第17話『決別』
皆さんこんにちは、ライダー超信者です。なんとか年内にもう一本投稿出来ました。
今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
3/6 中途半端になっていたところを修正しました。
「…………悩める人の味方?ふざけてんのか?」
目の前の男を睨む。しかし男はへらへらした態度を崩さずに話し続ける。
「いやだなぁふざけてないよ。あ、俺〝カラー〟ね。
で、キミはどうしたんだい?こんなところで絶望しきった顔してるからには何かあるんでしょ」
「話してみればいーんじゃない?俺もさぁ、こいつのおかげですっげー楽になれたんだぁ」
金髪の男は見た目に違わないバカっぽい話し方で、付き合ってるだけでこっちの頭まで悪くなりそうだった。
(……………………………………こんなのに話したところで何も変わらないだろ、バカか俺は)
自分でもよく分からない内に、今日あったことを目の前の二人に話していた。全くお笑いだ、ほんの少し気まぐれ程度に心配してきた初対面の人間にこんなこと話すなんて、我ながらどうかしている。
「成る程。うん、伽怜良だっけ?伽怜良は悪くない」
「…………は?」
鼠色の髪の男……もといカラーは断言した。
〝俺は悪くない〟 確かにそれはそうなのだが、まさかここまで真剣に肯定されるとは思っていなかった。思わず間抜けに聞き返してしまった。
「伽怜良は悪くないさ。だってそいつのことが気にいらなかったんだろ?それで十分じゃないか。
気に入らない奴、意にそぐわない奴を攻撃して排除するなんて人間が大昔からやってきたことだし、人間の本質だよそれ。適当な理由で誤魔化してるってだけ」
「………………………………………………」
「人間ってそういうの好きだよねぇ~~いちいちやる事なす事に理由や正当性を付けて安心したがる、自分と違えば迫害して悪や異端者のレッテルを貼る。『こうだから正しい』『こうだから間違ってる』なんて所詮は水掛け論に過ぎないのにね。
それなら『気に入らないからやった』の方がよほど正直で健全だよ。自分が過ごしやすい環境を作ることの何が悪いんだろうねぇ?」
カラーの言葉に、俺は自然と頷いていた。何より嬉しかった。俺に味方してくれる人間がこの世界にいる。それだけで救われた気分になった。
「いーじゃんいーじゃん、嘘つこうが何しようがさ。
周りの意見なんてうるせーノイズでしかないし、自分を殺してまで守るほどの価値なんかないない!
だったらこっちも自分の意見と正義押し付けるだけっつーか?」
「おー!〝春樹〟良いこと言うじゃーん!」
「でしょー!結局人間、自分さえ良ければそれでいーじゃん的な!?人間なんてそんなもんじゃーん!」
金髪の男……春樹と盛り上がるカラー。
「何はともあれ、俺達は伽怜良を肯定するよ。
キミは自分に素直になっただけだ。何も悪くない」
「ねーねー、その美弥ちゃんってさ、そんなにかわいいの?どれくらいかわいい?」
「言葉を尽くした程度じゃ足りない、とだけは言っておく。外面だけじゃない、内面まであれだけ美しい人は他にいない。まさに天上界の美だ。
一度彼女を見れば、テレビで持て囃されてるような女優やアイドルが如何に取るに足らないかよく分かる」
「へぇー…………いいなぁ、かわいいんだろうなぁ」
「今は美弥ちゃんのことはいい……………お前らは何者だ。なんで見ず知らずの俺の味方をする」
「んー何者かぁ…………言うより見た方が早いよ」
カラーは取り出した〝何か〟のスイッチを押す。
瞬間、姿が一瞬で変わり、たくさんの手が寄り集まって人型になったような異形の化け物になった。
声が出ず、後ずさろうとしてベンチから転げ落ちる。
「みか…………未確認っ…………」
「あぁ、この世界の人間はそう呼んでるんだっけ。
大丈夫大丈夫、怖がらなくていいよ。伽怜良を襲うつもりはさらさらないし、あくまで証明のために見せただけ」
そう言ってカラーは元の人間の姿に戻る。
「お前も…………お前かっ……」
「んあ?いや、俺はエヴォリオルじゃないよ」
「エヴォ…………」
「キミ達が未確認と呼ぶ存在の正式な名前さ。全てを超越し、万物の上に立つ存在だよ」
「俺はカラーの力で強化された強化人間なんだぁ~、体そのものを作り変えてるんだっけ?」
「えぇ~~~いい加減覚えてくれよぉ。
春樹は俺の力で分子レベルから強化改造してんの!そんじょそこらのスポーツ選手や格闘家なんか目じゃないってば」
カラーと春樹は何か話しているがそんなものはどうでもよかった。肝心なのはその前だ。
全てを超越した力…………それほどの力をもし手に入れられたのなら、美弥ちゃんを七ヶ浜から救うことが出来るかもしれない。
おぞましい怪物になってしまうのは正直御免だが、あのクズから美弥ちゃんを救い出し、俺のものに出来るというのなら魅力的すぎる話だ。
「なる?エヴォリオル」
悩む俺を見透かしたようにカラーが尋ねてきた。
「! なれるのか……俺も……!?」
「いーや無理。確率で言うとねぇ、那由多に一とか不可思議に一ぐらい?」
頭をぶん殴られたような感覚に陥る。
「ふっっ……ざけろっ!!馬鹿にしてんのか!?そんなもん不可能と同じじゃねぇか!!」
「そりゃね。エヴォリオルになれるのは限られた選ばれし者だけだもん。失敗すれば死、良くて自我もクソもない化け物に成り下がる」
「………………………………!!!」
「ただ、〝伽怜良がそうなる〟とは言ってない」
そう言ってカラーは取り出したのは虹色に輝く結晶。
吸い込まれそうになるほどの〝何か〟を放つその結晶に目が釘付けになり、無意識に手を伸ばす。
「おっとっと、下手に触ったら駄目だよ」
カラーの声でハッとし、慌てて手を引っ込めた。
「これは魔皇石。エヴォリオルの力の根源だ。
これに適合することが出来れば伽怜良もエヴォリオルになれる」
「デモン、ストーン………………」
「どうすんの~~?俺は遠慮したよ、ヤバそうだし」
美弥ちゃんのことが頭に浮かぶ。
あの温かい日だまりのような笑顔を、純白の天使のような心を守れるのは俺だけだ。俺こそが、美弥ちゃんの隣に立つに相応しい。
断じて、あんな七ヶ浜ではない。本来あのポジションに収まっているべきは俺なんだ。
「……………………………………その石をくれ」
「了解。ここだと人目について面倒くさいから場所を移そうか。ちなみに念のため言っとくけど、人間の世界や社会には戻れなくなるよ」
「美弥ちゃん以外の人間なんかもうどうでもいい。
俺を認めない世界もどうなったっていい。
美弥ちゃんを手に入れて好きに生きられるなら、人を捨てるくらい大した問題じゃねぇ」
「そ、じゃあ行こっか。
あ、どうでもいいかもだけどさ…………」
「今の伽怜良……すっげぇいい眼をしてるよ」
踵を返して歩き出したカラーと後をついていく春樹。
するとその先の空間に穴が空き、二人はその穴……ゲートらしきものの中に入っていく。俺も覚悟を決めてそのゲートの中へと入っていくのだった。
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「虚空蔵くんただいまー」
「ちゃんと大人しくしといたかー?」
杜都町 七ヶ浜家 PM15:48
「やぁやぁお邪魔するでござるよ虚空蔵殿!!」
「やっほー虚空蔵くん♪おげんこ~~?」
「こんにちは…………」
「おー、先輩のお家ってこんな感じなんですねー」
「虚空蔵先輩こんにちは、お邪魔します」
「なんで全員集合してるんだ…………?」
美弥ちゃんを見ると首を傾げた。
「あれ?LINE送らなかったっけ…………送ってなかった。あれぇ?」
「美弥姉ぇボケボケじゃねーかしっかりしろ」
「それじゃあ、私達お邪魔だったんじゃ…………」
富美花さんの言葉に美弥ちゃんは半泣きになりながら俺を見てくる。
「いえ、困ることはないから大丈夫ですよ。美弥ちゃんも気にしなくていいから。
まぁ、その、とりあえず上がってもらって」
みんなに上がってもらい、茶の間に通す。わざわざ俺の家にまで来たからには何か話があるのは間違いないだろう。とりあえず座ってもらう。
「…………で、どうしたんだみんな揃って。
何かあるんだろ、楓さん達までわざわざ来たんだ」
「はい、色々あったというか……」
「やぁ~私男の子の家来たの初めてよ初めて。
……なんか興奮してきた。エロ本探していい?」
「初めて来た男の家で最初にやることかそれがぁ!!
つぅか何で持ってる前提!!?」
「え、ないの?」
「 な い で す 」
力強く言い切る。何が悲しくて幼馴染みや先輩後輩の前でンなこと暴露しなきゃならんのか…………来て早々トばしすぎだろこの人。
「つーか、そもそも俺の年齢じゃ買えないです」
「えー真っ面目~~世の男の子って中学生の頃にはもうエロ本の三つや四つ持ってるんでしょー?」
「ド偏見な上にどこ情報ですかそれ」
「小生中二の時に下校途中で触手物の本を拾っ「へし折るぞ」どこを?」
「恥ずかしがらなくてたっていいじゃ~ん、私だってエロ本くらい持ってるよ?BLよりNLと百合派です」
「高校入ってから一番いらない情報ですそれ。なんで俺はセクハラ受けてんだ」
「じゃあ性癖バトルしよう性癖バトル!虚空蔵くんは巨乳派ですか貧乳派ですかっ!!」
「アスファルトの上でパワーボムかますぞ」
美弥ちゃんと瑠夏はよく分かっていないような微笑みを浮かべ、夢芽と泉は引き気味に苦笑いし、富美花さんは顔を赤くして俯いている。漫才してんじゃねーんだよ。
「虚空蔵殿は顔に似合わず初心でござるからなぁ、そのテの話を振ると怒るでござるし。しかし純情ヤンキーって使い古されつつも何だかんだみんな好きでござるし、虚空蔵殿もこれで意外とあざといでござるからな」
「もう疲れてきたからやめてくれ」
「虚空蔵殿、干した布団からは何の匂ひがするでござるか?」
「……?何ってお日さまの匂いだろ、どうした急に」
(((((お日さま)))))
(虚空蔵くんかわいい)
(いつも通りだな)
「それで、楓ちゃん達は一体どうしたの?主も言ってたけど、何かご用があるから来たんだよね」
知ってか知らずかモカがフォローしてくれたことでようやく本題に入る。と、夢芽は微妙な顔になって話し始めた。
「それがよぉ、風間のヤツ行方不明なんだとよ」
「…………あぁ?なんじゃそりゃ」
「昨日のお前との一件で親と喧嘩したらしくてよ、家を飛び出してそれっきりらしい。今日はその話で持ちきりだったぜ」
「一年の方にも話回ってきてましたよ、昨日問題起こした先輩の片方が行方不明って」
「クソ忙しい警察の仕事増やすなよあのバカ」
「………………昨日言い過ぎちゃったかな」
「美弥先輩は何も悪いことしてないですって!徹頭徹尾向こうが悪いですよあんなん」
泉が唇を尖らせる。泉の言う通り美弥ちゃんもみんなも何も悪くない。悪いのはアイツと俺だ。
「あの野郎なにやってんだアホ……つーか謹慎中だろ」
「どこ行っちゃったんだろう……心配だな……」
「エヴォリオルに襲われた、とか……?」
全員が一斉に瑠夏を見る。今の状況なら有りうるか……しかし、美弥ちゃんが待ったをかけた。
「でも、もし襲われたとしたら伽怜良くん一人じゃ済まないよね……今までのことを考えたらもっと犠牲者が出てもおかしくないし、ニュースにもなってる筈だし」
「あ、確かに。なら一先ずは安心か~?」
「それはそれでアイツどこ行ったんだよ…………ま、アイツの面見ねぇで済むならそれに越したことはねぇけどな」
「もー虚空蔵くんったら……」
ゲッゲッゲ、とわざと底意地の悪い笑い方をすると美弥ちゃんに窘められる。
「大丈夫だって、あいつの我の強さとふてぶてしさがあればそう簡単にはくたばらないよ」
「でも風間先輩ってアレですよね、ホラー映画でよくいる『イキってた割りにあっけなく死ぬ嫌なヤツ』みたいな雰囲気スゴいですよね」
「ぶっははっ!!いいなそれ、的を射ている例えだ」
「不謹慎だよぉ……」
「でもあれだな、虚空蔵の家にこんだけ人が集まってんのも珍しいな。いつも美弥姉ぇとオレぐらいだからよ」
確かに言われてみればこれだけの人数が家にいるのはかなり珍しい。小学校の頃は幼馴染み以外も何人か連れてきた記憶はあるが、父ちゃんと母ちゃんが亡くなってからは友達付き合いをしている余裕がなくなり、自然と美弥ちゃんと夢芽との付き合いだけになっていった。
中学に上がってからもそれは変わらず、むしろアバレまくったことで周りからはどんどん人が離れていった。
(別に寂しいだの友達が欲しいだの思ったことはねぇけど…………改めて振り返ると、美弥ちゃんと夢芽には随分救われてんな……)
「えっ~と、虚空蔵くん?もしかしてあの写真のお二人が虚空蔵くんのご両親?」
一人でしみじみとしていた時、楓さんの声で意識が引き戻される。楓さんの視線の先には二人の写真があった。
「はい…………あー、そういえばこの前聞かれた喧嘩するようになった理由、言いそびれてましたっけ」
「あ、そういえば。でもなんで?」
「喧嘩……というより鍛え始めたきっかけが親と死別したことなので。今それで思い出しました。
ウチは四姉弟で男は俺だけ、両親はもういない、そうなると姉や妹を守るのは当然長男の俺。その俺が頼りなかったり弱かったら周りから舐められるし、いざという時家族を守れないようじゃクソの役にも立たねぇわけです。
だから誰にも負けず、何物からも家族を守れるようにひたすら鍛えました」
我ながら自分語りなんてつまらないと思うが、みんなは嫌な顔せず真剣に聞いてくれた。
「いつも着てるあの学ランとボンタンも、少しでも強く見せるのと気合いを入れるために親父の形見を着始めたものです。
因縁は腐るほどつけられたし、そういう奴を片っ端から叩き潰すのが中学時代の日課になってたし、喧嘩すりゃした分だけ目ぇつけられて更に喧嘩吹っ掛けられるようになりましたけど、どいつもこいつも雑魚ばっかでそこまで問題じゃなかったです。強く見えるのと気合い入るのは間違いなかったですし。
あくまで舐められなきゃいいんで、本当なら喧嘩するつもりは無かったんですけどね。実際俺から仕掛けることは基本ありませんよ」
「じゃあ、なんで喧嘩で有名に?」
「正義感ですよ、正義感」
俺を遮って夢芽が返す。
「正義感ってお前なぁ……」
「こいつ不良とかヤンキー大っ嫌いなんですよ。というか人に迷惑かけたり悪意のある人種は総じて嫌いです。この顔でですよ?」
「やかましい顔は関係ねぇ」
「多分宮城にいる不良ヤンキーチンピラ半グレの九割五分はこいつにぶちのめされてますね。イジメなんか見た日にはもう鬼の如くですよ」
「方法の良し悪しはどうあれ、治安維持を担っていたわけでござるな」
「んな御大層なことしてねぇよ。気に入らねぇモンはぶっ潰す、ただそれだけだ。
バカがろくでなしを半殺しにしてただけだぞ、褒められることなんか何一つねぇよ」
「もー、すぐ自分のこと悪く言う……」
「じゃあ有名な暴走族潰しもそうなんですか?
失礼かもですけど先輩を語る上でこれは外せないっていうか伝説っていうか…………」
泉の問いに一瞬考えてから答える。
「つまんねぇし長いぞ、これだけ自分語りしといて今更だけどよ」
「言われてみれば、虚空蔵くんの暴走族潰しって詳細不明なところ多いのよね。真相は知りたいかも」
楓さんの言葉もあり、当時のことを話し始めた。
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当時、宮城を始めとした東北ではハイウェイスターという暴走族が幅を利かせていた。六百人もの構成員からなる大規模な組織で暴走行為はもちろん暴力事件や迷惑行為も数多く起こしていたイカれた集団であり、警察とは毎日鬼ごっこを繰り広げていた。
各学校では関わらないことを徹底して教え、可能な限り集団での下校を推奨する、警察が下校の時間帯に見回りの対策を講じていたが効果は薄かった。
暴走族が廃れきった現代に似つかわしくないその暴れっぷりは『タイムスリップしてきた暴走族』『生まれる時代を間違えた集団』と称され、全国的に名前が知られるほど恐れられていた。
『うるせぇなクソが……!!』
当時俺は中学二年、この時点で喧嘩が強ぇと結構有名になっていたと後から知った。
『にぃに落ち着いて、ね?』
『またこの辺走ってんの~~……勘弁してよぉ……』
月姉は参ったように座椅子にもたれ掛かる。
この時点で既にここら一帯の人間はハイウェイスターによる騒音問題に悩まされており、その状態が一ヶ月近く続いていた。
『本当やぁねぇ毎日毎日……おばちゃんすっかり寝不足よ…………』
『全く迷惑な連中だ。俺も虚空蔵くんくらい若けりゃあ文句の一つも言いにいけるんだがなぁ……ただでさえジジイの朝は早いんだ、せめてゆっくり寝かせてくれ』
『最近ずーっとうるさくて困っちゃうねぇ…………虚空蔵くん達は大丈夫?美弥ちゃんと夢芽ちゃんもなかなか寝れないって困ってるの』
昔から付き合いのある近所のおっちゃんおばちゃん、美嘉さんに美弥ちゃん夢芽も奴らの狼藉にすっかり参っており、警察も真剣に取り組んでくれてはいたが如何せん数の多さから下っ端数人を捕まえる程度が関の山で事態は好転しなかった。
『ふにゅ……』
『あずー大丈夫?』
『えへへ、大丈夫……もう寝るね、おやすみ』
この騒音問題でウチもみんな寝不足であり、特にお姉ちゃんは深刻だった。眠そうにうつらうつらとしていることが多く、後から聞いた話によれば職場の人達からも心配されていたらしい。
『お姉ちゃん大丈夫かな……』
『このままだと本当に倒れちゃいそうだなぁ……』
『それは月姉もだろ。無理しないでくれよ…………なんかあったら泣いてやるからな』
『ははっ、なーにぃそれ…………でもありがと。気をつけるから安心せいっ』
しかし、月姉の心配は的中した。
翌朝起きてきたお姉ちゃんはふらつきながら茶の間に入ってきたかと思うと、そのまま倒れそうになった。間一髪で滑り込むようにお姉ちゃんを抱き止める。
『ごめんね虚空蔵ちゃん、大丈夫だった……?』
辛そうにしながらも申し訳なさそうに謝るお姉ちゃんの顔を見た瞬間、〝バヂン〟と何かが切れるような感覚がしたのを今でも覚えている。
そこからは我ながら早かった。奴らがこの辺りを走る時のルートと出没する時間帯を調べ、暴れても周りへの被害が出来るだけ少なく抑えられる場所を割り出すとそこで奴らを待ち構えた。
斯くして俺の予想は的中し、日付が変わる十分ほど前に奴らが現れた。
『おい邪魔だどけこらぁ!!!』
『何してんだクソガキィ!!殺すぞボケ!!!』
『んだその目、なんか用でもあんのかテメェ!』
『面倒くせぇから半殺しにして捨てちまえばいいべ』
バンデージを巻いた拳を握り、ハイウェイスターに突撃する。
『死ね』
殴り、蹴り、叩き、砕き、潰す。
拳を、足を振るう度にチンピラ共が吹き飛び宙を舞い、近くにいる奴から手当たり次第に蹴散らしていった。端から見れば、さながら無双ゲームのような光景だったろう。
武器を持っている奴らもいたが焼け石に水、バイクで突っ込んでくる奴はラリアットや蹴りで叩き落とし、中にはタイミングを合わせてフロントに蹴りを入れバイクごと吹き飛ばした奴もいた。
所詮は烏合の衆というべきか半分はただのカカシ、もう半分は素人に産毛が生えた程度のレベルであり、正直あまりに弱くて拍子抜けしたくらいだ。
もっとも、夢芽からは『お前は強すぎて判定が当てにならない』と言われたが……
『なんだよっ!なんなんだよこいつッッ!!?』
『がぁっ!!』
『うわぁぁぁ!!』
『ぶげっ』
『ぎっ』
一撃一殺、あっという間に気絶したチンピラで辺りが埋め尽くされ、死屍累々とした光景が広がる。
『………………………………………………』
『ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
逃げようとしたリーダーの男に手に持っていたチンピラを投げ付ける。見事命中し、男は派手に倒れた。
『なんなんだよぉ……なんなんだよお前ぇ……俺達が何したってんだよぉ!!あ゛ぁ!!??』
『その程度テメェで考えろ。お前らみてぇなクズの寄せ集めが何しようが興味なんぞ無ぇけどな、人様に迷惑かけてイキがるならそれ相応の覚悟と責任持てクソが』
吐き捨て、男を殴り飛ばす。男は停まっていた族車をなぎ倒しながら吹き飛んでいった。
全てが終わった後、近隣の人が通報したであろう駆け付けた警察……氷川さんと刃さんに保護されたのだった。
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「その後事情聴取と説教されて、呼び出されたお姉ちゃん二人にも怒られたり心配して泣かれたりして、あっという間に話が広がった結果今に至る……って感じだな。
あの時の広まるスピードは早すぎて正直笑った」
朝になって登校すると案の定校長室に呼び出されて事情を聞かれたのだが、クラスに戻る頃には既に学校中に族潰しの話が広まっていた。
『田舎はネットは遅いが噂が広まるのは早い』とはよく言ったもんだが、あれは早すぎて少し引いた。
「要するに、あの一件は暴走族の迷惑行為に困っていた人達のためだったってことですか?ぶっちゃけボコられて当然というか自業自得ですけど」
「それもある。俺達姉弟も美弥ちゃんも夢芽も、近所の人達とは昔から付き合いがあって地域ぐるみでかわいがってもらってたからな」
泉の問いにそう返し、「でも」と続ける。
「一番は結局、俺の家族に害をなしたからだ。
周りに迷惑かけてるだけのカスが『イカしてる』とか『自分が楽しけりゃいい』とか宣った挙げ句身の程も弁えねぇでいっちょまえの面しやがった。そのせいでお姉ちゃんが倒れそうになった……それだけで俺があいつらを殴るには十分すぎる」
ちなみに、今回の一件は注意や説教こそされたが罪に問われることはなかった。相手がろくでなしのドロップアウト集団だったことに加え、状況があまりに特殊すぎることもあったのだろう。
後で刃さんから聞いた話によれば、警察が手を焼いていた問題を一つ片付けたということやあくまで未成年の喧嘩ということもあって注意と説教に留められ、不問に処されたらしい。
族の連中は三日もしない内に解散宣言をしたのだが、俺に叩きのめされたことで軒並み改心したらしく、中にはお礼を言いに来た親もいた。
「…………ま、ざっとこんなもんか」
「〝こんなもん〟で纏めるには密度が濃すぎると思うんですが」
「でもそういう理由があったんだ、成る程ねぇ」
「小生も初めて聞いたでござるな。ゲーム感覚か暇潰しで潰したヤバい奴、というのはよく聞いたでござるが」
「あぁ、そんなこと言われてたなそういや……魔物じゃねーんだよ俺は」
まぁ言われても仕方ねぇが。
「あれはビックリしたな~~朝起きたらハイウェイスター壊滅しててよ、『あいつらもう二度と現れねぇよ』ってしれっと言われて何事かと思ったぜ」
「夢芽先輩も、知ったタイミングは僕達と同じだったんですか?」
「ほとんど同じだったなぁ。オレも美弥姉ぇもマジでビックリしたぜ、朝起きたら幼馴染みが暴走族潰してんだもん」
「あれはビックリしたなぁ…………全然飲み込めなくて二人で固まってたもんね」
苦笑する美弥ちゃんと夢芽。
「あの…………風間さんの、お話は…………?」
「あ、忘れてた」
「そうだよ伽怜良くんのお話!ど、どうしよう!?」
「大丈夫だよ、とりあえずニュースになってないなら死んでないって多分」
「大雑把~~でもそれしか言いようがないわよねぇ」
「ったくあの馬鹿どこに行ったんだよ…………」
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「カラー、あの人間はどうだ」
「うーんもうちょっとかなぁ?適合は出来そうだよ」
「そうか」
「これでゲームがもっと盛り上がればいいなぁ♪
使える物は利用する、それもまたアートさ」
閲覧ありがとうございました。
来年も本作をよろしくお願いいたします。




