説明している暇が無かったんですよぉ……説明する気がなかったわけじゃないんですってぇ……」
「テレパシーを使って話す、じゃダメだったの?」
美弥ちゃんの言葉に固まる奈緒。握った右拳を左手のひらにポンと置く。
「あ、その手があった」
「根本的なバカかてめぇは!!」
怒りを通り越して脱力し、もう怒る気もなくなった。もう構ってられんと投げ出して買い物を再開する。
…………仕方ねぇからお菓子一つくれぇは買ってやるかもう……。
「奈緒、これいぐらだ」
「えーっと、九十八円ですね」
「しょうがねぇから買ってやるわったく……」
「あ、ありがとうございます…………なんか虚空蔵さんお母さんみたいですね」
「そーかよ」
「………………そう言えばあの赤いスペクターの正体、わかりましたよ」
「「「!!」」」
昨日は知らないと言っていたにもかかわらず、急な前言撤回に驚く俺達。
「赤いスペクターと言うからもしかしてとは思っていましたが……今日直接見て確信しました。
あれはファントム。スペクターと同じく魔皇石の力を持つ超人です」
「〝ファントム〟……」
「ファントムさんは敵、なのかな?」
「ひとまず味方でなくとも敵でもない感じですかね。美弥さん達を助けてくれたのは事実ですし、悪い意思も感じられませんでした」
「確かに。敵だとしたらわざわざオレ達を助ける必要ないしな」
「ま……面倒くせぇから敵じゃないことを祈るよ」
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「ん~~唐揚げ美味しぃ~♪」
晩飯、一家団欒の時間。唐揚げを肴にチューハイを飲む月姉はご機嫌で顔を赤くしている。
「お姉ちゃん、飲み過ぎちゃダメだよ?」
「わかってるってぇ~明日も仕事だからその辺は大丈夫だよ~」
「唐揚げんまんま」
「こら奈緒、唐揚げばっかじゃなくて米も野菜も食え」
唐揚げを頬張る奈緒の頬はさながらハムスターかリスのようにパンパンになっている。呆れて注意すると優衣がおずおずと口を開いた。
それは、今日のエヴォリオルのことだった。
「お兄ちゃん、今日も未確認異形生命体が出たみたいだけど大丈夫だった?今回も大変だったってニュースでやってたけど……」
「うん、全然平気だったよ」
「お兄ちゃんもお姉ちゃん達も街中の方を通るでしょ?何もなくてよかったなって」
「流石にいい加減にしてほしいよね~~お店でもその話ばっかりだもん」
「私の会社もその話で持ちきりだよ、これからどうなっちゃうのかなってみんな心配してて……」
うんざりしたように愚痴る月姉と暗い顔で今後のことを案じるお姉ちゃん。優衣もエヴォリオル関係の事件にはすっかり怯えている。
そんな三人を見ていると、エヴォリオルへの怒りがふつふつと沸き上がってくる。俺の家族にこんな顔をさせた報いは必ず受けさせてやる、そう静かに誓う。
そのためにはまずストリームフォームの扱いをマスターしないとな…………。
(夜中抜け出して練習するか…………)
(オトモしますよ)
(アイルーか?)
(お供って片仮名にすると急にモンハン感出ますよね)
(別に広げなくていいんだわ…………はぁ……あんなバカ共のために睡眠時間削るのも癪だな……)
(まぁそう言わずに。奴らに対抗出来るのはこの世界で虚空蔵さんだけなんですから)
(一人増えたけどな、頭が痛ぇ)
飯を食べながら俺は内心ため息を吐くのであった。
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「ねぇ夢芽ちゃん」
「んーーどうした」
「ファントムさんって良い人だよね?私達のこと助けてくれたし優しそうだったもん!」
夜。夢芽ちゃんとお風呂に入りながら私がそう言うと、夢芽ちゃんは苦笑いする。
「出た、美弥姉ぇの〝いつもの〟。
まだ良い人とか味方って決まったわけじゃないんだぜ?もう少し警戒した方がいいって」
「え~そうかなぁ?悪い人の目!って感じじゃなかったよ?」
「ん~~…………」
髪を洗い終わった夢芽ちゃんは悩ましい顔をしながらお風呂に入ってきた。湯船につかると気持ちよさそうに息をつく。
「ふぅー…………悪い人の目じゃないかぁ。美弥姉ぇにはどんな風に見えたんだ?」
「う~~ん…………悲しそう、かなぁ……」
「悲しそう?」
怪訝な顔で聞いてくる夢芽ちゃんに頷く。
「うん。寂しそうな、悲しそうな目に見えたんだ。それと怒り、かな……?静かに、でも力強く燃えてたと思う」
「ふーん…………ま、虚空蔵も言ってた通り、敵じゃないことを祈ろうぜ。これ以上面倒事が増えるなんて堪ったもんじゃねーよ」
「虚空蔵くんが一番大変だもんね。やっぱり虚空蔵くん凄いなぁ…………」
「それは言えてる。マジでライダーの主人公みたいになっちゃったよなあいつ」
「カッコいいところも一緒だよね、ふふっ」
「流れるように惚気たなぁおい」
「えー夢芽ちゃんはそう思わない?」
「まー顔面偏差値は高いと思うよあいつ。テレビに出てる最近のアイドルよりはカッコいいんじゃねーか?贔屓目入ってるけどな」
「だよねだよねっ」
「へーへーご馳走さん」
そうして夢芽ちゃんはお風呂から上がり、私も後を追うように上がる。着替えながらスマホを確認すると虚空蔵くんからLINEが来ていた。
『夜中に山の方に行ってストリームフォームの練習してきます。心配しないでね』
「夢芽ちゃん、虚空蔵くんスペクターの練習するんだって」
「はぁ?また?つーか今から?」
「んーん、夜に山の方に行ってするんだって」
夢芽ちゃんにLINE画面を見せると可笑しそうに夢芽ちゃんが笑った。
「真面目な奴だなぁ。ま、あいつらしいっちゃあいつらしいか」
「虚空蔵くん根は真面目で律儀だもんね。そこがいい所の一つなんだけど。
それにストリームフォームは課題があるって言ってたし、使いこなせるようにしておかないと次エヴォリオルが現れた時に対処出来ないもんね」
「特撮のキャラみたいに一瞬で使いこなすなんて現実じゃまず無理だからな。だからこそヒーローの有資格者なんだろうけどよ」
「天の道を往き、総てを司る……だね!」
「家にザビーゼクターとホッパーゼクター二つあったよな……まだ動いたっけかあれぇ?」
そんな話をして、虚空蔵くんに『気をつけてね!頑張って!』と返信する。虚空蔵くんから返ってきた『ありがとう!頑張る!』のメッセージを見て、私は微笑んだ。
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塩釜家 PM20:38
「ふーむ………………やはり見つからないでござる……」
小生は自室のパソコンを駆使し、光るネットの波をくぐってサーフィンしながらエヴォリオルに関する情報を探す。しかし有力な情報は何一つ出てこない。調べても出てくるのはエヴォリオルが起こした事件の話ばかりで手掛かりになるような目撃情報は一切なく、思わずため息を吐く。
「別次元から侵略者、でござるか……目撃情報がないのも宜なるかなでござるなぁ」
奈緒殿曰くエヴォリオルは普段この世界とは別次元の世界を拠点としており、何かあるとそこに撤退してしまうため動向を探る、事前に対処するのがほとんど不可能とのこと。
奈緒殿自身もこの世界の人間ではないらしく、『異世界から来た美少女』という何ともヲタク心をくすぐられる人物だそうでござる…………まぁ状況が状況故に全然喜べないでござるが。
「ふーむ、もうちょっと調査してみるでござるか……」
そういってまたパソコンとのにらめっこに移ろうとした時、コンコンとドアがノックされる。
「楽人、もうお風呂入っちゃったら?」
「了解でござる、すぐ準備するでござるよ」
母上に返事をしてパソコンをスリープさせる。続きはひとっ風呂浴びてからでござるなぁ。
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宮城県 某山中 AM0:22
人気のない山奥。ストリームフォームに変身した俺は準備運動を済ませ、軽くジャンプして調子を合わせる。
「よし、行くか」
「虚空蔵さんファイトでーす」
奈緒に軽く手を振って返し、思い切り跳んだ。奈緒を中心として木を蹴り、ピンボールのように高速で山の中を飛び回る。スピードを落とさずに体勢の維持も意識しながら不規則に飛びまくる。
「っ…………ふっ…………!!」
「………………流石ですね」
しばらく続けて慣れてきたところでスピードを上げ、ムーンサルトやきりもみ回転を加えていく。周囲の景色が色となって流れていき、周りにある木を一通り蹴ったところで奈緒の前に着地した。一拍置いて発生した風が、奈緒の髪をふわりと揺らす。
「お見事です虚空蔵さん。練習なんて必要ないくらいに使いこなせているじゃないですか」
「コオロギ野郎との戦いで大体の感覚は掴んだからな。でもまだ完全じゃねぇし、何より腕のパワーが低下するデメリットも対策出来てねぇ………」
拳を握り、いつもと同じ調子でパンチを数発繰り出す。感覚としてはいつも通りだが威力は驚くほど低下しているため、これをカバーできる〝何か〟が必要なのだが…………
「ブットブレイカーを使ってみては?破壊力はあるでしょう」
「そうしてぇのはやまやまだけどよぉ、腕力が低下してる状態で重量のある武器って相性悪いだろ。あれ変身してなきゃ俺でも持てねぇんだぞ」
「虚空蔵さんって片手で何kg持てます?」
「100kg」
「ゴリラじゃねーか!」
「うるせぇ!」
「なんだよ100kgって!ゴリラでも片手じゃ無理だろ引くわっ!」
「やかましい握り潰すぞ!!」
「やっぱゴリラじゃん!!」
不毛なゴリラ論争もボドボド……程々にして再び練習に打ち込む。
(どうやってパワーダウンをカバーするかだ……流石に足技だけで戦うのは限界がある、んなハンデのある状態でやるわけ……)
考えていると、ふと地面に落ちていた木の棒が目に入る。
(…………………………!)
閃いた俺は棒を手に取り、棒術の如く構える。
振り回し、薙ぎ払い、突き、円舞のように全身で棒を操って風を切る。途中勢いに耐えられずに棒が折れるが、瞬時に二刀流へと持ち直して振るい続ける。
「お、おぉ、おぉぉぉ…………!」
「よっ、はっっっ!!」
天高く掲げた棒を思い切り振り下ろす。
棒は粉々に砕け散り、同時に強い突風が周囲を駆け抜けた。森は静まり返り、奈緒の拍手だけが山に響く。
「素晴らしいです虚空蔵さん、どこでそんな技術を?」
「特撮観て真似してりゃ自然と覚える……それと、デメリットをカバーする方法も思いついたぞ」
「!」
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結局その後家に戻ったのは夜中の二時に差し掛かろうとしていた時間で、朝に重い瞼と格闘しながら家事をこなす羽目になった。
そして着替えていると、スマホを手に月姉ぇが入ってきた。
「こっこー」
「月姉ぇ入ってくんのはいいけどよぉ、ノックはしてくれよ」
「ごめんごめん。今城学から連絡があってさ、今日学校お休みだって」
「え、マジ?」
「うん。最近未確認の事件多いじゃん?学校の方で話し合って、今日明日の二日間休校にするってことになったんだってさ」
「よし二度寝出来るな。あれ、俺が休みってことは優衣もかな?」
着かけていた学ランを脱いでハンガーに掛け直し、部屋着のスウェットを着ながら月姉に尋ねる。
「うん、こっことゆいゆいはお休みー。いいなぁ、私もお休みしたーい」
「月姉には頑張ってもらわねぇと困るなぁ」
「分かってるよぉもぉ~」
「虚空蔵ちゃーんお姉ちゃーん、私そろそろ行くねぇ」
急いで下に降りてお姉ちゃんを見送る。その後月姉も見送り、家には俺と優衣と奈緒の三人になった。
「学校お休みになっちゃったね…………」
「なぁ。ネオライダーマラソンでもすっかなぁ」
「ネオライダーってなんです?」
「仮面ライダーシリーズの中で真・仮面ライダー、仮面ライダーZO、仮面ライダーJの三作品を総称した呼び方だ。俺のイチオシは何と言ってもZOだな、名作も名作だ。見てみるか?」
「まぁ気が向けば」
「そうか…………眠いから二度寝する、優衣も寝る?」
「うーん、少し寝ようかな……?」
「わふっ」
「お、モカも一緒に来るか?」
「じゃあ私はテレビでも見てますよ。おやすみなさい」
茶の間から出た俺は優衣とモカを連れて自室へと戻る。優衣の部屋から持ってきた布団を敷き自分の布団に入ると、優衣が話しかけてきた。
「にぃに、最近お疲れ気味だよね……大丈夫?無理してない?」
「うん、平気平気。ありがとな」
隣で寝ている優衣の頭を撫でる。我が妹ながら、やはり可愛い。シスコン上等。
「それならいいんだけど………………いつまで続くんだろうね、未確認異形生命体の事件って……」
「…………………………いつまでだろうなぁ」
「にぃには、もし未確認異形生命体に会ったらどうする?やっぱり戦う?」
「そうだなぁ。一人なら逃げるし、誰か他の人といたら足止めぐらいには戦う、かな。
まぁ少なくとも優衣もお姉ちゃんも月姉もみんな俺が守るから大丈夫だよ。心配しなくていい」
不安そうな顔をする優衣の目を見て、大丈夫だと優しく告げる。
俺の家族には何人たりとも手出しはさせない。それが何であれ誰であれブッ潰すだけだ。
「わうん」
「よしよし……じゃあおやすみ」
「うん、おやすみ」
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多賀城家 AM8:11
「学校お休みかぁ……しょうがないよね……むん」
「そうねぇ。でもあんなにすごい事件ばっかりだったら仕方ないよ、安全第一だもん」
急遽学校が休みになったことで、オレ達はリビングで朝のニュースを見ていた。
残念そうな美弥姉ぇとそれを宥めるお母さん。お父さんはコーヒーを飲みつつ横目でテレビを見ている。
「ははっ、物騒だねぇまた」
「笑い事じゃないよぉパパ……」
「ごめんごめん。でもさ、もう笑うしかないだろこの状況。どうなってんのよこれ」
「怖いことばっかりで嫌になっちゃうね。家族や知り合いが誰も巻き込まれていないのは幸いかしらー……」
「そうなー……」
お母さんの言葉に、内心ドキッとしながら相槌を打つ…………実際には思いっきり巻き込まれてるけどな。美弥姉ぇも同じことを思ったのか若干苦笑いしている。
別に悪いことをしてるわけじゃないのに、変に後ろめたい気持ちや嘘をついてるような申し訳ない気持ちになってくるのは何でだ。まぁ二人に話すわけにはいかないし致し方ないよなぁ……。
「今日と明日はお休みだけど、美弥ちゃんと夢芽ちゃんも気をつけてね」
「どうする?パパ送り迎えしようか?仕事の都合上多少時間に融通は利くし」
「流石に大丈夫だよ。虚空蔵もいるし、お父さんの仕事の邪魔するのも気が引けるしさ」
「私達なら大丈夫だよパパ。心配しないで」
「わぁ、娘が立派になっててパパ感動。流石俺達の娘だなぁ」
「まーた始まったよ……」
「あはは…………」
「美嘉さぁん、今日もうちの娘が可愛いよー」
「も~仁くんったら、ふふっ」
イチャつく二人に呆れ、苦笑いするオレなのであった。
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『虚空蔵ー』
『あ、恵里ちゃん。どうしたのー?』
『これからドッジボールするんだ!虚空蔵も一緒にやろ!』
『美弥ちゃんと夢芽ちゃんはー?』
『二人はもう誘ってるよ、オッケーだって!』
『じゃあやろっかなぁ』
『よしっ、じゃあこっち来て!』
『はーい』
「……………………ん」
目を覚ますと時計は十時二十分を過ぎたところ。隣ではまだ優衣がすやすやと眠っている。
モカは俺が起きたのを察知したのか布団からのそのそと出てきて欠伸を一つ。
「おうモカ、おはよ」
頭を撫でるとモカは俺の直ぐ脇に寝転がる。
そのままモカを撫でていると、頭の中に奈緒からのテレパシーが送られてきた。
『虚空蔵さん出ました!エヴォリオルです!』
「はぁ……こぉの朝っぱらから…………」
適当に着替え、不思議そうに寄ってきたモカを軽く撫でる。
「ごめんなモカ。優衣のこと、頼んだよ」
俺は静かに部屋を出て、茶の間にいた奈緒を連れ目的地へと向かった。
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「あ、虚空蔵くん!」
二階の窓から何気なく外を見ると、奈緒ちゃんを後ろに乗せて走っていく虚空蔵くんが見えた。多分、またエヴォリオルが現れたんだ。
「もしかしてまたエヴォリオルか……!?」
「夢芽ちゃん行こうっ!」
「へぇ!?いやいやいや、オレ達がいってどうすんだよ!?足手まといになるだけだろ!」
「確かに戦うことは出来ないけど…………でも、何か役に立てることがあるかもしれないし……それに、やっぱり近くで虚空蔵くんを見ていたいの」
「……………………………………」
「夢芽ちゃんはお家にいて、私行ってくる!」
「だあぁぁ!美弥姉ぇ一人で行かせられるワケねーだろ!!オレも行く!虚空蔵いないんだからチャリだぞもう!!」
「! うんっ!」
そうして私達も虚空蔵くんの後を追うのだった。
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「お嬢様、今現在お体の方は大丈夫ですか」
「もぉじいやったら心配すぎだよ~」
心配してくるじいやに笑って返す。
今日は掛かり付けのお医者さんで定期検診の日。私、定禅寺楓にとってはいつものことだ。生まれつき体が弱い私にとって、病院なんてもう友達のようなもの。
病院は友達!怖くない!小学校の頃なんて多分半分くらいしか通えてないし!勝ったなガハハ!…………何に?
「申し訳ありません。ですが心配しすぎて損をすることはありません、お嬢様のお体が第一ですよ」
「体を大事にするのはじいやだって一緒でしょ、今年で六十五歳なんだから。あんまり私なんかのために働き過ぎなくていいんだよ?」
「お心遣いありがとうございます。ですが、じいは好きでやっているのですよ。旦那様の時から仕えて早いもので四十八年、定禅寺家やそれに携わる方々のおかげで毎日楽しいですからね」
穏やかに笑うじいやに釣られて私も笑う。
「そっかぁ。じいやは強いなぁ」
「はははっありがとうございます。ですが体が弱いことにも負けず学業を頑張っているお嬢様ほどではございませんよ」
「えぇーそんなことないよー」
一旦会話はそこで終わり、私はスマホを取り出す。最近のネットは未確認異形生命体のことばっかりで、ツイッターを見ても考察や不毛な論争で良くも悪くも賑わっている。
中でも話題は未確認異形生命体第二号と呼ばれている青と黒の怪人だ。仲間であるはずの未確認を倒す謎の存在であり、目撃した人曰く『逃げ遅れた人を庇いながら戦っていた』『未確認が蹴り飛ばした車を受け止めて優しく下ろした』等々、怪人であっても悪人ではないような姿が目撃されているとのこと。
そんなこともあって〝リアル仮面ライダー〟なる名前で呼ぶ人も出始めているらしい。
しかし、ネットにアップされている写真はブレていたり後ろを写した物、かなり遠目に撮影された物ばかりで姿はいまいちハッキリと見えない。いっそ近くで見れる機会があればなー…………なんて。
「未確認かぁ。ほんとライダーみたい……ていうか名前つけた人絶対クウガ好きでしょ…………あれ?」
「どうなさいましたか?」
「今、多分同じ学校のコがバイクで通っていったの。あのバイク……虚空蔵くんよねぇ?」
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仙台市 青葉区 勾当台公園 AM10:41
奈緒に案内されて到着したのは仙台の有名な都市公園、勾当台公園だった。急いで公園内に走ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。
まるで捨てられたゴミのように人が倒れ、血や肉片、そして脳漿らしきものがビチャビチャと公園をおぞましく染めている。雑に見積もっても三十人近い人が殺されており、中にはまだ幼い子供の亡骸まであった。
「っ……!っ……!っっ…………!!」
怒りで全身が震え、呼吸が荒くなる。
…………この人達が一体何をした……何故こんな命の終わり方をしなきゃならねぇ……!?
拳を握る力がどんどん強くなり、爪が手の平にくい込んで突き破る。その痛みと流血した手を見て少しだけ冷静になり、公園のベンチに座る男を睨み付ける。
「よぉスペクター、昨日ぶりだな」
ケラケラと笑う男。カウボーイのような格好をした男は、エヴォリオル用のオーブをチラつかせる。
「〝エヴォルオーブ〟……!あれを持ってるならエヴォリオルで間違いありません!」
「コオロギ野郎、てめぇは絶対ぶっ潰す……!!」
「はっ。そういきり立つなよ、面白いもん見せてやるからよ」
男は左手で掴んでいた男性を俺達に見せつけてくる。
あまりの恐怖から男性は怯えきっていて、ガクガク震えながらこちらを見ると震える声で助けを求めてくる。
「た、たす、助けっ「無理だよマヌケ」」
男は取り出した魔皇石を男性に埋め込む。
異変は直ぐに起きた。男性は苦しそうに胸を押さえ、もがき苦しむ。
「ア"ッ、アァァア、ア"ァ"ァ"ァァァァ……!!」
「何だ…………!?おいっ!何をしたっ!?」
「見てりゃあ分かる」
「マズいですね…………」
男性は苦しみながらも起き上がるが、その瞬間男性の胸が裂け、鮮血が飛ぶ。突然のことに身構えていると、そのまま肉片や骨片を撒き散らしながら男性の体を真っ二つに引き裂くように何かが現れた。
「フッ、フッ、フッ、フゥゥゥゥ……!!」
「何だ、この化け物…………!?」
ゾンビのような生々しいボロボロの肌に筋肉が剥き出しになった体、その体の所々を覆うひび割れた結晶のアーマーに手足に生えた鋭い爪、大きく裂けた口。不気味な吐息を口から漏らしながら怪物は爛々と目を輝かせている。
「〝エヴォフェイリャー〟 エヴォリオルになれなかった出来損ないだ」
「…………このクソ野郎ぉぉぉぉ!!」
「奈緒下がってろ!!変身!!」
『チェンジ!ストリーム!』
『Jump Over Rise!
Stream Form!!』
ストリームフォームに変身し、エヴォフェイリャーを踏み台にして男に飛び掛かる。
「っ!」
『クリケット!』
エヴォリオルに変身したコオロギ野郎に掴みかかり揉み合いになる。立ち上がろうとするコオロギ野郎を蹴り飛ばし、体勢の崩れた敵に更に前蹴りで追撃、よろめいた所を飛び蹴りでふっ飛ばす。
「おらどうした、コオロギ野郎……」
「フシャアァァァァァァ!」
背後から襲いかかってきたエヴォフェイリャーを躱して蹴り倒す。理性を感じない唸り声を上げて掴みかかろうとしてきたエヴォフェイリャーを連続で蹴り回し、コオロギ野郎に向かって蹴り飛ばした。
が、ジャンプでふっ飛んできたエヴォフェイリャーを躱したコオロギ野郎はそのまま隕石のように俺目掛けて突撃してくる。コオロギ野郎とエヴォフェイリャーの攻撃を躱しながら長い棒状の物がないか周囲を見回し、そして見つけたのは階段の手すり。あれなら丁度いい…………!
しかし、この二体の攻撃を潜り抜けて五十mは離れているあそこまで辿り着くのはなかなか骨が折れる。
「くそっ……っ!」
「虚空蔵さん…………」
「奈緒ちゃんっ!」
「は、美弥さん!?何故ここに!?」
「いてもたってもいられないからだとよ!」
「夢芽さんまで…………」
「ごめんね…………でも、ただ待ってるなんて出来なくて……」
「おいおい何だよあの得体の知れない化け物……!?あれもエヴォリオルなのか?」
「いいえ、あれはエヴォフェイリャー。魔皇石に適合出来なかった人間です……クソッ!」
「あれが、人…………」
「また胸糞悪いことがあったのは想像できるな……」
「! そうだ二人共、何か長い棒探してください!今の虚空蔵さんに必要なんですっ!!」
(!? 美弥ちゃんと夢芽!?何で…………)
「余所見してんn」
いつの間にか二人がいることに驚く。隙を見せた俺に怒りの声を上げたエヴォリオルだが、その声は鳴り響いたエンジン音に掻き消された。
その場にいる全員が何事かと見ると、入り口の階段をジャンプ台に赤いサイドカーが勢いよく乱入してきた。サイドカーは猛スピードでエヴォフェイリャーをはね飛ばし、見事なドリフトをキメて停車する。
「ホンダCB1300のSFか!いいバイクだ……」
「サーンキュ、分かってんじゃん」
運転手がヘルメットを脱ぐ。
その下から出てきたのは、あの赤いスペクター〝ファントム〟の少女だった。
「あ!ファントムさんだ!」
「ちっ、また邪魔が入りやがった!」
「ウチがこのキモいの相手するから、あんたはそのコオロギよろ」
『バルキリー!』
少女が取り出したオーブを起動させると腰に俺のベルトとよく似た形のベルトが現れる。軽快で爽やかなメロディを奏でるオーブを手にポーズを取る少女は、
流れるようにベルトにオーブを装填した。
『チェンジ!ファントム!』
「ーーーー変身」
『I go my way!(do not regret)
PHANTOM PHA PHANTOM……!!』
少女が爆発と共に真紅の炎に包まれ、その姿を異形の超人へと変えた。
「ほら、来なよ」
超人ファントムは気だるげに首を鳴らし、エヴォフェイリャーにゆっくりと歩み寄っていく。
そんなファントムに『ナメられている』と感じたのかどうかは定かではないが、どことなく怒りを含んだような唸り声を上げながらエヴォフェイリャーが襲いかかる。が、いとも簡単にあしらわれ、攻撃する度に強烈な蹴りで叩きのめされる。
前蹴り、後ろ蹴り、足刀蹴り、膝蹴り、ブラジリアンキック、ローリングソバット。様々な蹴り技を途切れることなく、かつ恐ろしいキレで繰り出すファントムにエヴォフェイリャーは一方的に蹂躙される。
ボコボコに蹴り回されても尚懲りることなく襲いかかるエヴォフェイリャーだが、ファントムの後頭部にあるポニーテール状の装飾が伸び、鋭い刃となってエヴォフェイリャーの右腕を根本から切断した。
「ギャアァァァァァァァァァ!!!」
「あーもーうっさい!」
鬱陶しげに後ろ回し蹴りでエヴォフェイリャーをふき飛ばすファントム。
「やるな……」
「余所見してんじゃねぇよスペクタァァ!!」
突っ込んできたコオロギ野郎を躱す。とにかく何でもいいから長い棒を手に入れねぇと…………!
と、その時。
「虚空蔵くん!これ!」
振り向くと、美弥ちゃんが切断された手すりの一部を持っていた。
実はさっきファントムがエヴォフェイリャーの腕を切り落とした時、その後ろにあった手すりも一緒に切断されていたのだ。美弥ちゃんは手に持った手すりもとい鉄パイプをこちらに投げる。俺は落としてなるものかとコオロギ野郎を蹴っ飛ばして飛び込んだ。
「美弥ちゃんありがとう!!」
「虚空蔵くん、頑張ってっ!!」
無事受け取った俺は嵐の如く鉄パイプを振り回し、構えた。その瞬間鉄パイプが変化し、新たな武器が生まれる。
『ストリームロッド!!』
ストリームフォームと同じライトイエローのカラーをした棒型武器ストリームロッド。
二mに達する本体の両端は打突に効果的な丸い形状をしており、持ち手の中央より少し上にはスペクターオーブを装填するためのスロットが一つ設けられている。
フォームに対応した武器故か、不思議と握っていると力が漲る気がした。
「おぉ…………!いいな!負ける気がしねぇ!!」
「っ……武器ぐらいで調子に乗るなぁっ!」
向かってくるコオロギ野郎をストリームロッドを構えて迎え撃つ。敵の蹴りや掌底をストリームロッドで防ぎ、いなし、生まれた隙を突いて足技を織り交ぜた我流棒術で攻撃する。
「………………綺麗……」
「すげぇ………………」
ストリームロッドを振るう度に先端が輝き、黄色い閃光が軌跡を描く。傍目から見れば、まるで光が踊っているような幻想的な光景だろう。
一気に形勢逆転され、圧倒されながらも何とかストリームロッドを掴んで抵抗するコオロギ野郎だが、掴んでいる方とは逆側で膝の裏を叩いて膝を折らせ、ガラ空きになった顔面を殴り飛ばす。
追撃の手は依然緩めず、『流れるように』を意識してコオロギ野郎を徹底的に打ち据えていく。
「おー、やるじゃんあいつ」
「グルルル……」
ファントムの方はあらかた終わったようでエヴォフェイリャーは既に立つこともままならない状態だった。
そんなエヴォフェイリャーに視線を向けたファントムはベルトのオーブを押し込み、必殺技発動の準備に入る。
『ファントムフィニッシュ!!』
「あんたら、目ぇ瞑って耳塞いどき」
美弥ちゃんと夢芽に忠告すると赤いエネルギーを纏う右足をI字バランスの如く持ち上げ、処刑人の断頭斧の如くエヴォフェイリャーに振り下ろした。
「マタンサ・デル・ディアブロ」
振り下ろされた踵がエヴォフェイリャーを真っ二つに切り裂く。生々しい音と共に糸を引きながら左右に別れた化け物はドロドロに溶け、溶けかけた肉の塊らしき物を残して消滅してしまった。
「クソがっっ…………!!」
形成不利と見てかコオロギ野郎はその場から逃げ出した。当然逃がすわけもなく、後を追う。
公園の外へ跳んで逃げたコオロギ野郎が道路へ飛び出すと、そこに運悪く一台の車が走ってくる。マズイと思った瞬間、コオロギ野郎は足を突き出して車を止めた。フロントが大破し煙を上げる車から乗っていた人間が出てくる。
よく見るとそれは、すごく見覚えのある顔だった。
「うそ、未確認……!!?」
「お嬢様早く!早くお逃げください!!」
「…………!定禅寺先輩……!?」
なんと車に乗っていたのは定禅寺先輩とその執事さんだった。
「あぁ?何だよ虫ケラァ……!」
俺に押されて気が立っているのか苛立った態度でコオロギ野郎は二人に近寄り、今まさに手にかけんとしている。俺は急いで加速し、ストリームロッドを構えて強襲、ギリギリで躱されるが咄嗟に横薙ぎに振るって公園へと叩き戻す。
そして俺も戻ろうとした時。
「早く逃げろ!」
「みっ、未確認第二号!?すごっ、本物!?」
「え?」
呆気に取られるとものすごい勢いで定禅寺先輩が詰め寄ってきて俺の全身をくまなく観察してくる。その目にはオタクの輝きが宿っていた。
肝据わりすぎだろ何でこの状況でこんなグイグイ来れんだこの人!?
「お、お嬢様!?」
「うわぁぁぁぁスゴいスゴい!こんな感じなんだ……!へぇ~~~~!なんだ想像してたよりずっとカッコいいじゃん!なるほどライダーっぽいと言われるだけあるなぁ」
「定禅寺先輩っ!ノンキなことしてねーで早く逃げてください危ないですから!」
「ゑ?」
「あ」
咄嗟に先輩の名前を呼んでしまう。先輩はきょとんとした顔で俺を見ている。ほんとバカ。
「え~~……まぁ、その、ここは危ないから、車は捨てて早く逃げるんだ!とぉ!」
俺はそれだけ言ってその場から逃げる。バレてない、よなぁ……?
「今の感じ…………まさか」
公園に戻ってきた俺は美弥ちゃんと夢芽に近付こうとしていたコオロギ野郎に殴りかかり、二人から引き離すと更に滅多打ちにする。
「遅いよ。ちゃんと守んなって」
「すまない!ありがとう!」
二人を庇ってくれていたファントムに礼を言う。
コオロギ野郎の腹部にストリームロッドを叩き付けると、そのまま大きく投げ飛ばした。
「ガッ……!スペ、クターァァ……!」
「これで終わりにしようぜ、いい加減な」
ベルトから外したストリームオーブをストリームロッドに装填。エネルギーがロッドの先端に集約していく。
『Set&Charge Ready For splash!』
電子音声と共に大空へ跳躍。空中前転と能力による加速の勢いが乗ったストリームロッドをエヴォリオル目掛けて突き出す。
『SPECTER! OVER STREAM!!』
「スペクター!タキオンスプラッシュッ!!」
必殺の一撃がエヴォリオルに命中。集約された破壊エネルギーが一瞬の内にエヴォリオルの体内を何度も駆け巡り、弾け、内側から敵を完膚なきまでに破壊する。
「ガッ、あぁ……!?」
「ふんっ」
コオロギ野郎を殴り飛ばして距離を取り、ストリームロッドを構える。
打突を受けた箇所から全身にヒビが走っていき同時に色を失っていくコオロギ野郎は、運命に逆らうかのように足掻き踠く。が。
「……………………ッ!ウワァァァァァァァァァ!!!」
全身結晶化したエヴォリオルは爆発と共に砕け散り、後には影一つ残らなかった。
「ふぅ…………今回も勝てたな」
「虚空蔵、大丈夫か!?」
「虚空蔵くん!」
駆け寄ってくる三人にサムズアップで答える。
「何とか大丈夫だ。今回も何とかなったな」
「虚空蔵くんお疲れさま」
「美弥ちゃんありがとう。美弥ちゃんのおかげで勝てたようなもんだよ、本当にありがとう」
「お役に立てたならよかったぁ。ブイッ」
「やだかわいい。でも危ないことはあんまりしちゃダメだよ、ファントムとエヴォフェイリャーの直ぐ横んとこ通ってたでしょ」
「あ、あはは。今度からは気をつけ……あれ?ファントムさんいない」
気付いたらいつの間にかファントムは姿を消しており、どこを見ても見当たらない。既にこの場を後にしてしまったらしい。
「もう行っちまったのか、礼くらいきちんと言わせてほしいんだけどな」
「でもこれでファントムさんが悪い人じゃないって分かったよね!私達のこと二回も助けてくれたもんねっ。きっと心強い味方になってくれるよっ」
「まぁとりあえず敵ではなさそうですからね。味方ってポジションでいいんじゃないでしょうか」
「ていうか、早く撤退しようぜ。いつまでもいたら面倒だろ」
美弥ちゃん達が話している間、俺はふとある事に引っ掛かりを覚えていた。それはファントムが乗っていたあの赤いサイドカーのことだった。何処かで見覚えのあるバイクだと思ったのだが…………
『おぉ、虚空蔵くん達いらっしゃい!…………お、分かる?いいバイクでしょ。今日はおじさん休みを取ったからこのコを綺麗にしているんだ。よかったら後で乗ってみる?』
「まさかな………………」
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「…………お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん…………にしてもあいつらが虚空蔵達だなんてなぁ……やっぱちょっちエグいかも」
「…………………………」
「大丈夫大丈夫、んな顔しないの。な?」
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翌日
昨日の一件を経て次の日の午後。優衣と一緒にテレビを見ていると不意にチャイムが鳴った。
「お客さんだね、誰だろ?」
「誰だろうな?………………はーいっ」
来訪者を応対しようと玄関に出る…………それは、思わぬ来客だった。
「やっほー虚空蔵くん!」
「こっっっ、定禅寺先輩っっ!!?」
まさかの定禅寺先輩に変な声が出た俺。なんで先輩がここに……!?やっぱりバレたのか…………!?
「どうしたんですか?っていうか何で俺ん家…………」
「そりゃ調べられるからね~。ね、今って大丈夫?」
「は、はっす」
「グリッドマンかな?可愛いよね。
ちょっと聞きたいことがあってさ、そんなに時間は取らないから」
断れる理由もなく、俺は覚悟を決め、ガチガチになりながら先輩を案内する。
「下には妹いるんで上で話しましょう……………………
優衣ごめん。ちょっとお兄ちゃんお客さんと話してくるよ」
「う、うん。わかった」
「きゃ~~可愛いっ!虚空蔵くんの妹さん?」
「はい。妹の優衣です」
「し、七ヶ浜優衣です…………」
「か~わ~い~い~!」
「先輩、妹は恥ずかしがり屋なんでその辺でお願いします」
「あ、そうだったんだ。ゴメンね?」
そうして茶の間を後にし、俺の部屋へ案内する……そういえば家族と美弥ちゃんと夢芽以外で俺の部屋に入った女子って先輩が初めてだな…………。
適当に座ってもらうと、真剣な顔つきの先輩と向き合う。お腹痛い。
「単刀直入に聞くね。虚空蔵くん、あなたが未確認異形生命体第二号なの?」
俺の予想は的中していた。そりゃああんなポンやらかしゃバレるよな。クソが。
「……………………………………」
「安心して、言いふらしたりはしないし脅すわけじゃないの。ただ知りたいだけ」
先輩の言葉や目に敵意は無い。だからこそ突っぱねにくくて厄介なのだが。
何か邪な考えがあれば「あほ臭ぇ」の一言で突き放してお帰り願うんだけどな…………
「………………はぁ。誰にも言わないでくださいね」
「ってことはやっぱり?」
「はい。俺が世間で言うところの未確認異形生命体第二号…………スペクターです」
俺のカミングアウトに驚く先輩。さぁどう出るかと身構える。
「やっぱり!うわすっご!いやーいやいや、まさか現実にライダーみたいなヒーローがいるなんて…………いや~アガるねぇ!ゾクゾクするねぇ!」
しかし、先輩は昨日のようなハイテンションで俺の周りをグルグル回り、舐め回すように全身を見られる。
「は、はぁ……フィリップくんですか?」
「まぁね!………………昨日は本当にありがとう。虚空蔵くんがいなかったらあそこでじいやと一緒に死んでたと思う」
「大したことはしてないですよ。俺にしか出来ないらしいことをしただけなので」
「主っ人公~!ねぇ、私も仲間に入れてもらえないっ?」
「え"」
「なーにーその顔。ダメ?」
「いやいや危ないなんて話じゃあないんですよ?先輩に何かあったら定禅寺家の一大事でしょう」
「もちろん覚悟の上よ。でもさ………………本物のヒーローの活躍をこんな間近で見られる機会なんて、一生どころか十生しても無いでしょっ!!?お願いっ完全自己責任だから、ねっ!?」
必死こいて頼んでくる先輩にちょっと引きつつ頭を押さえる。味方は多い方が良いとはいえ、流石にここまでの大物を巻き込むのは如何なものか…………。
「いいじゃないですか虚空蔵さん。仲間になってもらえば」
「うおぉぉぉ!?」
「おぉう!?」
バァン!!と押し入れを勢いよく開け放って奈緒が現れた。
俺も先輩も完全な不意打ちにひっくり返らんばかりにビックリする。
「奈緒てめぇっ!さっきからいねぇと思ったらなんでんなとこいんだボケェ!!」
「こ、このコは?」
「どうも初めまして、仙台奈緒と言います。七ヶ浜家の居候です。
虚空蔵さん、先輩さんにも味方になってもらいましょう。味方は多い方がいいですし、定禅寺家ってあの大財閥ですよね?きっと頼りになると思いますよ」
「けどなお前…………」
「奈緒ちゃんの言う通りよ!きっとそう遠くない内に役に立てる時が来るよ!仲間にして損はないよ!」
奈緒の援護を受けた先輩は更に押しを強めてくる。
もうどうとでもなれと、俺は折れることにした。
「本当に危ないんで、ヤバいと思ったら逃げてくださいね。はぁ…………」
「! 虚空蔵くんありがとう!!これからよろしくね!」
嬉しそうに喜ぶ先輩に苦笑いする。
こうして頼もしい(?)仲間が一人増えたのだった。
閲覧ありがとうございました。
見事エヴォリオルを撃破し、新たな仲間も得た虚空蔵くん。ところがエヴォリオルの魔の手は依然として苛烈でまた新たなエヴォリオルが現れて…………
次回も新フォームが登場しますよ!
今回はストリームフォームとファントムのスペックです。
《ストリームフォーム》
パンチ力:10ton
キック力:127ton
ジャンプ力:一跳びで850m
走力:100mを1.8秒
必殺技
スペクタータキオンスプラッシュ:220ton
《ファントム》
パンチ力:45ton
キック力:86ton
ジャンプ力:一跳びで165m
走力:100mを2.8秒
必殺技
マタンサ・デル・ディアブロ(ファントムキック):
280ton
マタンサ・デル・モンストルオ(ファントムパンチ):170ton