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3/23

第3話 『開戦』

こんにちは、第3話です。

ハイペースで作品を投稿できる人を心底凄いと思う今日この頃。

あとどうでもいいですが名前を変えました。


それではどうぞ。


6/18追記:文章を追記修正しました。


ある異空間、そこに聳え立つ超巨大な城にて



「へぇ、あの世界の地球に行ったコはどちらも倒されちゃったのか」


広大な広間に立派な玉座が置かれ、そこに一人の魔人が座っていた。

その姿は美しくも禍々しく、白い透き通るようなクリスタルのボディには骸骨を彷彿とさせる意匠があり、頭部は髑髏が結晶の兜を装着したような風貌をしている。

そして姿勢、態度、口調、その全てから余裕と優雅な気品が溢れており、まるで紳士か貴族のようだ。


「はい。あの世界のスペクターは、以前のものよりだいぶ強いかと思います」


虚空蔵達を観察していた青年が魔人にそう告げる。

すると広間に集まっていた者達が次々に口を開く。


「〝テオス様〟、いかがしましょう」

「〝テオス様〟、私が奴を討ち倒してみせましょう」

「〝テオス様〟俺がっ!」

「〝テオス様〟わたしにどうか!」


あちこちから声が飛び、一気に広間が騒がしくなる。

ある者は魔人、テオスに我こそはと訴え、ある者はその状況を見て笑みを浮かべている。

見かねた青年が静止しようと口を開こうとした時、軍服を着た男性が静かに一喝した。


「静まれお前ら。

まずはテオス様のお考えを聞くべきだろう」


男性の一言で全員が波一つない水面の如く静まる。


「ありがとう〝ガドール〟」

「いえ」

「さて、私の考えだけど………スペクターはしばらくこのままにしようかと思う」


テオスの言葉に一部を除き、周囲がどよめく。

しかしそんなもの意に介さずテオスは話を続ける。


「折角の強敵だからね。ただ始末するのは勿体ない。

それに面白いゲームを思い付いたんだよ。

誰が一番人間を殺し、スペクターを倒せるかのゲームさ。

見事達成できたコには、私から力を授けようと思う。

私と同等の力を、ね」


その言葉に更にどよめきが大きくなる。

しかし先程のどよめきとは異なるのは歓喜と期待、高揚から生まれたものであること。

広間に集まった者達はそれらの感情を抑えきれない顔で互いを見やり、テオスに視線を注ぐ。


「あぁ、出来れば私を楽しませておくれ。

これはゲームなんだ、楽しくなければね……」


そう言ってテオスは不敵に笑ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



七ヶ浜家 AM6:30


『ブーッ』

「…………………………」


スマホのアラームをワン切りした俺はむくりと布団から起き上がり、隣で寝ている優衣を起こさないように静かに部屋を出た。

一階に降りると先ず最初に洗面所に向かい洗濯物を洗濯機へと放り込んで洗濯を始める。その間に茶の間へ向かいカーテンを開け、続いて台所で朝飯と給食のある優衣を除いた三人分の弁当の準備を始める。


「くわぁ………眠ぃ…」

「わんっ」

「おぅモカおはよぅ」


ベーコンと卵焼き、味噌汁が完成し、弁当も出来たところで再び洗面所へ向かい、洗い終わった洗濯物をカゴに入れて二階のベランダに干しに行く。

手早く、かつ丁寧に洗濯物を干していき、干し終わったところで自室に戻る。


「優衣、時間だよ。起きて」

「ん………にぃに、おはよう…」

「うん、おはよう。そろそろ起きな」


優衣を起こし、下に降りる。それからちょっとして優衣だけでなくお姉ちゃんと月姉も降りてきた。


「虚空蔵ちゃんおはよー」

「こっこおはよ~……」

「二人共おはよう」


姉弟四人と一匹が揃い朝飯を食べ始める。他愛のない会話をしながら食べていると、ふとテレビから流れるニュースに目が奪われた。


『昨日未明、名取市閖上の埠頭で漁業関係者、その他十数名の遺体が全身を強く打った状態で発見されました。

警察によりますと匿名での通報が入り、現場に駆け付けた警察官が遺体を発見したとのことです。

警察は犯人の行方を追うと同時に通報を入れた人物を……』


「……嫌なニュースだな朝っぱらから」

「怖いねぇ、何があったんだろ?」

「熊?んなわけないか」

「通報した人はなんで匿名なんだろう?」

「わふん?」


あーだこーだと話す俺達。

もちろん俺はこの事件がどういうものか知っているし、犯人だって分かってる。公衆電話から匿名で通報したのが奈緒であることも。

内心ため息をつきながら十個目のおにぎりを食べていると奈緒が起きてきた。


「おはよーございますぅ……」

「おはよう奈緒ちゃん」

「おぅ」


昨日から奈緒は一階の客間で寝ることになった。流石に家族じゃない年頃の女子がそう何回も男と同じ部屋で寝るのはよろしくないだろうという判断だ………また俺の部屋で寝るとかほざいたので強制的に客間へぶちこんだのもあるが。


「おぉ、良い匂いがしますね。ザ・朝ごはんって感じです」

「お前のもあっから持ってこい」

「わーい♪」


両手を挙げて台所に駆けていく奈緒。子どもか。

けどあいつのことを考えりゃあ、ただ普通に飯が食えるってだけでも幸せなことなのか。


「ふふっ、奈緒ちゃん楽しそうだね」

「ねー。随分苦労したんだろうなぁ」

「お兄ちゃんのご飯が美味しいのもあると思うな」


優衣の言葉に内心でガッツポーズを取っていると、朝飯を持って奈緒が戻ってくる。


「いやー素晴らしいっ。素晴らしいですよ虚空蔵さんっ」

「お、おう。そうか」

「おにぎり、ベーコン、卵焼きにお味噌汁。

これだけでもマーベラスですが、昨日の晩ご飯の残りも添えてバランスもいいっ」

「こっこ、バランスいいの?」

「すんね」


変なクスリでもやってんのかとツッコミたくなるほどテンションの高い奈緒は席に着くと、ものすごい勢いで飯をカッ喰らっていく。思わず誰も取りゃあしねぇだろと反射的にツッコんでしまった。


「あはは、すいません意地汚くて。つい掻き込みたくなっちゃうっていうか、なはは」

「足生えて逃げるわけでもあるめぇに、んな急がなくてもおかわりもあるから落ち着いて食え」

「もほほ、やりました」


笑いながら飯を掻き込む奈緒を見て苦笑いする。と、そうこうしている内にお姉ちゃんが家を出る時間になる。


「お姉ちゃん、はいお弁当」

「ありがとう虚空蔵ちゃん。行ってきまーす」

「「「いってらっしゃーい」」」「わん!」


皆でお姉ちゃん見送りを済ませ、俺達も支度を始めていく。


「そーいえば杏さんと菜月さんって何のお仕事を?」

「お姉ちゃんは会社員、月姉は女性専用のエステサロンの店員だすげぇだろ。おい奈緒、ゴミ出し手伝え」

「あ、はい」


奈緒を引き連れてゴミを出しに行く。ゴミ捨て場は直ぐそこで往復しても一分もかからない。

と、ゴミ捨て場の前で一人の女性と出会う。


「あら虚空蔵くん、おはよ~」

「〝美嘉さん〟おはようございます」


栗色の長い髪をひっつめにし、美弥ちゃんととてもよく似た顔立ちのその人は多賀城美嘉さん。

美弥ちゃんと夢芽の〝お母さん〟だ。

俺達姉弟は昔からお世話になっていて、俺達の両親が亡くなった後も旦那さんと一緒に何かと気にかけてくれていた。俺もよく可愛がってもらっていた………というより今でも何かと可愛がられていて良くしてもらっている。


「虚空蔵さんこちらの方は?」

「美弥ちゃんと夢芽のお母さんだ、多賀城美嘉さん」

「あのお二人の?……………………お姉さんでなく?」


奈緒は怪訝な顔で美嘉さんを見る。

それもその筈で美嘉さんは高校生の娘がいるとは思えないほど外見が若々しく、初見の人間はまず間違いなく姉妹だと勘違いする。

更に見た目が若いだけではなくスタイルも抜群で、娘と同様整ったプロポーションを持つ。正直これで親子だと見抜くのは至難の業と言っていい。


「まぁそう思うだろうな普通。美嘉さん、こっちは奈緒。ワケあってウチに居候してるもんです」

「はじめまして、仙台奈緒です。娘さん達にもお世話になってます」

「あらあらはじめまして。私は多賀城美嘉です。

奈緒ちゃんっていうのね、こちらこそ娘達がお世話になってます。これからよろしくね」


笑顔で返す美嘉さんに何故かテレテレになる奈緒。

その後は途中………といっても隣同士なのでなんぼもないが一緒に帰り、多賀城宅の前で美嘉さんと別れた。


「………………」

「どうした奈緒?」


奈緒は美嘉さんが入っていった多賀城家を見つめる。

その顔はどこか悲しそうで、それでいて懐かしそうだった。

何となく声を掛けることを躊躇い、そのままでいると奈緒と視線が合う。すると奈緒は穏やかな顔で笑った。


「………なんかあの人が美弥さんのお母さんって、すごく納得です」

「言われりゃな、大概は姉に間違われるぞ」

「あー確かに。あれで経産婦て何かのジョークかと」

「あの人俺が小さい時から見た目変わってねぇんだよなぁ」


そんな話をしながら家に戻る。

さっきの奈緒の表情は引っ掛かったが、もしかしたら知り合いに美嘉さんのような人がいたのかもしれない。そう思って、何も言わなかった。

その後美弥ちゃんと夢芽が迎えに来て、優衣と一緒に家を出た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



今家にいるのは私と菜月さん、あとはモカちゃんだけ。

正直居づらい。けど黙って部屋に戻るのは違うし、そもそも失礼だし……でも気まずいし……!


「あのっ」

「ん~?な~に~?」


咄嗟に言葉が出た私に菜月さんはゆるい返事を返してくる。ピンクのインナーカラーかわいいなーなんて思いながら必死に話題を探す。


「菜月さんは、何時からお仕事なんですか?」

「私は十時からだから九時には出るよ。いつも最後に出るのは私なの。実は美弥ちゃん夢芽ちゃんのお母さんと同じ職場なんだよねぇ~」

「美嘉さんとですか?」

「あ、会ったんだね。そうそう、あのおっとりした綺麗な人」

「はい、さっきゴミ捨てに行った時に」


………話終わっちゃったよ。もうちょっと頑張ろうよ私、話膨らませようよ私。却って気まずさ増す奴だよこれ。

なんかないかなんかないかと頭を捻ろうとすると、菜月さんが話しかけてきた。


「こっこはどう?うちの弟、おっかなかったりしない?」

「そうですね………確かに見た目通り不良っぽいし口も悪くて恐そうな人だと思いました」

「やっぱりかー」

「でも、優しい人なのも確かかな、と。少なくとも悪い人では決してないですね、私みたいなのを拾ってくれたんですから。口悪いですけど」

「オラオラしてるのは許してあげて。あれ、あの子なりに家族を守ろうとしてるだけだから」


それを聞いて七ヶ浜家の家庭事情を思い出す。確かご両親はもう亡くなってるって言ってたっけ。

実際お茶の間には虚空蔵さん達の両親であろう二人の男女の写真が飾られている。

髭を生やし、髪を後ろに撫で付けたワイルドな風貌の男性と眼鏡を掛けた理知的で、それでいて穏やかな雰囲気を纏っている女性。

この二人が虚空蔵さん達のお父さんお母さんなんだろう。


「あの子、パパとママがいなくなってからしばらくは泣いてばっかりだったんだけどさ、「これからはボクがパパとママの代わりにお姉ちゃん達を守る!」って急に言い始めてね。

おばあちゃんから料理を教わって、家事もするようになって、体も毎日休まずに鍛え続けて………ああ見えてかなり努力したんだよね。

あの子が強くなったのも、そうすれば私達を守れるからって」

「そうだったんですか……」

「まぁ喧嘩の善し悪しは別だけどねー。幸い訴えられたりとかはしたことないけど」


………多分訴えられてないんじゃなくて訴えられないように圧かけてるんだろうなぁ。


「ま、ホント良い子だからさ、長い目で見てあげて」

「はいっ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



杜都町 某駐車場 PM8:20


「予定より遅くなっちゃったなぁ」

「あんたがあんなにするからでしょ~」

「えぇ~?だってs」


「………え?

あ、あれ?ねぇ、どこ?」

「ゲッゲッゲッゲッ………」

「ね、ねぇっ!怖いからやめてよ!

どこ行っちゃったの?ねぇって………」

「ア゛、ア゛ァ゛、ア゛……」

「ヒヒ…こんばんは、お嬢さん……!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇ、ニュース見た?」

「見た見た、カップルの変死体のやつだよね?」


「血が一滴もない死体とかめっちゃ怖くね?

何があったんだよって感じ」

「だよな。よっぽどの恨みでも買ってたんじゃねーの」

「にしてもよ、全身の血を一滴残らず抜くって人間業じゃねぇよなぁ。なんか変な人みたいなのが飛んでったって目撃情報もあったとか言ってたじゃん」

「エイリアンかなんかかよ」


翌日、学校ではあるニュースが話題になっていた。

それは『昨日の夜カップルが何者かに襲われ、体に血が一滴もない状態で発見された』という有り得ないもの。

全ての血を抜き取る、というのはもしかしたら時間を掛ければ出来ないことはないのかもしれないが、犯人は被害者の悲鳴を聞いて駆け付けた目撃者が来た瞬間とんでもない早さで〝飛んで〟逃げたらしい。

目撃者が見つけた時には既に二人とも血がない状態でおまけに外傷らしい外傷はなし。ニュースでは不可能犯罪とまで呼ばれていた。


「虚空蔵、あの事件の犯人って」

「あぁ、エヴォリオルだろうな。つーか奈緒が間違いねぇとよ」

「分かってはいたけど、虚空蔵くんが倒した二人だけじゃないんだね」

「あんなのは下っぱだってさ。まだまだヤバいのがいるんだってよ、面倒くせぇ」


俺達がひそひそ話していると楽人がやって来た。


「やーやー虚空蔵殿!なんの話でござるか?」

「おぅ楽人。今朝のニュースの話だよ、お前も見たろ」

「あー、吸血鬼事件でごさるか」

「吸血鬼事件?」

「そーいう名前だったか?」

「ネットの世界ではそう呼ばれてるでござるよ。

首筋には針のような跡があって、飛び去っていったという謎の人影、嘘か本当かはともかくそれっぽい話でござるからな。オカルト好きなんかはすごい食い付いてるでござる」


吸血鬼か………確かに言われてみりゃそうだな。


「ってことは次は〝蝙蝠〟かなんか……」

「ん?虚空蔵殿今何か?」

「いや、何でもね」


まーたあんな化け物と戦うのか………まぁ俺も了承しちまったしな。やれるとこまでやるしかねぇか。

と、美弥ちゃんがこっちを見ていることに気づく。


「どしたの」

「え? う、うんうん、何でもないよ?」

「………すげぇ心配そうな顔してたし、何でもないで全く誤魔化せてないよ」

「虚空蔵殿、まーた美弥殿を悲しませるようなことでもしたでござるか~?」

「どういう意味だテメェ」


そんなことを言い合ってると業間休みが終わり、再び授業が始まる。


それから昼休み。

昼飯を食べながら三人で話をする。


「美弥ちゃんごめん、また戦うことになると思う。

心配かけてごめん」

「私こそさっきはごめんね、虚空蔵くんが戦わないと大変なことになるのは分かってるんだけど………それでもやっぱり、虚空蔵くんが危ない目に合うのは嫌だなぁって思っちゃうんだ」

「美弥ちゃんは悪くないよ、決めたのは俺だ」

「別にどっちが悪いとかないだろ。

虚空蔵は虚空蔵で覚悟決めたんだし、美弥姉ぇが心配するのも当然だし。

オレも正直ヤバいんじゃないかって思ってるけど、

戦わなかったら戦わなかったで今度は犠牲者が増える一方だしで結局虚空蔵が戦わなきゃいけないんだろ?

こればっかりはもう仕方ないって」


夢芽の言葉に少し救われる。こういう時、間に入って両者側からジャッジしてくれる夢芽の存在は大きい。

俺と美弥ちゃんだとお互い謝ってばっかで埒が明かなくなるからな……


「それで、今回の事件の話だろ。多分蝙蝠っぽいよな、今回のエヴォリオル」

「多分な」

「コウモリだったら飛べるし血も吸うもんね」

「実際に血を吸うのは一部の種類だけだけどね。

むしろ虫とか果物を食べてる種類の方が多いよ」

「ほえーそうなんだ」


俺の蘊蓄(うんちく)に美弥ちゃんが感心してると購買でパンとパックジュースを買った楽人が戻って来た。

俺達の机を合わせたテーブルに楽人の椅子が追加され、四人で食事を再開する。

と、楽人が事件の話を振ってきた。


「虚空蔵殿達は今回の吸血鬼事件、どう思うでござるか」

「どうっつわれてもな。日本にそんなUMAみたいな生き物いたんだなぁっつーか。そりゃおっかねぇとは思うよ」

「この間の閖上での一件もあるでござるし、なんだかここ数日物騒でござるよなぁ」

「閖上の………っ……そ、そうだね…」

「? 美弥殿?」

「! 美弥ちゃん大丈夫か?」

「美弥姉ぇ、思い出しちゃったか?」


気分が悪そうな美弥ちゃんに駆け寄る。

やっぱりこの前の光景を引きずってるか………あの時俺がもう少し配慮してりゃあ……!


「も、もしかして小生、なにか不味いことを……?

み、美弥殿っ申し訳ないでござる!」

「………うんうん、楽人くんは悪くないんだ。こっちこそごめんね、ビックリさせちゃって」


頭を下げる楽人に優しく告げる美弥ちゃん。

それでも罪悪感が消えないのか楽人は申し訳なさそうに右往左往している。


「楽人、悪いのは俺だ。お前じゃねぇから気にすんな」

「な、なんで虚空蔵くんが悪いことになるのぉ?」

「まぁとりあえず、楽人は悪くないから安心しろよ、な?」

「………お三方がそう言うなら………美弥殿、申し訳ないでござる」

「楽人は悪くねぇから気にすんなって言ったろ、悪いのは「虚空蔵くんも悪くないからねっ」……はい」

「いや、知らなかったとはいえ美弥殿を傷付けたのは事実。謝らねば小生気が済まないでござるよ」


楽人は顔を上げる。なんだかんだ良い奴なんだよな、こいつ。正直よく俺なんかとダチやってるなと思うくらいだ。

楽人とは一年の時に同じクラスになったことで知り合い、最初は恐がられていたが偶々お互いがオタク趣味を持つことを知り、それを切欠に仲良くなった。

以来こんな俺にも仲良くしてくれていて今では美弥ちゃんと夢芽と同じくらい一緒にいる時間が多い。


(やっぱこの三人がいりゃあ他にダチは……)


そう思っていると、クラスの奴が声を掛けてきた。


「あー、美弥ちゃん?」

「後にしろ。取り込み中だ」

「うんうん大丈夫だよ。どうしたの?」

「先生から頼まれた荷物持ってかなきゃいけないんだけどさ、量が多くて………」

「あ。あれを持ってけばいいんだね」


黒板の方を見ると、教卓の上にはプリントと授業で使ったテキストが置いてある。確かに女子が持っていくには少々量が多く、あと一人二人は人手が欲しいところだ。

でも力仕事なら美弥ちゃんより適任な奴がいくらでもいると思うんだがな………それこそその辺の男を適当に捕まえた方がいい気がするんだが。


「どこに持っていけばいいの?」

「うん、三階の資料室まで。お願いしてもいい?」

「いいよー。じゃあ行こっか」

「………俺も行く」

「ほえ?」

「力仕事だし俺がいた方がいいだろ。お前もそれでいいよな」

「え、いや、あの……七ヶ浜さんはその………迷惑をかけるのは……」

「俺にやらせんのが迷惑なら美弥ちゃんに頼むのもそうだろ。別にキレたりしねぇからオドオドすんな」


俺の言葉に女子生徒は黙って頷く。

タッパーに入っている白飯をかっこむと教室の教卓に向かい、美弥ちゃんが持つ分のプリントを幾らか残して残りは資料の上に乗せる。

そしてそのまま持ち上げ、美弥ちゃんに「行こう」と声を掛けて教室を出た。


「虚空蔵く~ん待って~」

「ん」


追いついてきた美弥ちゃんを一旦待ち、並んだところでまた歩き出す。


「虚空蔵くん」

「なに?」

「ありがとう。気、遣ってくれたよね。荷物も持ってくれて」

「………ごめん。閖上のアレは、俺の配慮不足だ。

目の届かない場所で待っててもらうべきだった。本当にごめん」

「………確かにショックだったけど、あれは虚空蔵くんは何も悪くないよ。そんなに気にしないで」

「でも……」

「お願い。ね?」


美弥ちゃんの言葉に内心納得出来ないながらも頷く。すると俺を見た美弥ちゃんはクスッと笑った。


「なに、どうしたの」

「虚空蔵くん、納得出来てないのが顔に出てるなぁって思って。眉間がクッ!ってなってるよ」

「元からじゃないの」

「俺は納得出来ねーぜ!って顔だったよ?

むくれてる子どもみたいでちょっと可愛かったなぁ、なんて」

「こんな不細工に可愛く見える瞬間無いと思うけど」

「不細工………もーすぐそういうこと言うんだから。

虚空蔵くんはカッコいいよ?」

「クゥガ…!?」


ほんとこの()はっ……そういうことサラッと…!


「こ、虚空蔵くん?どうしたの?」

「何でもない、大丈夫……」


そうこう話していると資料室に付き、荷物を置く。

来た道を引き返して教室に戻ると、まだ休み時間は終わってないにも関わらず全員が席に付き、担任の先生までいた。


「なんだこりゃ……」

「授業は………まだ時間じゃないね、どうしたんだろう」

「あ、七ヶ浜くん、多賀城さん。

席に座って、話があるの」


俺達が不思議に思いつつ席に着くと、先生は至って真剣な様子で話し始めた。


「さっき警察の人から連絡があって、一番町付近で正体不明の謎の生物が暴れていると連絡が入りました。

この辺りは大丈夫だと思うけど、職員会議の結果念のため今日はこれで授業を終わりにし、即帰宅ということになりました」


先生の言葉にクラスはざわめく。

ただし不安や恐怖から来るものではなく、早く帰れることへの嬉しさ、浮かれから来るものだ。緊張感は無いに等しく、精々『何があったのか?』と世間話か他人事のように言うだけ。

こりゃ素直に直帰する奴は果たして何人いるかだな。


「みんな落ち着いて。遊びに行きたい気持ちはわかるけど、今回は真っ直ぐ帰宅するように。何かあってからじゃ遅いから、安全が第一よ。」


クラスの連中は『はい!』と威勢よく返事する。

帰宅準備は直ぐに終わり、挨拶だけ済ませて解散となった。


「虚空蔵、先生が言ってたのって……」

「間違いなくエヴォリオルだろうな。

俺は一番町の方に行ってみる、二人は先帰っとけ」

「でも……」

「この前みたいなのは見たくないだろ。特に美弥ちゃんはな。つーか俺が見せたくない」

「美弥姉ぇ、行こう。オレ達がいても役に立たないしさ」

「………うん………虚空蔵くん、気をつけてね」

「あいよ」


二人と別れ、一番町を目指してバイクを走らせる。

しばらく走っているとパトカーが止まってバリケードを作っているのが見えてきた。それを確認すると人目に付きにくい裏道へと入り、停車。

バイクから降りてオーブを取り出し、スペクターに変身する。


「変身っ!!」


スペクターに変わった俺は跳躍し、街を見下ろす。

すると直ぐに明らかに様子がおかしい場所を見つけた。

耳を立てると、怯えた叫びとサイレンの音。そして不気味な笑い声が聞こえてきた。ビルとビルを飛び越えその場所に向かう。



「うわぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

「なんなんだこの化け物はぁ!?」

「本部っ!!至急、至急応援をっっ」

「ケケケ………人間どもよ、泣け。喚け。

精々ゲームを盛り上げろ……!」


「はっ!!」


エヴォリオルの前に降り立つ。

辺りには襲われた人達や警察官達が倒れた凄惨な光景が広がっており、やはり美弥ちゃんを連れてこなくて正解だったとつくづく思う。


「早く逃げろ!……早く!!」

「ひっ」

「ま、また化け物!?」

「スペクター…!やっと来たか」


エヴォリオルに向き合う。

尖った耳、黒い体に各所から生えた体毛、開いているのか閉じているのか分からないような切れ目のような目、腕に備えた翼。

その特徴は予想通り蝙蝠のようだった。

薄気味悪い笑みを浮かべながらにじり寄ってくるエヴォリオルに警戒しながら構える。


「てめえエヴォリオルだな、なんでこんな真似しやがった……!」

「決まってるだろぅ?ゲームだからだ」

「人を殺すのがか?ふざけろよ」

「そぉうだ。我らが偉大なる神、テオス様がお決めになった。

誰が一番人間を殺し、スペクターを倒すか……ケケケ、面白いゲームだと思わないか…!」


反射的にエヴォリオルに殴りかかる。

コウモリ野郎は俺の頭上を飛び越え、背後に着地する。


「………」

「フフフ……シャアァァァァ!」


怪しげに笑うコウモリ野郎は翼を広げて飛び掛かってくる。

カウンターでパンチを放つがギリギリで躱されてしまい、足で肩をガッシリと掴まれてそのまま空へと連れていかれる。


「おっ……おおぉぉぉぉぉっ!?」

「キシャアァハッハッハッ……!」


一瞬の内に人や建物が豆粒に見えるほどの高さにまで到達し、


「墜ぉちろぉ!」


そのまま地上に投げ捨てられた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


体全体で風を切り、あっという間に街が近付いてくる。

ビルとビルの合間を潜り抜け、落ちると思った次の瞬間、立体駐車場に墜落した。

コンクリートの床をいとも容易くぶち破り、瓦礫と砂ぼこりにまみれて地面に叩き付けられる。


「痛っ…てぇなクソ…」


しかし自分でも驚くほどにダメージは負っておらず、悪態をつきながら直ぐに立ち上がれる余裕さえあった。

ジャンプして屋上に降り立ち、辺りを見渡す。

が、既にコウモリ野郎の姿はどこにもなく、目を凝らしても耳をすませても何も捉えられなかった。


「!……っ」


パトカーのサイレンが近付いてくるのが聞こえ、俺はそこから撤退した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あ!虚空蔵くん!」

「お帰り虚空蔵!どうだった?」


撤退した俺は美弥ちゃんから『帰り道にあるスーパーで待ってる』と連絡を受け、そこで二人と合流した。


「いや、取り逃がした。あのクソ蝙蝠……」

「そっか……」

「やっぱ蝙蝠だったのか。

つーことは飛べんのか………厄介だな」


確かに、あの飛行能力は厄介だ。

ジャンプで届かないこともなくはないが、自由に飛べる相手をいちいちジャンプで捕まえようとするのは幾らなんでも効率が悪すぎる。

そもそもジャンプで届かない高さにまで逃げられたらそれだけで詰みだ。


『なにか、対策を考えなきゃな……』





七ヶ浜宅 PM14:20


「〟アレ〝のこと、そろそろ教えた方がいいかな……」



閲覧ありがとうございました。

最後に出てきたアレとはなんなのか?

それは次回のお楽しみ。


それと、これからは後書きでキャラクターのプロフィールでも書いていこうかなと思ってます。

まずは虚空蔵くんから。


七ヶ浜 虚空蔵

年齢:17歳

誕生日7月7日

身長175㎝(成長中)

体重87㎏(体脂肪率3%)

血液型AB型

星座・蟹座

好きな食べ物:

牛タン、笹かま、ずんだ餅、油揚げ(特に定義山のもの)、いかの炉端焼き、肉類、丼ものや定食など量があるもの、他子どもが好きなものは大体好き

苦手な食べ物:

辛いもの、苦いもの、酸っぱいもの、ピーマン、魚の血身、レバー、貝類、バナナ

趣味

特撮観賞、特撮グッズ収集、バイクいじり、料理、かわいいもの集め、長風呂

好きな花

睡蓮

座右の銘

ムカつく奴はとりあえずブッ飛ばす

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