第24話 『憂鬱』
お久しぶりです、ライダー超信者です。明けましておめでとうございます。
2025年中に出したかったのですがぎりぎり出来ませんでした。大変お待たせしてしまい申し訳ないです‥‥
これからもこんな感じでしょうが、2026年もよろしくお願いします。
異世界
「ガドール、あの世界のスペクターに倒されたエヴォリオルは何人だったかな?」
「十八人です。ファントムの分も含めれば丁度三十人になります」
「ふふっ、結構やられたね。前の世界のスペクターも楽しませてくれたけど、こっちのスペクターはそれ以上だ。やっぱりゲームの相手は強い方が楽しいね」
「はい、私もここまでとは思っていませんでした。私と戦う機会があればよいのですが」
「ふふっ。そろそろ〝次のステージ〟に進んでもいいかもしれないね」
「テオス様お待ちください」
「どうしたのかなアラン、何か気になることでもあったかい?」
「お願いがございます。次は私を選んではいただけないでしょうか」
「━━オーバーロードが完成したのか」
「あぁ、例のヤツだね」
「はい、イゴールが完成させてくれました。
今こそスペクターを討ち取り、死んでいった同胞達の無念を晴らす時でございます」
「おいおいアラン、次は俺の番だよ。横入りはよくねぇよなぁ?」
「‥‥インク、次はお前か」
「あぁ。イゴールとお前には悪いけど、そのオーバーロードとやらの出番はないよ。俺がスペクターと、ついでにファントムとやらも始末してやるからさ」
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「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あっつ‥‥‥‥‥」
土曜日。
じりじりと照りつける日差しと青空が眩しい。そんな日差しと青空の下、俺は多賀城家の軒下で自転車の修理をしていた。
美弥ちゃんママの自転車の後ろタイヤがパンクしてしまったらしく、今は水を入れた洗面器にチューブを突っ込んでパンクした箇所を探しているところだ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥お、あった」
穴が開いていた箇所を拭いて紙ヤスリでヤスリ掛けし、ゴムのりを塗ってパッチをしっかりと貼り付ける。あとは捻れないようにチューブをタイヤに戻して空気を入れたら終了だ。
「美弥ちゃんママ、終わったよ」
「あら~~虚空蔵くんありがと~!助かったわぁ」
「とりあえずこれで様子見だね。一ヶ所しか穴なかったし大丈夫だと思うけど、何かあったらまた見るよ」
「虚空蔵くん頼もしいわ~流石男の子ね~♪」
美弥ちゃんママは嬉しそうに俺の頭を撫でる。
昔から何かあるとこうして頭を撫でて褒めてくれる人で、抱きしめられることも未だにある。
「あの、美弥ちゃんって‥‥」
「それがね、まだ下りてきてないの。最近元気無いし、何かあったのかなぁ‥‥?」
「お邪魔してもいいですか」
「うん、どーぞどーぞ。虚空蔵くんが相手なら美弥ちゃんも色々と話しやすいだろうし、申し訳ないけどお願いしてもいいかな」
頷いて多賀城家に入る。リビングには寛いでいる仁さんと夢芽がいたが美弥ちゃんはいない。
「お、虚空蔵くんおはよ」
「おはよう。仁さんも休みだったんだ」
「まーねー」
「どうしたんだ、美弥姉ぇか」
「あぁ。美弥ちゃんはまだ上だろ?」
「‥‥‥‥美弥に用かい?」
俺が聞くと、それまで和やかだった仁さんの態度が真剣なものに変わった。その目付きは鋭さすらある。
「虚空蔵くんあの子に何があったか知らないか?ここ一週間、ずっと暗い顔で元気がないんだ。聞いても空元気で無理してる感じでさ‥‥‥‥何か知らないか?」
「‥‥‥‥多分、同じ学校の奴が行方不明だからじゃないかな」
半分本当で半分嘘だ。美弥ちゃんの元気がない真の理由は俺も夢芽も分かっているが、仁さんと美嘉さんに話すわけにはいかない。
「あぁ、そういえばそんな話聞いたけど‥‥そんなに仲良かった子なのかい?」
「普通だよ。向こうは美弥ちゃんのこと好きだったみたいだけど」
「おぉ、流石うちの子。モテるなぁ~~」
「ははっ、それは否定できないね‥‥じゃ、行ってくるよ」
リビングを出て二階に上がり、美弥ちゃんの部屋の前に立つとコンコンとドアをノックして声を掛けた。
「美弥ちゃん、俺だけど」
「!‥‥‥‥虚空蔵くん‥‥?」
「うん。今大丈夫?入ってもいいかな」
数秒の間が空き、
「‥‥うん、大丈夫」
と一言だけ返ってきた。
静かにドアノブを回して中を覗きこむとベッドの上で膝を抱えた美弥ちゃんがいた。表情は普段からは想像出来ないほど悲しげで暗い。
「隣、いい?」
「‥‥うん」
了承を得て隣に座る。
「仁さんと美嘉さん心配してたよ。何かあったんじゃないかって」
「‥‥‥‥ごめんね心配かけて」
「いいんだ。風間のことでしょ?」
美弥ちゃんは黙って頷く。
「何度だって言うけど美弥ちゃんは被害者だ、何も悪くない。責任を感じる理由も必要もどこにもない」
「でも‥‥‥‥」
「エヴォリオルになることを選んだのは結局あいつだ、その事実は変えようがない。誰のせいにも出来ない。全部自業自得、因果応報だ」
「そう、かもだけど‥‥‥‥でも、もっと私に出来ることだってあったんじゃないかなって思って‥‥」
「あったかもね。でもあいつが聞く耳を持つと思う?美弥ちゃんが止めても結局変わらなかったし変わろうとしなかった。それが答えだと思うよ」
俺の言葉に美弥ちゃんは俯いてしまった。美弥ちゃんだってもう分かってはいるのだ、あのバカが口で言って分かるような奴じゃないことは。言って分かるなら今回のようなことは起きていないと。
「それと念のために言っとくけど、〝俺に風間を殺させた〟なんて考える必要もないからね」
「あ‥‥‥‥」
「‥‥やっぱりか」
「だって、私のせいで虚空蔵くんが人殺しって‥‥私が拐われなかったら‥‥!」
「あんなもんは取るに足らない負け惜しみだ、真に受けるだけ損だよ。
大体それを言ったら今まで倒してきたエヴォリオルだって一応は元人間らしいからね、それで人殺しってンならもうとっくになってるよ」
「それは‥‥‥‥」
「違うでしょ?風間も同じことだよ。
自分から人を捨てたくせに都合のいい時だけ人間扱いされようなんて舐めた真似許されるわけがねぇ。あいつは自分でやったことのケジメを自分の命で付けただけだ」
俺は美弥ちゃんを助けるために、そして俺の大切なものを守るために〝敵〟を倒しただけだ。後悔することも心を痛めることもない。
あいつは覚悟も無く安易に力に手を出して滅んだバカでしかないのだ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ただまぁ、あんなどうしようもねぇバカでも一人くらいは悲しんでやる人間がいてもいい‥‥とは思う。
美弥ちゃんがその一人になるなら、俺は否定しない。美弥ちゃんにとっては今でも友達なんだろ」
俺の問いかけに、美弥ちゃんは儚げな笑みを向けてきた。
「‥‥‥‥うん‥‥ありがとう、虚空蔵くん」
そこからは色々な、とりとめもない話をした。
少しでも美弥ちゃんの心が軽くなるように、少しでもまた笑ってくれるように他愛のない話をした。
「‥‥‥‥‥‥虚空蔵くん。一つ、お願いしてもいい?」
「勿論」
「私に、戦い方を教えて」
突然の言葉に驚くが、美弥ちゃんが今何を考えているかはなんとなく分かる。
「今回の件で、このまま虚空蔵くんに甘えてたらダメだと思ったんだ。自分の身くらいは自分で守れるようにならないと‥‥出来れば夢芽ちゃん達も守れるようになりたいんだ」
俺が守るから心配ない、大丈夫だ。
出そうになった言葉を飲み込む。
「分かった」
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「うわぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、あぁ‥‥!!」
見えない何かに持ち上げられた警官の首がへし折れる。警官だけではなく、既に九人の犠牲者が見えない何かによって宙ぶらりんになっていた。
その異様な光景に他の警官達も銃を空に向けながら怯えることしか出来ず、刃野と氷川も動揺を隠せない。
「クソ!なんなんだ一体!」
「未確認はどこに‥‥!?」
周囲を見渡してもそれらしき存在はなく、姿なき敵に翻弄される警官達を嘲笑うかのように宙に浮かんだ犠牲者が揺れる。
「クソッ、ふざけた真似しやがって‥‥人の命をなんだと思ってやがる‥‥!」
「ゲームの点数だ。それ以外も以上もない」
突如響いた謎の声に驚愕する警官達。刃野だけがその声に食って掛かる。
「ゲームの点数だと‥‥どういうことだっ!!」
「殺した人間の数を競うゲームだ。そしてお前達は獲物。ご理解いただけたかな?」
「ふざけるなっ!!! そんな理由で、たったそれだけの理由でどれだけの人が命を奪われたと思っているんだ!!」
「興味ないな、貴様らの命に大した価値などない。自惚れるな」
刃野がエヴォリオルの言葉に強い憤りを覚えた
時、愛機ミラージュバッシャーに乗ったファントムが爆音と共に現れ、刃野と氷川の前に立った。
「B二号っ……!」
「へぇぇ〜~、お前がファントムか」
姿を現したのはイカに似たエヴォリオルで、同時に被害者の首に巻き付いた触手も可視化される。この触手によって犠牲者達は首を絞められ、折られて殺害されたのだと刃野と氷川は理解した。
「今回はイカか。いいね、フライ天ぷら唐揚げ、どれがいいかな」
「はははっ、やれるもんならやってみろ!
俺はスキッドエヴォリオルのインク!またの名を〝見えざる絞首台〟だ!!」
スキッドエヴォリオルは犠牲者達をゴミのように投げ捨てると触手で体を持ち上げ、ファントムの頭上から攻撃を仕掛けてくる。
触手を舞うように避けながら接近したファントムは飛び蹴りを放ち、吹き飛んだエヴォリオルはオフィスビルへと突っ込んでいった。既に避難が完了し空っぽになったビルに飛び込んだファントムだったが、そこにエヴォリオルの姿はない。
「あぁ?どこイ゛っ」
見えない一撃が脇腹にクリーンヒットしたファントムだが即座に体勢を立て直す。悪態をつきながらベルトから取り出したリヴォルトブレイカーを乱射し、オフィスを容赦なく破壊するが手応えはない。
「じゃ上か」
天井を見上げてブレイカーを向けた時、突如衝撃と共にファントムは吹き飛ばされた。
すかさず空中で体を捻って体勢を立て直すと反対側のビルの壁面に着地し、数秒前まで自分がいた一室に向かって躊躇なく弾丸を撃ちまくる。
「おいおいおい、派手にやりすぎだろ‥‥!」
「退避しましょう!皆さん急いで!!」
「つれねぇな逃げるのか?」
避難しようとした刃野達の前にエヴォリオルが立ち塞がる。ファントムは瞬時にクラッシャーフォームに変わり加速、エヴォリオルを豪快に蹴り飛ばし建物をぶち抜きながら吹き飛んでいくエヴォリオルを追う。
反撃として放たれた触手をブレイカー・サイズモードで切り裂きながら迫り、蹴りの連撃を浴びせる。強烈な踵落としで叩き伏せるとシューティングフォームに変わり、超至近距離射撃を何発も浴びせた。
「━━おいイカ野郎、聞きたいことがある。首ぃ落とされたくなかったら素直に吐け」
通常フォームに戻ったファントムは瓦礫の中に倒れたエヴォリオルを踏みつけ、再びサイズモードに変形させたブレイカーの刃を首に当てる。
「お前紫のエヴォリオルを知ってるか、悪魔みたいな見た目したクソ野郎だ」
「っ‥‥知ってどうするっ‥‥」
「質問してんのはこっちだボケ。知ってるのか知らねーのかどっちだよコラ」
踏みつける力を強めた時、突如飛んできた緑の光弾をブレイカーで切り裂く。二つに分かれた光弾はファントムの背後で爆発した。その隙をついてエヴォリオルは脱出してしまう。
「━━誰だてめぇ」
「偉大なるエヴォリオルの一人、アランだ。覚えておけ」
ファントムの視線の先にはアランがいた。左腕に装着したデバイスをファントムに向けており、そこから先程の攻撃が放たれたのだと理解する。
「アラン‥‥お前が虚空蔵の言ってた奴か。なかなかスカした面ぁしてやがる」
「悪ぃなぁアラン、助かったぜ」
「気にするな。行け」
「おいおいおい‥‥誰が行ってよしっつったぁっ!!!」
斬撃が飛ぶ。しかしアランの銃撃がそれらを全て撃ち落とした。
「私がいいと言った。不服か?」
「OK分かった てめぇから死にてぇらしい‥‥!」
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スペクタイフーンを走らせて現場に到着すると前方からエヴォリオルが現れた。加速、突進して撥ね飛ばし、ビル壁面に叩き付ける。
「スペ、クター‥‥!」
「オラ行くぞコラァ!!」
立ち上がろうとしたエヴォリオルを殴り倒し連続攻撃で畳み掛ける。頭を鷲掴んで顔面に頭突き、怯んだところに両手を組んで脳天に一撃、顎をかち上げるようにもう一撃かまして蹴り飛ばした。起き上がろうとしたところを更にドロップキックを叩き込む。
「ガッ‥‥‥‥シャアッッ!!」
触手の反撃を躱すが距離を離されてしまう。
「やるなぁスペクター‥‥!そうこなくちゃあ殺しがいがねぇ‥‥俺はスキッドエヴォリオルのインクだ、よろしくやろうぜ」
「紙のシミにでもなってろクソ野郎」
再び攻撃を仕掛けようとした時、唐突に吹っ飛んできたファントムが空中で体勢を立て直し、俺の直ぐ隣に着地した。突然のことに俺だけでなくエヴォリオルも驚く。
「恵里!」
「おぉ、よっ」
何事かとファントムの飛んできた方を見るともう一体のエヴォリオルがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
クジラに似た姿をしたそのエヴォリオルは、左手には見たことのないデバイスを着けている。
「スペクター‥‥!やはり来ていたか」
「新手か‥‥面倒くせぇ」
「あいつ、アランって奴だよ。あのスカしたパツキンの」
「‥‥へぇ、久しぶりじゃねぇか。てっきり尻尾巻いて逃げたモンだと思ってたぞ。そのおニューのアクセサリーでも見せびらかしに来たか?」
「下劣な輩の言葉は聞くに堪えんな。
インク、お前は行け。ここは私が引き受ける」
「サンキュー、アラン!そいつらは半殺しぐらいで残しといてくれよ!!」
「待てコラッ!!」
追おうとするがデバイスから放たれた光弾に阻まれ、エヴォリオルを逃がしてしまう。
「てめぇ‥‥!」
「こいつをちゃちゃっと片付けて追えばいいだけよ、さっさとやっちまおう」
「身の程を知らぬ猿共が、お前達は少しエヴォリオルの偉大さと恐ろしさを思い知った方がいい‥‥!
私はホエールエヴォリオルのアラン、今まで散っていった同胞の無念思い知るがいい!!」
エヴォリオルの啖呵を合図にファントムと共に突撃、怒涛の勢いで攻め立てる。しかしエヴォリオルは次々と繰り出される俺達の攻撃を容易く捌いて反撃に転じ、前後挟み込んでの同時攻撃すら防ぎ切ってしまう。
(強い!今までのエヴォリオルとは違う!)
それでも攻撃の手は緩めず攻め続ける。逃げたイカ野郎も追わなきゃいけない以上、こいつ一人にいつまでも足止めを食うわけにはいかない。
「邪魔だぁっっ!!!」
全力の右ストレートで防御ごと吹き飛ばし、俺の頭上を飛び越えたファントムの三連続回転脚が炸裂。エヴォリオルは大きく後退するが、体勢は崩れない。
「虚空蔵行け!!」
「頼む!!」
直ぐさま戦線離脱し、イカ野郎を追う。
「‥‥!逃げるな貴様っっ!!」
デバイスをこちらに向けるエヴォリオルだがファントムが阻む。
「これ持ってけ!!」
ファントムが投げ渡してきたのは拳銃‥‥恐らく殉職した警官から拝借したものだろう。受け取り、ストリームフォームに変身して加速した。
「‥‥‥‥貴様‥‥!!」
「そーかっかすんなよ。余裕のない男はモテねぇよ?」
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━━━━━
「! いたっ!!」
「チッ、来やがったか」
逃走するエヴォリオルを発見し、加速して蹴りかかる。しかし蹴りが命中する直前にエヴォリオルは一瞬で風景と同化するように消え、姿を見失ってしまった。
しかし、こちらにはこういう能力持ちを相手取れるフォームがある。
「それで逃げたつもりかボケが‥‥!!」
ブラストオーブを取り出して起動しようとした時、モカが変身したウルフエヴォリオルが目の前に降り立った。
「モカ!」
「主乗って!」
四足走行形態・疾走態に変化したウルフの背に乗ると疾走、垂直のビル壁を難なく駆けていく。
『Set&Charge Ready For Penetrate!』
ブラストフォームに変身して拳銃を変化させたブラストボウガンにオーブを装填。視覚と聴覚を研ぎ澄ませて雑踏に紛れたであろうエヴォリオルを探す。
━━━━捉えたのは触手の蠢く音。
明らかに人間のものではないその音が聴こえた場所に目を凝らすと、そこに透明化して逃走するエヴォリオルの姿を見た。
「そこか‥‥!」
引き金を引く。
ボウガンから放たれた矢は狂いなく真っ直ぐ飛んでいき、エヴォリオルを撃ち抜いた。
「がぁぁぁぁぁぁ‥‥ッ!!
こんな、あり得ねぇ‥‥!こんナァァァァァァァァァァァ!!!」
もがき苦しみながら姿を現したエヴォリオルは叫びと共に爆散。最期を見届け基本フォームに戻って雑居ビルの屋上に着地する。
「やったね主、お疲れ様」
「ありがとうモカ、助かった。随分タイミング良かったな」
「嗅ぎなれない臭いが一ヶ所に集まっていたから心配だったんだ。特に嫌な臭いもしたし‥‥」
「成る程な‥‥まだその臭いするか」
「うん、向こうの方からする」
「悪ぃがそこ戻るぞ。急ぎだ」
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━━━━━
「ふんっ!!」
「はっ!」
蹴りと蹴りがぶつかる。一瞬の睨み合いの後、飛び退って距離を取る。
「‥‥なかなか強いなお前。殺すにはちょっと骨が折れるかな」
「貴様も思っていたよりは強い。
〝思っていたよりは〟だがな」
鯨型のエヴォリオルが腕を振り上げると何もない空間から津波の如き激流が吹き出す。
「へぇ~‥‥」
呑み込もうとしていた激流を真っ二つに蹴り裂く。直後、衝撃で水一滴残らず消し飛んだ。
「!」
「これも〝思っていたよりは〟か?」
「‥‥いいだろう。脅威度は見直してやる」
「恵里!!」
そこにスペクターが戻ってくる。あの狼型のエヴォリオルも一緒だ。
「あのイカ野郎は倒した。あとはこいつだけだ」
「バカな‥‥インクまでもが‥‥!」
スペクターの言葉に動揺するエヴォリオルの横っ面を思い切り蹴り飛ばした。
「ヒューッ、ようやくまともに一発入ったな」
「ナイスキック」
「貴様‥‥!!」
立ち上がりウチらを睨み付けるエヴォリオルをスペクターが睨み返す。
「なんだ、まさか卑怯汚ぇなんてほざくつもりか」
「━━━いいだろう‥‥貴様ら全員、完膚なきまでに叩きのめしてくれる!!」
エヴォリオルが立ち上がるが、直ぐに動きが止まる。
(アラン、一度帰っておいで)
「!! テオス様!!」
「テオス‥‥?知ってるか?」
「んにゃ、知らない」
「‥‥‥‥分かりました。直ぐに戻ります」
「んだよ逃げるのか?案外腰抜けだな。スペクターが合流して怖じ気づいたかぁ?」
「口の利き方に気を付けろ凡俗。
次に会った時が貴様らの最後だ、覚悟しておくがいい!!」
そんな捨て台詞を残してエヴォリオルは退散していった。
「ま、今回も一件コンプリート!メガロポリスは日本晴れだな」
「ははっ、何それ」
そうしてスペクターと別れようとした時。
「恵里、何時でも戻ってこいよ。」
背後から掛けられた言葉に手を振って答え、妹と恩人の待つ場所に帰還した。
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「テオス様、只今戻りました」
「お帰りアラン」
「‥‥何故、あの場で帰還のご命令を?」
「すまないね。ただ、憎悪は熟成させてから爆発させた方がいい。そうだろう?」
「‥‥‥‥はい」
私は、テオス様の仰る通りにしよう。
スペクター、ファントム、我々の邪魔をする者への憎悪と怒りをこの身に宿し、滾らせる。
待っていろ 身の程を知らぬ邪魔者共




