86.親友
「あんな連中に十億も払うなんてどうかしてるわ」
ベザンはタバコをふかす。
「あんな連中だからだ。バレを殺しかねない」
「何で? もしコステットを殺したって、その殺したやつをあんたが殺せば、魔王になれるんじゃないの?」
「いいや。それはオレが流した嘘の噂だ。こう、魔王になりたいやつが多いとな」
ベザンは腑に落ちない様子で煙を吐き出した。
「ふーん。そういうこと。つまりあんたは、あんた以外のやつが魔王になれないように手を打ってる訳? ずるい男ね。だけど、コステットを殺さないで魔王になれるの?」
「いつか殺すさ。時期が来たらな」
城のバルコニーから身を乗り出したジークは空に吼える。
「バレ。もっと苦しめ!」
ベザンは呆れ顔で現実を告げる。
「コウモリの連絡が来ない。捕まえるにしても時間がかかりすぎよ」
部屋の隅でタバコを吸うベザンをよそに、ジークはときどきニヤニヤする。利益にならないときに多いくせだ。
「そうだな。でも、だいぶあいつも参ってる」
「でも捕まってないでしょ。いい加減にしたら? そういうゲーム癖」
ベランダの手すりに腰掛けたジークが笑い声をもらした。
「楽しめればいいんだよ。上手く逃げてるぜ。あいつ」
「何でそんなこと分かんの?」
「透視能力だ。それよりベザンはゲームに参加しないのか?」
「どうでもいいわ。あんたは早く捕まえて来なさい」興味のないベザンは厳しく言った。
「お前が捕まえて来い」
ベザンが眉を吊り上げたのでジークはつけ足した。
「お前が捕まえてくれたら、他の奴らに賞金をやらなくて済むだろ?」
タバコがジークの頬をかすめ飛んだ。
「最初から私にやらせるつもりだったのね。どうせ賞金も用意してないんでしょ」
ジークは口元を吊り上げる。
「やっぱりね。いいわ。私がすぐに、こんなつまらないゲーム終わらせてあげる。コステットはどこにいるの? 視えるんでしょ?」
光のない天井を見上げたジークは考えている。
「そうだな。いい方法がある」
「誰もあんたのやり方なんて聞いてない。私のやり方でやらせてもらうわ」
「手っ取り早くてもか?」
ベザンは顔を赤らめる。
「分かったわよ。で、その方法は何なの!」
「誘き出せばいい」
簡単に言わないで、とベザンは笑い飛ばした。
「どうやって? あいつ見た感じ弱そうだけど、頭は悪くなさそうよ」
自信が感じられる笑み。訝しがったベザンにジークは指で示す。指先は部屋の奥。
「確実にあいつを引きずり出せる。そいつを使え」
小さい人影がある。城内は常に暗くて、遠いと顔が判別できない。青白い雷が少年の顔を照らした。金髪の髪が照り返し、死んだような暗さのある青い瞳があった。
「こいつは誰よ?」
「あいつの親友だ」




