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第4話 『得物』

4話です。また期間が空いてしまった……

6/18追記:文章や台詞、誤字を修正しました。


七ヶ浜家 PM16:48


「………っ………っ……!!」


サンドバッグを打ち、蹴る。

汗は流れるまま床に滴り落ちていき、部屋にはサンドバッグを打つ乾いた音だけが響いている。

ベンチプレスで160キロを持ち上げ、20回1セットを5回こなす。

少し休憩を挟んでスクワット、ヒップリフト、ランジ、カーフレイズ、そしてレッグプレス500キロを20回1セットで3回、下半身も入念に鍛えていく。

しっかりと全身を鍛え上げ、タオルで汗を拭いてペットボトルの水を一気に流し込む。


「……今日はこんなもんか」


落ち着いたところでトレーニングルームとなっているプレハブ小屋を出る。

庭にはかつて母ちゃんが植えて育てていた多種多様なたくさんの花が咲き誇っており、美しい花に彩られた庭を歩いて家の中へと戻る。


「ただいま」

「にぃ……お兄ちゃんお帰り」

「わん」

「トレーニングは終わったんですか?」

「おぅ、ちょっとシャワー浴びてくる」

「はーい……ていうか、庭に小屋があるって何気にスゴいですよね。このちょっとした植物園みたいなお庭もですけど。

あの小屋はトレーニングのために建てたんですか?」

「いや、元々は父ちゃんの趣味用の部屋だ。集めてたコレクションとか今俺が使ってるトレーニング器具置いてたりとかな」

「お父さんの形見の一つみたいな物ですか」

「まぁそうな。てか風呂行ってきていいか」

「あ、どうぞどうぞ」


風呂場に向かい、シャワーを浴びる。

シャワーを浴びながらあのコウモリ野郎の対策を考える。あいつは自由に空を飛べる。とにかくあの飛行能力をなんとかしねぇとな……。


「虚空蔵さん?聞こえますか?」


頭を悩ませていると扉の向こうから奈緒が声を掛けてきた。シャワーを止め、すりガラス越しに話す。


「今回のエヴォリオル、どうでしたか」

「どうもこうもねぇよ。今回の奴は蝙蝠で、あの飛行能力を何とかするためにあれこれ考えてた。

今のとこ、なんも思い付かねぇけどな」

「やっぱり蝙蝠でしたか。

ニュースで見た時そうだろうなとは思いましたが」

「おい奈緒、スペクターって飛べねぇのか」

「飛べますよ。ただ、流石に練習無しのぶっつけ本番は無理だと思いますよ。

まず飛ぶことに慣れる必要がありますから、テレビのヒーローみたいに初見でスマートかつカッコよくは望まない方がいいですね」

「だろうな。持ってる能力がどんだけ凄かろうが中身がボンクラじゃ意味ねぇよ」

「そういうことですね。あ、武器ならありますよ。

出ろ!って念じればベルトからポンと」

「……武器か……おい、上がるから出ろ」

「はーい」


扉の閉まる音を聞くと奈緒がいないことを確認し、風呂場から出てバスタオルで体を拭く。


(武器は今度試すか……)


「……武器、上手く使ってくださいよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「スペクターはどうだった?」

「なんてことはない……ククク、所詮人間のガキだ」

「けど、その人間のガキにもう二人やられてるんだよねぇ。お前もその中に入らないよう気をつけなよ」

「そうそう」

「ヒヒ……問題ない、次は仕留めてやる」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「………………ぷぅー…」

「虚空蔵ちゃんどうしたの、浮かない顔して。

学校で何かあった?」


夜、一家団欒の時間。茶の間でテレビを見ていると俺は今日戦ったエヴォリオルのことで思わずため息をついた。それを見たお姉ちゃんが案じるように覗き込んでくる。

内心ヤベェ、と思いつつ返事をする時は顔には出さない。


「うんうん、何でもないよ。ちょっと疲れただけだから大丈夫」

「本当?もしかしてまた喧嘩?」

「いやいや喧嘩じゃないよ。ほら、今日一番町の方で色々あったでしょ?それで結構慌ただしく帰ってきたからさ、精神的な疲れかな」

「虚空蔵ちゃんがそう言うならいいけど……無理はしちゃダメだよ?」


そう言うとお姉ちゃんの手が頭の上に乗り、撫でられる。それが心地よくてついお姉ちゃんにもたれかかる。

少しの間そうしていると、風呂から上がってきた奈緒が茶の間に入ってきた。入るやいなや奈緒は変なものを見る目で俺を見てくる。


「何してんですか」

「見りゃあ分かんだろ、お姉ちゃんに癒されてるんだよ」

「シスコンですかそうですか」

「うるせぇ悪いか」

「ふふ、奈緒ちゃんも来る?」

「えっ!?いいんですか!?」

「……………………」

「虚空蔵さんなんですかそのゴミを見るような目は」

「べ つ に ?」


出来るだけ嫌そうな顔で奈緒を睨む。

が、奈緒はそんなこと毛ほども気にせずにお姉ちゃんの隣に座ると頭を差し出してスタンバイする。


「いい子、いい子……撫で、撫で……♡」

「あぁ~~♡すっごい何これぇ~♡めっちゃ気持ちいい~~」


お姉ちゃんの神の手にすっかりオトされた奈緒は猫のようにお姉ちゃんの膝の上で甘える。


「おぁ~♡あぁ~♡いいですねぇこれぇ~」

「お姉ちゃんの撫で撫では一級品だからな。噛み締めて味わえこの野郎」

「ほぉほ~♡」

「うわだっらしねぇ顔……」

「こっここっこ、寂しいならお姉ちゃんのとこ来るぅ?」

「……んー、まぁ月姉でいいか」

「えぇー何その態度。本当はお姉ちゃんのことだぁい好きなくせにカッコつけちゃって~」

「はっ、自分の姉ちゃん好きなのは当たり前だろ」

「そーそー、素直な方がかわいいぞぉ?」


月姉の方に寄り、頭を撫でられる。

お姉ちゃんが凄すぎるせいでやや物足りなく感じるが、月姉も慣れた手つきで不思議な心地よさのある撫で方をする。


「ゆいゆいも来るー?」

「うんっ」


優衣も加わり、茶の間は姉二人が弟と妹+αを撫でている奇妙な空間に変わる。

そんな状況がしばらく続いていると、テレビでニュースが始まる。


『こんばんは。………本日仙台市一番町付近にて謎の生物が確認されました』

「「………………」」

『通報を受けて駆け付けた警察によりますと、人型の蝙蝠のような正体不明の謎の生物が出現しており、警官と交戦。その後、突如現れたもう一体の謎の怪人と激しく争い姿を消したとのこと。

この事件での被害者は一般人と警官含め21名にも及び……』


「うーわぁなにそれ。謎の怪人ってなに?ライダーとか特撮の世界じゃないんだからさぁ……あ、でも青と黒の方はわりとカッコ良さげっぽい」

「熊……かなぁ?」

「でも熊だったら熊って報道されるし、被害者だって20人も出るかなぁ……?そもそも野生の動物が出るような場所でもないし……」


不可解で恐ろしいな事件に不安を漏らす三人。

この事件に俺が関わってるって知ったら、もう一体の怪人が俺だって知ったらどんな顔するんだろうな……。


「世の中何がいるか分かんないもんだよねー。まぁこっこは無事帰ってこれてよかったよ」

「ね。これからも何事もないことを祈るしかないよ」

「うん、気をつけるよ」

「お兄ちゃんなら熊でも倒せそうだね」

「んー、どうだろうなぁ?簡単ではないだろうけどそこまで無理とも思わないな」


優衣に笑って返す。正直、一度エヴォリオルと戦えば熊や虎のような猛獣すら屁でもないと思うようになる。

あれは最早次元が違う。どれだけ強かろうと人間程度が勝てる相手ではない。誰だってあんな化け物と獣だったらまだ生き残れる可能性のある方を選ぶだろう。

……まぁ、エヴォリオルはスペクターか同じエヴォリオル以外には絶対倒せないと奈緒がハッキリ断言している以上、勝てる勝てないで論じるのはナンセンスか。


「怖いですね、そんな得体の知れないものが暴れてるなんて。ほんと………化けモンの癖に……」

「? 奈緒ちゃん?」

「………奈緒、顔怖ぇぞ」


険しい顔でテレビを睨む奈緒に声をかけると、奈緒はハッと我に帰る。


「え、あぁ、すいません。犠牲になったの人達のことを思うとやりきれなくて……得体の知れない生物だかなんだか知りませんが、人間に危害を加えるなんて言語道断です。早く解決するといいですね……」


再びテレビに視線を移す奈緒を俺はただ黙って見つめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌日 城東学園 PA8:51



「なぁ、昨日一番町の方であった事件ヤバくね?」

「あれな!どーせ大したことないだろって思ってたけど、思ったよりヤバくて笑っちゃったわ」

「人型のコウモリって何だよって感じだよな。

なんかヤベー変質者なんじゃね?」

「ヤバいよねーあれ。猿?ゴリラ?動物園から逃げ出したのかな?」

「いや猿って飛ばなくない?」

「飛ぶゴリラとかこわー」


次の日登校すると、クラスは昨日あった人型のコウモリ……エヴォリオルの話で持ちきりだった。

お家に帰った後も今朝も、テレビを着ければどこのチャンネルもエヴォリオルの話ばっかり。ニュースやワイドショーでも色んな人達が議論したりその正体について話し合ったりしていた。

そして何より、決して少なくない数の人が犠牲になったことが一番悲しかった。

虚空蔵くんから犠牲者がいた、とは聞いていたけど具体的な人数や詳細を聞くとより悲しい気持ちになる。


「ねぇねぇ、美弥ちゃんはどう思う?」

「……ほぇ?」

「ほぇ?だってー!めっちゃ可愛いー!」

「これ言って嫌味に聞こえないの多賀城さんくらいだよねー、てか多賀城さん以外で見たことないし」

「美弥さんはお前らみたいなその辺の女子とは違うからな!」

「そーそー、宝石と鼻くそ比べるようなもんだって」

「はぁ!?」

「美弥ちゃんの前だからって調子乗んなっ」


あれ、いつの間にか周りが賑やかになってる?

……でも、少し気持ちが楽になったかも。


「あはは、そうだなぁ……人型のコウモリが何かは分かんないけど、もうこれ以上被害に会う人が出なければいいなって思うなぁ。

顔も名前も知らない人だったとしても、誰かが傷付いたり亡くなったりするのは、やっぱり嫌だから」

「おー流石の女神メンタル」

「やっぱ大地母神は伊達じゃねーわ」

「いやー流石学園のアイドルだよなぁ」

「それな!アイドルっつーかぁ、天使?」

「えぇっ? わ、私そんなにスゴくないよ?」

「え、多賀城さんは割りとガチめの天使じゃない?

あたしもこんだけかわいかったらな~」

「この顔、このスタイル、この性格だもんね。

ウチも美弥ちゃんみたいになりたかったわー」

「えへへ……恥ずかしいなぁ……」


照れる私を見て、みんなはまた盛り上がる。

うーん……私ってそんなにスゴく見えるのかなぁ…?

自分ではそんなつもり無いんだけどなぁ……。


「美弥ちゃんの人気は相変わらずだな」

「まぁそりゃな。

美弥姉ぇが人気じゃなかった時とか逆にあったけ」

「いやねぇな…………照れてる美弥ちゃん可愛いなぁ」


そうしてみんなと話していると教室に先生が入ってきた。


「はーい、ホームルーム始めるわよー。

昨日はみんな大丈夫だった?みんな居るわよね?」


先生の問いにみんなは口々に大丈夫と答えた。

幸い学校で被害に会った人はいなかったみたいで本当に良かったとしか言いようがない。

こうして何事もなく学校に通えてるのって、本当はすごく幸せなことだと思う。


「良かった、みんないるのね。正直先生、朝起きてからヒヤヒヤしてたの。みんな無事なら良かったわ。

ちなみに……一番町の方に行った子はいないわよね?」

「見に行きはしたけど警察がバリケード作って封鎖してたから行けなかったでーす」

「そーそー!なんかヤバい感じでした!」

「はぁ……危ないんだから近づいちゃダメでしょ?

私、真っ直ぐ帰ってって言ったハズだけど?」

「でも先生、正直どんなのか見てみたくないですか?

あの謎の怪人とかスゴくないですか!」

「………!」


虚空蔵くんが僅かにピクッ、と反応する。

私と夢芽ちゃん以外でそれに気付いた人はいない。


「あーあれスゴいよね。

なんかドラマの撮影みたいだったし」

「つか何で同じ怪人同士で戦ってたんだろうなアレ。

動物のケンカ的なやつかなにかか?」

「分かんねーけど他所でやってほしいよな、チョー迷惑だわ」

「マジでそれ。あんなワケ分かんない奴のせいでこっちが被害受けるとかジョーダンじゃないし」

「はいはいこの話はまた今度。

せっかくみんなは無事なんだから、今日も一日元気に行きましょう?」


先生の言葉にクラスみんなが返事をして今日も一日が始まった。

このまま何も無いといいなぁ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「美弥ちゃん大丈夫か?」


周りの奴らと話してから美弥姉ぇの顔が少し明るくなった。

虚空蔵が昨日戦ったエヴォリオルの話やニュースを見てからずっと表情を曇らせていて、お父さんとお母さんも心配していたが一先ず持ち直した様で安心する。


「うん、みんなとお話したらちょっと気分が楽になったかな。二人ともごめんね、心配かけて。

気にしすぎかなとは思ってるんだけどやっぱり痛ましい事件だから……迷惑かけてごめんね」

「水臭いこと言いっこなしだよ。心配も迷惑もどんどんかけてくれていい。

それに純粋で優しいのは美弥ちゃんの良いとこなんだから申し訳なく思うことなんか何一つねーよ」

「そーなー、一応事情を知ってるとは言え、悪いのはエヴォリオルなんだし美弥姉ぇが気に病んだってしょうがないよ」

「……ありがとう、二人共」


美弥姉ぇは笑顔を見せ、とりあえずは一安心。

虚空蔵もホッとした顔で息を着いた。


「やっぱ美弥ちゃんは笑顔が一番似合ってるよ。

なんつーか、こう、可憐な花みたいな……」

「え、えへへ、そうかな~?虚空蔵くんだってカッコいいよ~」

「出た、ノロケ。イチャつくのはいいけど朝からは止めとけよー」


オレがからかうと虚空蔵は顔を赤くして反論してきた。


「べっつにイチャついてねぇわ……!

俺は思ったことを言っただけだノロケじゃねぇ!」

「いやどう見てもノロケでござる」

「オメエは黙ってろ楽人ぉ!!」


横から茶化した楽人に吼える虚空蔵。それを見て思わず吹き出すオレと美弥姉ぇ。

ほんと、このまま何もなきゃいいんだけどな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……〝サック〟」

「おぉアランか。どうしたんだぁ」

「ゲーム再開を見届けようと思った。

今、何人殺した?」

「25 まだまだだな、キヒヒ」

「そうだな、テオス様を楽しませられるように励め」

「分かってる じゃあな」

『バット……!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「最近物騒なことが続いてるでござるなぁ」


学校の帰り、俺達四人は街中にあるアニメイトに来ていた。

楽人に最近のオススメアニメやラノベを教えてもらい一つ上の階にあるらしんばんで特撮グッズを眺める。

その格好良さに頬を弛めていると横にいた楽人がポツリとそう呟いた。


「どうした、急に」

「あぁいや失敬、今日一日のことを考えていたらついポロッと。

それにしてもあの怪人は一体何なんでござろうか?まさかあんな存在が現実に実在しているとは……」

「さぁな。まぁ宇宙は広いんだし宇宙人や怪人の三種や四種いたっておかしかねぇよ。

もしかしたらマジでウルトラマンいたりしてな」

「確かにそうでござるが……しかしあんな怪物が現れたとなると穏やかではなくなるでござるなぁ。

何事もなく収束すればいいでござるが……」

「……まぁな」

「あぁそれと、虚空蔵殿はもう片方の怪人についてはどう思うでござるか?」

「…………あの青と黒の奴か?」

「うむ、人型のコウモリと戦っていたアレでござる」

「……まぁ、とりあえず悪い奴ではないんじゃねぇか。

テレビ見る限りあいつに襲われた人間はいないらしいし、他に被害を出したりもしてないみてぇだしな。

…………なぁ楽人。やっぱりお前もあの青と黒の怪人が怖いか?」


俺の問いに楽人は迷うことなくこう答えた。


「……小生なんの根拠も無いでござるが、何故かあの怪人はそんなに悪い存在ではないような気がするのでござるよ。テレビで流れていた映像では警官を庇うように見えたでござるし虚空蔵殿が言った通り人を襲ったという証言も無いでござる。

もしかしたら虚空蔵殿が好きな仮面ライダーのように正義の心を持つ怪人なのやもしれぬなぁ」


一点の曇りもない目で笑いながら話す楽人。

本心からの言葉なのが一目で分かる。


「…………そうかよ」

「? 虚空蔵殿、何故笑ってるでござる?」

「あ、虚空蔵くんと楽人くんいたっ」

「そろそろ帰ろーぜー」

「……おぉもうこんな時間か」


いい時間になっていることをスマホで確認し、店を後にする。駐輪スペースへ向かおうとしたその時、


「うわぁぁぁぁ!!」

「なんだアレ!!?」

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

「あれ、ニュースでやってた人型のコウモリ!?」

「だずげ……」

「ぎゃっっ」


「……!三人はここにいろ!!」

「え、あ、虚空蔵殿!?何がなんだが分からないでござるが危ないでござるよ!!」

「楽人ぉ!美弥ちゃんと夢芽頼むぞ!!」

「虚空蔵くんっ!」


心配する楽人と二人を置いて駆け出す。

すると〝ヤツ〟の姿は直ぐに見えてきた。


「だ、助げで……」

「ダァメだね……死n「うぉらっ!!」」


今まさに女性を手に掛けようとしていたエヴォリオルを飛び蹴りで蹴り飛ばす。襲われていた女性を逃がしコウモリ野郎に相対するとそこには既に犠牲になった人間が複数倒れており、凄惨で痛ましい光景が広がっていた。


(またかクソッ……!)


周囲の人間は我先にと逃げ出し、街中にも関わらず今この場にいるのは俺とエヴォリオルだけ。

バカな野次馬や見ている人間がいないのは好都合だ。


「スペクターかぁ…………」

「よぉコウモリ野郎、今度は倒す」

『ソルジャー!』


オーブを取り出して起動する。するとそれを見たエヴォリオルは飛翔し、俺に向かって突撃してきた。

なんとかギリギリで体当たりを躱して体勢を立て直す。


「変身!!」

「ぐわっ!?」


体が青い炎で包まれ、Uターンしてきたエヴォリオルを炎と衝撃波で叩き落とす。


『The Blue&Black Soldier

SPECTER is born!!』


全身を覆っていた炎が消え、手に持っていたオーブをベルトに装填して変身が完了する。

地面を蹴って駆け出し、助走をつけた飛び蹴りで先手を取る。先制攻撃は成功し、よろけたエヴォリオルにパンチの連打を叩き込み、後ろ回し蹴りで薙ぐように蹴る。


「おら立てっ!」

「グオォ…!?」


立ち上がろうとしたところにヤクザキックで追撃を仕掛け、ひっくり返ったエヴォリオルを掴んで叩き起こし、膝蹴り、肘打ち、そこから担ぎ上げてブレーンバスターで背面から叩き付ける。


「くっ、ぐおぉ……!」

「はっ!!」



「しょ、小生は夢でも見ているのでござるか……?

虚空蔵殿が、怪人に変身して怪人と…………」

「やっぱりビックリするよね……アハハハ」

「み、美弥殿夢芽殿っ、あれは一体?」

「虚空蔵が変身した方はスペクター。あっちのブサイクなのがエヴォリオル。

どっちもこの世界の存在じゃないんだとよ」

「この世界ではないっ!?そ、それはまさか異世界という……?」

「うん、そうみたい」

「な、なんと……じゃあ、虚空蔵殿は異世界人…?」

「「そういうことじゃない(よ?)」」



「シャアァァァァァ!!」

「!! うぉっ!!」


猛スピードで体当たりを繰り出してきたエヴォリオルを躱す。エヴォリオルは大空へ飛び立ち、再び俺に向かって突撃してくる。

地面を転がって体当たりを避け、ジャンプしてエヴォリオルを捕まえようとするが捕らえることは敵わない。

三度突っ込んできたエヴォリオルをなんとか捌く。このコウモリ野郎…………!!


「くそっ!埒が明かねぇな!」

「どぉしたスペクター!!今度こそ倒すんだろぉ?」

「今ぶっ潰してやるからちょっと黙ってろ!!」


コウモリ野郎に吐き捨て、ベルトに手をやる。


(武器よ出ろ…………!)


頭の中で念じる。するとバックル部分から柄が出現し、それを引き抜いた。そうして現れたのは、



「バットだね」

「釘バットだな」

「釘バットでござるな……」



打つ部分にびっしりと棘が付いた釘バットのような武器だった。


『ブットブレイカー!!』

「えぇ………」


思わず声が漏れる。

ベルトから武器が出ると聞いて内心フレイムセイバーやガンガンセイバーような剣型の武器が出てくると期待…もとい予想していた俺だが、ものすごい肩透かしを食らった気分に陥る。

武器っつーより凶器じゃねぇかこれ。特撮の怪人星人ですら滅多に使わねーぞこんな分かりやすい凶器。

一応持ち手はヒロイックな形状というかそれっぽいが如何せん打つ部分の主張が強すぎる。例えるならヒーローが使う剣型武器の刀身を丸々削り取り、釘バットに置き換えたようなちぐはぐ感だ。


「シャアァァァァァァ!!」

「っ! うおぉらぁっ!!!」


ガッカリしていると、隙ありと言わんばかりにエヴォリオルが飛び掛かってきた。咄嗟に躱し、渾身の力で棘バットを叩き付ける。

エヴォリオルの体はギリギリまで絞った弓の様にしなり、そのまま地面にめり込む勢いで叩き伏せた。


「がっ…………!?!」

「どぉおらぁっ!!」


もう一発手加減無しのフルスイングを叩き込み、エヴォリオルをかっ飛ばす。

突風に吹かれた木の葉の如く転がりながら吹っ飛んでいったエヴォリオルを追って更に棘バットで滅多打ちにしていく。


「ぐうっ……シャアッ!」


状況が悪いと見たエヴォリオルは空へ飛び上がり、逃走を謀る。


「逃がすかっ!!」


当然黙って見逃す訳もなく、エヴォリオルの翼目掛けて棘バットを投げ付けた。ブン投げたバットは見事エヴォリオルの翼に命中し、翼を破壊されたエヴォリオルは墜落してくる。


「ホームラン869号ぉっ!!」


落ちてきたバットをキャッチしつつ駄目押しのフルスイングを地面に落下スレスレのエヴォリオルに思い切りぶちかました。


「があぁ……おのれぇ……!」

「そろそろ終わりだ……ん?」


ふと、棘バットのちょうど持ち手と打つ部分の繋ぎ目にあたる部分に何かを填めるためのスロットがあることに気付く。

それを見てピンと来た俺はベルトからスペクターオーブを取り外し、スロットに装填する。


『Set&Charge Ready For destroy!』


電子音声と共に棘バットが青い光を纏っていく。

軽くバットを振って調子を合わせ、構える。


『SPECTER! OVER BROKEN!!』


バットの棘が鋭く長く伸び、鬼の金棒の如き様相を呈する。必殺技の準備が整い、一気にエヴォリオルとの距離を詰め、



「スペクター!ノックアウトブレイクゥッ!!」



最後の一撃を叩き込んだ。エヴォリオルは宙を舞いながら凄まじい勢いでぶっ飛んでいき、地面に倒れ伏す。


「地獄に堕ちろ、潔くな」

「ガッ、ア、あアぁァぁァぁァぁ!!!」


色を失ったエヴォリオルは二度と起き上がることなく断末魔と共に盛大に砕け散った。


「ふーっ…………」

「虚空蔵くんっ!!」

「大丈夫か!?」

「あぁ何とかな、今回も勝ったよ」

「こ、虚空蔵殿……」

「! 楽人悪ぃ、後で説明するから今はここから離れるぞ。人が戻ってきたら面倒だ変身も解けねぇ。

二人も行こう」

「うん」

「わかった」


そうして俺達は急いでその場を後にした。







「スペクター…おのれ……!!」



ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー



「本当にそんなことが……」


合流した奈緒を加えて楽人に諸々の事情を説明する。

巻き込むようなことは出来る限りしたくはないが、変身を見られた以上は仕方ない。とりあえず事情だけ話して距離を置いてもらうのが一番的確か。


「とりあえず楽人、お前当分は俺に関わらねぇ方がいい。お前を巻き込むつもりはねぇ」

「確かにそうですね。楽人さんは〝まだ〟無関係ですから、目を付けられる前に忘れた方がいいと思います」

「何を水臭いことを!確かに小生、戦いの役には立たないでござるが……それでも、何かの役には立つかもしれないでござる!」

「つってもな……お前、とんでもなく危ないことに首突っ込もうとしてるって自覚あるか?危ない程度じゃ済まないかもしれねぇぞ」

「……それでもでござる。友が命懸けで戦っている姿を見て、それを見て見ぬふりなど小生には出来ぬ」

「……………………」

「虚空蔵くん、お手伝いしてもらってもいいんじゃないかな?」

「美弥ちゃん……」

「楽人くんの気持ち、分かるんだ。私も、私に何か出来ることはないかなって思ったりするから……力になってくれる人は多い方が良いよ!

……それに、〝水臭いことは言いっこなし〟だよ?」

「っ……!」


おーおー一本取られたな畜生……でも嫌な気持ちにはならねぇ不思議。美弥ちゃんにはしてやったりなんて気持ちや考えはねーだろうし当然っちゃ当然か。


「ははっ虚空蔵、一本取られたな?」

「勝てねぇよな本当…………楽人、後戻り出来ねぇぞ」

「無論覚悟の上」

「……じゃあ、よろしくな。危なくなったら即逃げろよ」

「御意。こちらこそよろしくでござる!」


楽人とガッチリ握手を交わす。頼もしい……かどうかはまだ分からないが、仲間が増えたのは心強い。


「いやーなんか疲れたなー」

「なんで夢芽が疲れてるんだよ」

「そりゃ見てるだけでも神経磨り減らすからに決まってるだろ。幼なじみが命懸けて戦ってるんだぞ?こっちはハラハラしっぱなしで腹痛くなってくるんだよ」

「ずーっとドキドキヒヤヒヤしてるもんねー……出来れば、みんな仲良くしておしまい!みたいにならないかなーなんて…」

「今のうちに慣れてくれとしか言えねーなそりゃ…」

「大丈夫ですよ、嫌でも慣れます。というか心が死んでちょっとやそっとのことでは感じなくなります。結果慣れます」

「今のセリフのどこに大丈夫要素があるんだよ!?

心死んでりゃ慣れもクソもねぇだろうが!!」

「虚空蔵さんスマイルスマイル♡」

「ごおぉぉぉぉ………!!」

「虚空蔵くん落ち着いて?ねっ?」


そんな会話をしながら、俺達は家路に着いたのだった。



新たに楽人くんが仲間になりました。

仲間はどんどん増えていきますよ。


さて今回は美弥ちゃんのプロフィールです。


多賀城 美弥

年齢:17歳

誕生日7月7日

身長153㎝

体重50㎏

血液型AB型

星座・蟹座

好きな食べ物:

甘いもの(特にシュークリーム)、虚空蔵が作ってくれる料理

苦手な食べ物:

特になし

趣味

虚空蔵や夢芽達と遊ぶ、人の助けになること

好きな花

クチナシ

座右の銘

みんな仲良く


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