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第7話 『二号』

前回投稿から2ヶ月近く経ってしまったのは私の責任だ。

だから私は謝る本当にごめんなさい。


話は変わりますが何気なく確認したらPVが184、ユニークが121と、僕が思っていたよりずっとたくさんの人に見ていただいていてビックリしました。本当にありがとうございます。

これからも気長にお付き合いしていただければ嬉しいです。よければ何かしらコメントや評価もついで程度にしてみてください。


七ヶ浜家 AM6:42



「………………………………………………」


朝飯を作りながら、俺は昨日のことを考えていた。

エヴォリオルを倒した後に現れた謎のスペクターらしき超人。昨日からあの謎の存在のことで頭がいっぱいだった。


「ちっ……余計なことで悩ませんじゃねぇよクソが……」


悪態をついていると、トイレを済ませたモカが勝手口から戻ってくる。


「お、お帰り。ほいガムガム」

「~♪︎」


歯みがきガムを齧るモカを横目に朝飯と弁当を作り終えると洗濯物を干すために二階のベランダへ向かう。

干し終わると下に降りて庭に出ると花にホースで水をやる。水を浴びてキラキラと輝く花達に癒されていると優衣とお姉ちゃんが一緒に起きてきた。


「にぃにおはよう」

「虚空蔵ちゃんおはよぉ」

「二人ともおはよう。月姉は?」

「起きてはいるよ。まだお布団の中でモゾモゾしてた」

「了解」


家の中に戻り、朝飯を食べる前にテレビを点ける。と、朝の情報番組からあるニュースが流れてきた。


『速報です。ここ数週間、宮城県に出没している謎の人型生命体について、警察庁はこれを〝未確認異形生命体〟と呼称することを発表しました。警察によりますと…………』

「未確認異形生命体、ね……」

「ここ一ヶ月くらいずっとこんなニュースばっかりだね。イヤだなぁ……」

「この前は駅前の方にも出たんだよね…………もしかしたらこっちの方にも出るのかな……」

『また、同時にこちらの青と黒の怪人を未確認異形生命体第二号と呼称する事も決定しました』

「んぐっっ」

「に、にぃに?」


思わず吹き出しそうになった。

画面にはどうやって撮ったのかスペクターの画像が映っており、その下には〝未確認異形生命体第二号〟とはっきり書かれている。つまり俺もエヴォリオルと同類の危険物と見なされてしまったわけだ。くそったれ。


「はっ、最っ高だな…………」

「虚空蔵ちゃん大丈夫?どうしたの?」

「何でもないよ、大丈夫……ちょっと味噌汁が変なとこ入っただけ」

「おふぁよ~~」


適当に誤魔化しニュースにため息をつくと、ボサボサの髪の月姉があくびをしながら茶の間に入ってきた。


「おはようお姉ちゃん」

「月姉おはよう」

「月お姉ちゃんおはよう」

「うんうん、今日も弟妹(おとうといもうと)が超可愛い…………あれ、奈緒ちゃんはー?」

「あ、忘れった」


しゃーねぇ叩き起こしてくるか、朝飯が冷める。茶の間を出て客間に向かい静かに(ふすま)を開けると、奈緒は気持ちよさそうに熟睡していた。

…………幸せそうに寝てるなこいつ。


「おいコラ奈緒、起きろ朝飯だぞ」

「くぅ………………おはよう虚空蔵くん……」

「美弥ちゃんの真似のつもりかてめぇ……ったく、おらさっさと起きろ!…………エヴォリオルのことで少し話したいしよ」

「…………何ですか?」


エヴォリオルというワードを口にした瞬間眠そうだった奈緒の目が一気に冴え、目付きが鋭くなる。


「さっき、エヴォリオルを未確認異形生命体って呼称することを警察が発表した。で、俺もその未確認異形生命体の一員だとよ……ほんとツイてる」

「端から見れば化け物同士が殺しあってるようにしか見えませんしねぇ」

「ちったぁフォローしろよ……」

「他には何か?」


一通りニュースで流れていた内容を奈緒に伝えると、奈緒は少し思案してから口を開いた。


「現段階では特に問題はありません。引き続きエヴォリオルをブチのめしてください」

「わかった。あと起きろ」

「ん」

「……んだその手」

「起こしてくださいよ~」

「自分で起きろタコ」

「む~~いいじゃないですか~。起ーこーしーてー」


手をパタパタさせて駄々をこねる奈緒。顔や声は美少女なだけあって割りと様になっているのが残念ポイント高いな…………アニメや漫画なら萌えるシチュなのに現実だとこうも微妙な気持ちになるとは……。

しょうがなく奈緒の手を取って起こしてやる。


「おら、マジでさっさと起きろ。みんなの飯食う暇無くなんだろ」

「ありがと~虚空蔵くんっ♪︎カッコいいっ♡」

「うわやっっっすい萌え声」

「んだとこらテメェ」


寸劇も程々に奈緒を連れて茶の間に戻り、ようやっと朝飯を再開する。


「……そうだ、今日の晩ご飯何がいい?」

「うーんなんだろー?」

「お姉ちゃん唐揚げがいいー」

「あ、優衣も唐揚げがいいなぁ」

「塩か醤油か」

「塩ー」

「醤油、かなぁ……」

「了解、両方作るよ。お姉ちゃんも唐揚げでいい?」

「うん、いいよぉ」

(朝ご飯食べながら夜ご飯の話始めたことには誰もツッコないんですね……)


奈緒が変な視線を向けてきている気がしたが無視し、おかわりのために席を立つ。どんぶりに米をよそっていると奈緒も空の茶碗を持って台所へと来た。そしてふと口を開く。


「そういえば気になってたんですけど…………なんで炊飯器二つもあるんですか?」


奈緒の言う通りうちには五合炊きの炊飯器が二つある。何故かと聞かれれば、答えは実に単純だった。


「俺が食うからに決まってんだろ」

「いやでも二つって……」

「一つだとお姉ちゃん達の食う分が足りなくなるんだよ、こっちは俺用の炊飯器だ」

「個別で炊飯器必要ってどんなくいしん坊万歳ですか。なんか一人だけお弁当箱じゃなくてタッパーにご飯詰めてるなとか、いくら四人でもおかずの量多くね?とは思いましたが」


呆れたような感心したような口調で言う奈緒。

正直、自分でも引くくらい食べることも珍しくないのだが、こればかりはどうしようもない。昔からかなり食べる方ではあったのだが、大半の男が経験するように、中学に入ってからは更に食欲が加速した。


「流石に俺も思うところはあったんだよ…………で、中学ん時食べる量を落としたら月姉とお姉ちゃんに叱られたんだよ。

『そんなこと気にしなくていいからしっかり食べろ』ってな」

「いい人達ですねぇ……」

「当たり前だろウチの姉は世界一だぞ」

「気持ちは分からなくもないですけどそれは理屈になってないんよ虚空蔵さん」

「うるせぇ黙れ埋めんぞ」

「朝からこんな物騒な三連コンボ聞くことある?」


飯を食べ終わり、各々支度を済ませてお姉ちゃんと優衣を見送ると、隣から美弥ちゃんと夢芽が出てきた。


「おはよう虚空蔵くんっ」

「虚空蔵おはよ」

「おはよ、さっきのニュース見たか?晴れて俺もエヴォリオルの一員だよくそったれ」

「うん、見た。未確認異形生命体かぁ…………どんどん大変なことになっていってるね。虚空蔵くんもエヴォリオルってことにされちゃったし、どうなっちゃうんだろ……」

「なるようにするしかない、かな。頑張ってみるよ」

「お前がめっちゃ強いのはオレ達もよく知ってるけどよ、逆を言えばお前みたいな人間辞めてるクラスで苦戦するような連中なんだ。マジで気をつけろよ」

「あぁ分かってる。準備してくるからちょっと待ってて」


一旦家に戻り、鞄と上着、バイクの鍵をひっ掴む。


「月姉いってきまーす」

「はいよー気をつけていってらしゃーい」



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異空間 城内 広間


「次は俺の番だ。必ずゲームは成功させる」

「精々頑張れよ、グラス」

「出来れば死んで僕らに順番回してねー」

「そーそー、よろしくぅ」

「はっ、吠え面かかせてやるよ」

「じゃあグラス、行っておいで」



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杜都町 城東学園 AM8:19


「もう一人のスペクター……!?ほ、本当でござるか?」


昨日あった謎のスペクターの一件を楽人に伝えると、声を潜めながらも驚愕の表情を顕にした。俺は問いに頷く。


「あぁ、エヴォリオルだけでも面倒くせぇのに奈緒すら知らねぇスペクターが出てきやがった…………面倒事ばっか増えやがる」

「なんと…………」

「良い人だって思いたいけど……虚空蔵くんも姿を見ただけなんだもんね」

「うん遠目で見ただけ、直ぐに消えちゃったから」


奴が敵か否か分からないが俺を見るだけで襲ってこず、殺気や敵意も感じなかったことから敵ではないと思いたい。

無論単に様子見をしていただけという可能性も十分あり、最悪人間側でもエヴォリオル側でもない第三勢力である可能性も0ではないだろう。あぁ、頭が痛い。


「虚空蔵殿、くれぐれも気をつけるでござるよ。まぁ虚空蔵殿なら大丈夫だとは思うでござるが…………小生も小生で情報収集してみるでござるよ」

「悪ぃ、頼む」


そうこう話しているとHR開始のチャイムがなり、一旦話し合いはお開きとなる。


(あの赤いスペクター……今度会ったら絶対ぇとっ捕まえる)


担任の話を聞き流しながら、俺は謎のスペクターへ思いを馳せるのだった。



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「虚空蔵さんもそろそろスペクターに慣れてきましたかねぇ。

次の段階にいってみてもいいかなぁ……〝これ〟使えるようなエヴォリオル出てきてくれないかなぁ」


手に持ったオーブで遊びながら私は独りごちた。

スペクターの基本フォームであるソルジャーフォームに変身するためのオーブとは違う、ライトイエローのボディに黄色の目を持つスペクターの顔が描かれているオーブ。次はこれを使ってもらいたいのだが…………。


「…………まだ出てこないか。これだけハイペースでやられりゃ流石に自重……しないか、あの下種共は」


感知してみるものの、今のところエヴォリオルの動きはない。

役に立たない奴ら、と心の中で毒づき、テレビを点ける。しかし今は朝の十時を過ぎたところでどこのチャンネルも大した番組はやっていない。


「あ、ナマイキTVあるからそれ見るかー」


東日本放送で毎週月~金曜にやってる宮城のローカル情報番組、その名もナマイキTV。

この前超ひさしぶりに見て感動したんだよなー。やっぱりこの世界でもやってるんだって少し安心感すら覚えた。

『デパスパ一番のり』とか『ナマなキッチン』もいいけど、やっぱり一番は『本間ちゃん流方言講座』だな。面白い上方言も学べる優れもの。


「ま、待ってれば向こうから出てくるか…………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『美弥ちゃん夢芽ちゃん、今日は何して遊ぶー?』

『うーん何しよーねー?』

『スマブラするかぁ?それともマリカー?』


幼い頃の俺達三人は小学校の校庭を歩きながら遊ぶ予定について話し合っていた。ゲームで遊ぶか外に行くか、あれこれ話していると一人の女の子が小走りでやってきた。


『おーいみんなー!』

『あ、〝恵里ちゃん〟!』

『ねぇ、今日遊べる?』

『うん遊べるよぉ。恵里ちゃんも遊ぼっ』

『うん!僕も遊びたいっ!』

『じゃあ恵里も一緒な!』


夢芽の言葉に女の子は頷き、その子を含めた四人で談笑しながら下校していくのだった。


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ーーーーーーーーー

ーーーーーー


「虚空蔵くーん、起きてー」

「……………………ん」


美弥ちゃんの声で目を覚ますとそこはいつもの教室だった。三秒ほどして、昼飯を食った後に少し昼寝をしていたことを思い出す。


「おはよう虚空蔵くん。いい夢見れた?」

「んー…………なんか、懐かしい夢を見たよ」

「へぇ~どんな夢?」

「小学校の頃、みんなで一緒に帰る夢だった…………恵里も一緒だったよ、懐かしいな」

「……………………そうだね」

「ただいま……ってなんだよ二人してしょっぱい顔して」


教室に戻ってきた夢芽にさっき見た夢の話をすると、俺達と美弥ちゃんと同じく何とも言えない顔で苦笑いを浮かべた。


「あー…………まぁオレもそーいう夢、偶に見るよ。また嫌な夢見たな」

「あぁ…………」

「やーやーお三方!暗い顔をしてどうしたのでござるか?」


言葉が続かずに微妙な空気になりかけた時、いつもの調子で楽人がやってきた。

楽人は俺達の沈んだ表情を見て怪訝そうに尋ねてくる。


「もしやまたエヴォリオル関係、でござるか?」

「うんうん、エヴォリオルじゃないんだ。ちょっと、ね……」

「楽人に聞かせるような話じゃないさ」

「そうでござるか…………なら朝の続きでござるが、もう一人のスペクターも然ることながら、虚空蔵殿はまた大変なことになってしまったでござるなぁ。エヴォリオルと同列扱いとは何とも……」

「化け物扱いは慣れっこだからな、いつものこった」

「いやしかし……」

「何も知らねぇ人間から見りゃスペクターもエヴォリオルも少し毛色が違う程度でバケモンであることに変わりはないからな。

熊も虎も、見た目や中身がどれだけ違おうが人間から見りゃ危険な猛獣であることに変わりはないのと同じだ。人の血の味を覚えてりゃ尚更だろ」

「それは、そうかもしれないでござるが……」

「何もしてない虚空蔵くんが悪者扱いされるのは嫌だなぁ……虚空蔵くんは沢山の人を守ってるヒーローなのに…………」

「俺がヒーローか…………こんなダメダメなヒーローそういないよ。所詮俺なんてこんなもんさ」


これは単なる自虐なわけではなく、俺の本心だ。

既に犠牲者は五十人以上、まだテレビでやってない象のエヴォリオルの一件を含めりゃ七十人近くが奴らの犠牲になっている。しかもこの一ヶ月経つか経たないかの短い期間でだ。怪我人も合わせれば百人以上の被害者が出ているだろう。

流石に0にするのは無理だとしても、本来なら一人でも多く犠牲者を減らすのが俺の役目だ。しかし現実は後手後手に回ってしまって防げていない。

こんなのがヒーローだなんてお笑いだ。ヒーローヲタクだからこそ、こんな自分がヒーローだなんて絶対に認めない。

様ぁない体たらくを鼻で笑うと、何を思ったか美弥ちゃんは両手で俺の顔をむにゅり、とあっちょんぶりけのように挟み込んできた。突然のことと真っ直ぐに俺を見てくる瞳に心拍数が上がり、顔が熱くなるのを感じていると美弥ちゃんはキリッとした真剣な顔で話し始めた。


「虚空蔵くん」

「は、はい」

「虚空蔵くんはすっごく頑張ってるよ。虚空蔵くんがいなかったら今頃もっと大変なことになってたし、今よりもずっと沢山の人達が被害や犠牲になってた筈だよ?でも、虚空蔵くんが戦ってくれたから被害も犠牲も最小限で食い止められてる。でしょ?」

「そうかなぁ…………」

「そうに決まってるよ。私達がこうして学校に通って何事もなく生活出来てるのは虚空蔵くんのおかげなんだもん…………もっと自信を持って、ね?」


そう言うと、美弥ちゃんの顔は真剣な表情からいつも通りのふにゃっとした優しい顔に戻る。

そのギャップにドキッとしつつも眼鏡のズレを直してから、彼女の言葉に真っ直ぐ目を見て返す。


「ありがとう美弥ちゃん。なんか、ちょっと自信出たかも」

「うんうんっ、それなら良かった」

「…………………………………………」

「美弥ちゃん?そろそろほっぺイジるのやめてほしいーって」


笑顔になる美弥ちゃん。笑っている彼女を見ると自然とこちらの口角も上がる。二人でニコニコしていると、夢芽と楽人がニヤニヤしながら茶々を入れてくる。


「相変わらずイチャイチャしてんなぁお二人さん?」

「もう結婚した方がいいでござるよ、後のことはそれからでも遅くないでござる、うん」

「うっせぇなぁ……折角の雰囲気壊すんじゃねぇわ」

「あはは、結婚かぁ……………………結婚かぁ」

「美弥殿何故二回言ったでござる」


そうやってふざけて笑っていると、昼休みの終わり五分前を告げる予鈴がなる。


「おら、予鈴鳴ったぞ。ちゃっちゃと戻れ」

「へいへい。照れんなって」

「うっせぇ」

「結婚…………結婚…………」

「美弥ちゃんもいつまでトリップしてんの。ほら戻ってきて」



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杜都町 PM12:36



「ふん、ここが今回のフィールドか…………」


平和な街に一つの影が降り立った。

カウボーイのようなウエスタンな格好をした青年は辺りを見渡して不敵な笑みを浮かべる。年代を感じさせるその姿は現代日本の街並みにはかなり浮いており、人々は奇異の目で青年を見ては通り過ぎていく。


「鬱陶しいな……適当に肩慣らしでもするか……」

「応援しているぞ、グラス」

「……アラン。まぁ軽くこなしてやるよ。

しかし人間はいい、数だけはいるからスコア稼ぎの標的(ターゲット)に最適だ」

「あぁ…………出来れば、憎きスペクターは私が倒したいが……」

「あいつらは弱かった。弱かったから負けて死んだ。それだけだ。お前は感傷的になりすぎるんだよ」

「………………………………」

「俺はゲームを始める。じゃあな」


グラスは手をひらひらと振って人波に消えていき、アランはその背中を見えなくなるまで見送ったのだった。



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城東学園 昼休み PM12:55


「虚空蔵ー、何かおかずくれー」

「自分の弁当あんだろーが……ほれアスパラベーコン」

「やったサンキュー!」

「美弥ちゃんは卵焼き食べる?」

「いいの?やったぁ!」


二人におかずを分けながら弁当を頬張る。

タッパーに詰めた二合分の白飯をかっ込みながらスマホを見ていると、一本の電話が掛かってきた。


「もしもし」

『虚空蔵さん、エヴォリオルです!宮城野通の方ですお願いします!!』

「分かった、直ぐ向かう」

「虚空蔵くんもしかして……」

「そのもしかしてだって。俺行ってくるよ」


食いかけの弁当箱とタッパーを仕舞うと担任が教室に入ってきた。その急いだ雰囲気や表情から何があったかを察する。


「みんな緊急よ。街中の方にまた未確認異形生命体が出たんだって。

今日はここまでにして即帰宅、仙台駅を利用する子やそっちを通っている子は保護者に連絡して迎えに来てもらうように。絶対一人で帰っちゃダメよ」


「…………だってよ。美弥ちゃん、夢芽、楽人、帰ろうぜ」

「うん……でも私達はどこで降ろうしてもらう?どこかに隠れてればいいかな?」

「俺の目の届くところに居てくれた方がありがたいっちゃありがたいけどね。エヴォリオルが一体だけとも限らないし」

「それも一理あるでござるな、虚空蔵殿と別れた先で他のエヴォリオルにばったり……という可能性も十分あり得るでござる」

「まぁ虚空蔵がいるなら大丈夫な気もするしな。現にオレ達この前の黒豹のエヴォリオル以外は目の前で戦ってるところ見てるし」

「とにかく現着だ、行くぞ!」


話しも決まり、バタバタしだした学園を走り抜ける。階段を二段飛ばしで駆け降り、昇降口まで辿り着く。

と、そこで見覚えのある人物に遭遇する。


「あ、虚空蔵くんに美弥ちゃん」

「楓さんっ!こんにちはっ」

「美弥姉ぇあいさつ出来てえらいけど今は急ごうな?」

「定禅寺先輩、随分下駄箱に来るのが早いですね。やっぱり生徒会長だけあって情報が来るのも早いんですか?」

「? 何の話?」

「また未確認異形生命体が出たんです。聞いてないですか?」


俺の言葉に驚く定禅寺先輩。


「え、そうなの!?私はいつもの如く早退で……さっき教室を出ちゃったから……」

「迎えの人は?」

「もう少ししたら来ると思う」

「ならよかったです。駅前やその近くを通ってきてる生徒は保護者に迎えに来てもらえって言ってたので」

「虚空蔵くん達は?」

「俺達は大丈夫です、先輩も気を付けてください」


そう言って頭を下げ、急いで靴を履き替えると同時に駐輪場にダッシュする。


「随分急いでたなぁ……何かあったのかしら…………?」



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宮城県 宮城野通 PM13:08


「うわぁぁぁ!!」


警官の一人がエヴォリオルに発砲する。しかしエヴォリオルに命中した銃弾は、ぐしゃり、とひしゃげてそのまま地に落ち、エヴォリオルはその様子を鼻で笑う。

エヴォリオルの足下には無数のひしゃげた弾丸が落ちているが当然一切のダメージは無い。エヴォリオルにとって銃撃など指先で押されるほどの衝撃もないのだ。


「ははっ、いい眺めだ! ほらっ!」


エヴォリオルが動く。一瞬で自分に発砲してきた警官の背後に回ると腕を取って固め、一気に跳んだ。


「うわ、うわ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!??」


エヴォリオルは警官を連れて一瞬の内に高層ビルを超えるほどの高さへと到達し、


「あばよ14人目っ!」


そのまま警官を地上に向けて蹴り跳ばした。




『The Blue&Black Soldier

SPECTER is born!!』

「うぉぉぉぉぉぉ!!」


スペクターに変身した俺は落ちてきた警官を受け止める。

着地して安否を確認するが、背中が大きく〝陥没〟していた警官は既に事切れていた。


「くそったれ…………!」

「よぉ、スペクター」


顔を上げるとそこには背中に一対の翅を、両腰に後ろ向きに飛び出た突起を持ち、薄茶色の飛蝗によく似た姿のエヴォリオルがいた。


「飛蝗……いや、蟋蟀(こおろぎ)か……?」

「お、正解だスペクター。

俺はクリケットエヴォリオルのグラス。まだ数を稼いでないからお前を殺すのは後だが……折角だ、少し遊んでやるよ」

「面白ぇ……遊んでもらおうじゃねぇか」


構えながらゆっくりと歩き出す。お互いに気を張り詰めて牽制し合う中、最初に動いたのは向こうだった。


「おらっ!」


エヴォリオルが跳躍し、空中から蹴りを繰り出してくる。俺は相手の足に沿うようにして懐に潜り込み、パンチをぶち込んで地面に叩き付ける。アスファルトを砕きエヴォリオルは地面にめり込んだ。

更に踏み潰すようにストンプを繰り出すがギリギリで躱され、軸にしていた左足を蹴り払われる。


「っ! はっ!」


瞬時にバク転に移行し、体勢を整えて構える。

再び睨み合いとなりエヴォリオルは楽しげに笑う。


「いいな!今までの連中が弱かっただけだと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい」


エヴォリオルの満足気な台詞を無視して殴りかかる。エヴォリオルは跳んで躱そうとするがそれも織り込み済みで、拳をほどいてエヴォリオルの足を掴む。


「なっ…………!?」

「甘ぇんだよコオロギ野郎ぉぉ!!」


クレーターが出来る程の力と勢いでエヴォリオルを何度も地面に叩き付ける。エヴォリオルは何とか逃げようとするが馬乗りになり、その顔面目掛けて拳を振り下ろす。


「くそっどげっ…………!」


固く握った拳をハンマーのように、ねじ込むように叩き付ける。


「おぉこっわ……」

「さながら鬼か羅刹でござるな、ラフファイトここに極まれりでござる」

「…………………………!虚空蔵くん危ないっ!!」


美弥ちゃんの声にハッとした瞬間、何者かの攻撃でふき飛ばされる。


「虚空蔵くんっ!!」

「っ…………!誰だっ!」


見ると、そこには一人の青年が立っていた。

俺達と同年代ぐらいのそいつは緑と白を基調とした服装に身を包み、輝くような金髪に青い瞳を持つ凄まじく整った顔立ちをしている。

…………しかし俺を見る目には、その顔立ちに似つかわしくない憎悪を宿していた。その目でそいつが何者か直ぐに察する。


「お前もエヴォリオルか」

「そうだ。偉大にして全ての頂点に立つ存在、エヴォリオルの一人……アランだ。覚えておくことを許可してやる」

「……っっっはっ!そりゃどうも。俺如きに負ける頂点に立つ存在たぁ、随分ご立派だな?」


傲慢そのものの態度で話すアランに皮肉を込めて吐き捨てる俺。アランの目付きが更に険しくなり構える。


(こいつ……強いな、それもかなり)


「グラス、大丈夫か?」

「あぁ…………余計なことしやがって、俺はともかくお前はいいのかよ。テオス様にお叱りを受けるんじゃないか?」

「その時はその時だ。私もそう何回も手を出すつもりはない」

「…………そうかよ、悪いな」

「気にするな、私の勝手な横槍だ。傷は治す、ゲームを続けろ」


そう言うとアランは本当にエヴォリオルの傷を治してしまう。驚く俺を見てほくそ笑む顔が腹立たしい。


「どれ、続けようぜスペクター。本気でいくぜ?」

「あーそうかよ。最初から本気だせペットの餌野郎」

「今から嫌というほど見せてやるさ……いくぜ!」


その瞬間、エヴォリオルが見えなくなる。

身構えていると建物の壁や道路、乗り捨てられた車等、あちこちのありとあらゆる物が粉砕されていく。

何事かと目を凝らすと、それは凄まじい脚力で周囲をピンボールの如く跳び跳ねるエヴォリオルの姿だった。


「ははははっ!!行くぞぉ!」


弾丸のように突っ込んでくるエヴォリオル。防御の構えを取った瞬間エヴォリオルの蹴りが炸裂し、両腕がへし折れる。


「~~~~~~っっっ……!」

「虚空蔵!!」

「虚空蔵殿ぉぉぉ!!」


踏ん張って持ちこたえ、急いで折れた腕を治す。嫌な感覚、感触、『ゴキゴキ』とも『グチャグチャ』ともつかない生々しい音を立てて千切れかけていた腕が元に戻り、ギリギリ二撃目を回避する。


「痛っっ…………!!……っ!」


腰のベルトからブットブレイカーを召喚して向かってくるエヴォリオルを叩き潰そうと武器を振るうが、相手のスピードが速すぎて辛うじて目で追えてもその後の動きが追い付かない。

何より、エヴォリオルは〝何も無い筈の空間を蹴って〟立体的かつ柔軟な機動力で全方位から突っ込んでくる。

捉えた瞬間武器を振り回しても、空しく空を切るだけだった。


「ほぉらよっ!!」


エヴォリオルの蹴りをブットブレイカーで防ぎ、そのまま打ち返す。しかしエヴォリオルはさも当然のように反転して空中に着地する。 

俺はそれを追って跳び、ブットブレイカーの一撃をブチ込んでやろうとするもこれも躱されてしまい、大きくジャンプしたエヴォリオルはビルの合間へと逃げた。

後を追って走ると、そこはある大型マンションの吹き抜けだった。


「来なっスペクター……付いてこれるならなっ!!」


不敵に言い放ったエヴォリオルは再び跳躍し、何十mもあるマンションの屋上へと一瞬の内に消えていった。


「言われなくても直ぐ追い付いてやるよっ…………!」


足に力を込めて、しかし周りに被害が出ない範囲の加減で跳ぶ。それと同時にエヴォリオルも動き、あっという間に屋上に辿り着こうとした瞬間、エヴォリオルが屋上から飛び蹴りを繰り出してきた。

咄嗟に躱すがエヴォリオルは通路の壁を蹴って再び突っ込んでくる。再び躱そうとするがある事に気付いて防御に切り替えた次の瞬間敵のキックが炸裂し、そのまま地上まで一気に蹴り落とされてしまった。


「がっっっ………………!!!」

「はははっ、Too easy!」


俺を蹴り飛ばした反動を使ってエヴォリオルは再び屋上へと戻っていく。


「虚空蔵くん!」

「お前何で避けなかったんだよっ?」

「避けたら被害が広がる……下手すりゃ人の住んでる部屋に奴が突っ込む……野郎ハナからこれ狙ってやがったな…………!」


そう、ここはマンションの敷地内。下手な攻撃や回避、力加減のミスは周囲に被害をもたらし、被害者はおろか犠牲者が出てしまう。

それだけじゃない、ここは奴にとってかなり優位なフィールドだ。俺がジャンプで追ってくれば今のように蹴り落とし、飛行能力で飛んでいこうにもここまで狭い場所では飛ぶという行為にアドバンテージが無い。むしろ立体的かつ機敏に動ける奴の方が圧倒的に小回りが利き、有利に立ち回ることが出来る。まんまと誘い込まれたわけだ。

何とか立ち上がった時、四方八方から足音や声が聞こえてくる。その正体にハッと瞬間三人に叫ぶ。


「みんな早く隠れろ、人が来るっ!」

「っ!分かった!夢芽ちゃん楽人くん!」

「りょーかい!」


三人が撤退した直後、外の騒ぎを聞きつけたマンションの住人達があちこちの部屋から飛び出してきた。そして俺を見た途端、住人達は悲鳴を上げてパニック状態に陥る。


「くそっ、ますます面倒になりやがった…………!おい!全員家ん中戻れっ!死ぬぞっ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」

「早く入って!!早くっ!」

「おい嘘だろ何でこんなところにいるんだよぉ!」


混乱状態の住人を後目に再び大きく跳躍。待っていたと言わんばかりにエヴォリオルも動き出し、突撃してくる。

空中でエヴォリオルを迎え撃つがやはり地の利もあって相手が有利であり、予測出来ない軌道に翻弄される。

結局有効打を与えられないまま地上に着地し、屋上へ舞い戻ったエヴォリオルを睨む。


「どうしたスペクター?早く上がってこいよ!」


言われんでも今すぐ行ってやる…………その言葉をグッと飲み込んで策を考える。


(どうする……ここはあいつにとって自分の能力を有効に活かせるフィールドだ。外に出ても空間を蹴って同じことが出来る以上、被害の面ではともかく戦闘面で見れば状況は変わらない。

もっと速く、高く跳べれば…………!!)


悔しさと焦りから気持ちばかりが急き、苛立ちと共に歯噛みする。

しかし、直ぐに状況が変わる出来事が起きた。


『虚空蔵さん!』

「っ!」


振り向くと外へ続く通路、ちょうど住人やエヴォリオルからは見えない場所に奈緒が立っていた。その手には見たことのないライトイエローのスペクターオーブが握られている。


『話は後です、これを使ってください!』


テレパシーで告げてきた奈緒はそのオーブをこちらに投げ渡す。オーブには黄色い目をしたスペクターが描かれ、四方の装飾も三つの稲妻を重ねたような形状になっていた。


「……よしっ!」

『ジャンパー!』


オーブを起動し、ベルトに装填する。



『チェンジ!ストリーム!』


            「はっ!!」



もう一度大きく、高く跳ぶ。

青かった装甲は形を変えて煌めく稲妻のような黄色に変わり、肩アーマーは最低限の機能を失わない肩パッドほどのサイズにまで小型化。

目の色も青から黄色へと染まる。


「なにっ!?」


瞬き一つしている内に、俺はマンションも驚くエヴォリオルの頭上も優に飛び越え、屋上へと降り立った。


「変わった…………!!」


『Jump Over Rise!

      Stream Form!!』



青のスペクターから黄色のスペクターへ。

〝スペクター・ストリームフォーム〟の誕生だった。



「ちっ!」

「逃がすか!!」


逃亡したエヴォリオルを追って走る……………………が、あまりに速すぎた。

一歩目から正に稲妻のような速さで走り出し、その移動速度の急激な上昇に感覚が追い付かず、勢い余ってエヴォリオルを追い越しそうになってしまった。


「……っっ!? おらぁっ!」

「ごっっ!?」


床を抉りながらもなんとか減速し、その勢いを利用した回し蹴りでエヴォリオルを蹴り飛ばす。屋上のフェンスをぶち破り、遠くのビルまでふき飛んでいったエヴォリオルを追って俺も跳ぶ。

体はまるで羽のように軽く、いつも通りの力加減にも関わらずビルとビルの間を軽々と飛んでいく。

あっという間にエヴォリオルに追い付き、そこからビルからビルへ飛び回るチェイスが始まる。


「ちぃっ!なんで対応出来てるんだっ!?」

「いいな、これならいける!」


空中で何度もぶつかり合い、一進一退の攻防を展開する。

エヴォリオルの繰り出してきた蹴りを体を捻って右足で弾き飛ばし、後ろ回し蹴りを喰らわせる。一旦距離を取り、再度突っ込んできたエヴォリオルが掴みかかってくるがカウンターで顔面にドロップキックを叩き込み、思いきり蹴り飛ばしてやった。


「ぷがあっ…………!!?」


気付けばいつの間にか街を一周して元のマンションへと戻ってきていたらしく、蹴っ飛ばしたエヴォリオルは先程の屋上に墜落する。

着地した瞬間一気に間合いを詰め、起き上がったエヴォリオルにパンチのラッシュをぶち込んだ。


「………………っ!?」


………………が、何かが違った。

手応えがあまりに軽すぎる。エヴォリオルが特別硬いわけではない。現にさっきまでの蹴りは通っていた。

もう一度ラッシュを叩き込むがエヴォリオルは大してダメージを受けている様子はなく、今度は俺が一度距離を取る番になった。

………………まさか、もしかして……


「パンチ力が弱くなってんのか……!?」

「おいどうしたスペクター。随分ショボいパンチじゃねーか?」


一転して余裕を見せるエヴォリオルと真っ向から組み合う。


「!!? な……!?」


が、本気を出しているにも関わらず簡単に力負けしてしまい、エヴォリオルの蹴り飛ばされてしまう。

さっきまでの姿よりダメージが大きく、貯水槽に叩き付けられ肺から息が漏れる。


「かはっ、かっ…………!」


(そうか……!このフォーム、パンチ力が弱くなってるんじゃねぇ、〝足に関する力が大幅に上がる代わりに腕に関する力が大幅に下がる〟のか……!!しかも防御力まで下がってやがる!)


ストリームフォームの特性を身をもって体感、理解する俺。奈緒の奴なんでこんな大事なこと言わねぇんだあのクソボケ野郎……!!


「なんだよおい、もう終わりか?」

「なわけ……ねぇだろ……!」

「無理すんなよ、ははっ!!」


エヴォリオルは俺を羽交い締めにすると大空へ跳ぶ。


「あばよ、スペクター」


そして地上目がけて蹴り落とされた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


絶叫を上げながら猛スピードで落ちていく。

コウモリ野郎にも似たような目に合わされたが、あの時とはまるで速度が違う。


「がっ、っ……あぁぁ!!」

『ソルジャー!』


何とか通常フォームのオーブを起動してベルトに装填。今までの姿にギリギリで戻った直後、俺は隕石の如くマンション近くの広場に落下した。


「が、あぁっ……っっ……!!」


広場に大きなクレーターができ、その中で呻き悶える。何とか起き上がろうとするもダメージが大きく思うように動けない。


「虚空蔵くん!!」

「虚空蔵!生きてるよな!大丈夫だよなっ!?」

「虚空蔵殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉご無事かぁぁぁぁぁ!?」


みんなの声が聞こえる。這う這うの体でクレーターから抜け出ると向こうに三人の姿が見えた。


「みんな"っっ」


立ち上がろうとした瞬間エヴォリオルに踏みつけられ、背中から鈍く重い音が響いた。


「虚空蔵くんっ!!」

「みんな逃げろ、早く…………!」

「逃げろって……「残念だが逃げられませんぞぉ?」」


ねっとりとした口調で現れたのは、見るからに胡散臭い容姿をした男。

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら俺達を見ている。


「おいノーイン、何でお前がここにいんだ」

「当然、私もスコアを稼ぐためだよグラス君」

「俺のゲーム中だ、手を出すなっ!」

「まぁまぁいいじゃないかね、そこにちょうど手頃な人間が三人いるしねぇ」


男は美弥ちゃん達を見てにやりと笑う。


「!! みんな逃げろっ、早く!!」

「え、えぇ?」

「こいつもエヴォリオルなんだよ美弥姉ぇ!」

「二人共早く逃げるでござる!さぁ!」

「おやおや、どこに行こうというのかね?」

『ラット!』


取り出したオーブでネズミに似た姿のエヴォリオルに変身した男は高笑いしながら逃げる美弥ちゃん達を追いかける。


「待てっ!……ぐっ……!」

「お前の相手は俺だろ?」


助けに行こうとするがエヴォリオルに踏みつけられ、ダメージの蓄積もあって動くことが出来ない。そうしている間にネズミ型のエヴォリオルは直ぐに三人を追い詰めてしまった。


「ど、どうしようどうしよう!?」

「くっそっ!」

「かっかかかっか、かくなる上は、しょしょ小生が時間稼ぎを……!!」

「はっはっは安心したまえよ。君達のような下郎に時間は掛けない。痛みも恐怖も一瞬で終わるよ」


ジリジリと三人に近付くネズミ型エヴォリオル。

楽人は美弥ちゃんと夢芽の前に立つが、へっぴり腰でここからでも分かる程に体が震えている。このままじゃ…………!


「…………スペクタイフーン、来いっっっ!」

「ん……?…………っ!?」


俺が呼ぶと空間をぶち破ってスペクタイフーンが現れ、コオロギ型エヴォリオルに激突してふっ飛ばした。スペクタイフーンが隙を作っている間に三人の下に向かおうとするがやはりダメージが大きく、立ち上がろうとして膝から崩れ落ちる。


「ふっふっふっふっ……チュアァッ!!」

「っ!」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


エヴォリオルが三人に襲い掛かる。


「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


吠え、気力で体に鞭を打ち無理矢理走り出す。

しかし間に合わない。



(間に合わないじゃねぇ!間に合わせんだろうが!!

弱音吐いてる暇あんなら足犠牲にしてでも前に進めっっ!!!)












「ンギャッ!?」


足を砕くつもりで踏み込もうとしたその時。

突然現れた赤い影がエヴォリオルを吹き飛ばした。


「え………………?」

「マジかよ…………」

「虚空蔵殿………………では、ない……?」


美弥ちゃん達の前に立つ者。それは……………………


「お前、あの時の!?」


昨日の黒豹型エヴォリオルを倒した後、廃屋の屋上から俺を見ていたもう一人のスペクターだった。


黒と赤のスマートなボディ、頭部は龍を模した形状をしており、龍の尾を思わせるポニーテール状の装飾が揺れる。

龍の牙のようなブレード状のパーツに縁取られた深紅の目はスペクター(おれ)同様かなり鋭く、真っ直ぐにネズミ型エヴォリオルを捉えている。


「…………………………大丈夫?」

「え、は、はいっ」

「ん。ならいいわ、そこいとき」

「な、なんだお前はっ!?スペクターの仲間か!?

仲間がいるなんて聞いていないぞグラス君っっ」

「俺も知らねぇよ!くそっ、このバイク……!」


この場にいる全員が困惑していると赤いスペクターは美弥ちゃん達を一瞥するとゆっくりと歩き始め、ネズミ型エヴォリオルに近付いていく。

咄嗟に鋭い爪で攻撃したエヴォリオルの手をあしらうように蹴りで弾き飛ばし、そのまま左足を軸にエヴォリオルを容赦なく蹴り倒していく赤スペクター。軸足が一切ブレておらず、右足一本で敵の攻撃を防ぎ、いなし、打ちのめす姿に思わず見惚(みほ)れ感嘆の声が漏れてしまう。

敵の鳩尾につま先を尖らせた槍の如き蹴りがめり込み、体をくの字に曲げるエヴォリオル。苦しみながら顔を上げた瞬間、一回転回し蹴りが一発、二発、三発と連続で繰り出され、トドメにトリプルアクセルの如く三回転の勢いを付けた蹴りがエヴォリオルの頭部を打ち砕いた。


「が、あ、あぁ」


『ファントムフィニッシュ!!』


赤いスペクターはベルトのオーブを押し込み、真紅のエネルギーを右足に纏う。

エネルギーは龍の顎を模した形状となり、


「はぁぁ……はぁっ!」


繰り出された高蹴りがエヴォリオルを粉砕した。

胸から頭部にかけてごっそりと抉られたエヴォリオルは断末魔も上げられないまま結晶化して砕け散る。


「ちっ、分が悪いか……!」

「! 待てっ!」


コオロギ型エヴォリオルは状況の悪さを察して撤退。追おうとするも、持ち前のジャンプ力で山の向こうへと消えてしまった。

赤いスペクターはそれを見ると踵を返して立ち去ろうとし、美弥ちゃんが慌てて声をかける。


「あ!待ってくださいっ」

「……なに?」

「助けてくれて、ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございましたっ!」

「このご恩は決して忘れないでごz……忘れません!」

「……ん、いいよいいよ、気にせんで」


頭を下げる三人に赤いスペクターは気だるげに答える。


「俺からもお礼を言わせてください。友達を助けてくれて、ありがとうございました」

「別にいいって。まーあ?大切な人はきちんと守った方がいいよ、うん」


そう言うと、赤いスペクターはベルトからオーブを取り外す。変身が解除され姿が人間へと戻っていく。


そして現れたのは一人の〝少女〟だった。


「えっ!?」

「お、女かよっ!?」

「やっぱりか…………」


薄々勘づいてはいた。何せ男にしては体型が細く腰にも括れがあり、胸の装甲にも乳房のような膨らみがあった。声も低いがあくまで女性的な物だったこともあり、女性だということはさっきの時点で気付いてはいた。

問題はその正体、素性だ。



「あんたは、一体…………」





さぁ、もう1人のスペクターが本格参戦です。

謎の少女は一体何者なのか?それはもうちょっと続くんじゃ。


今回は楽人くんのプロフィールです。


塩釜 楽人

年齢:17歳

誕生日4月11日

身長171cm

体重59kg

血液型A型

星座・牡羊座

好きな食べ物:

ポテトチップス(カルビー派)、炭酸飲料、サウザンドレッシングをかけたサラダ

苦手な食べ物:

粒餡、レーズン

趣味

アニメ鑑賞、漫画を読む、アニメショップ巡り、絵を描く(ただしイラストや漫画だけ)

好きな花

アイリス

座右の銘

オタクは文化

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