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57.オルザドーク登場

 誰かの手。肩の傷に触れる。痛い、やめろ。しかしなでられると、痛みが消えた。傷が消えた。治った? 驚いて手を振り払って逃れた。だが体に残る傷口が血をしぼり、思わずうめいた。

 「じっとしてろ」


 手で触れた場所が魔法で治っていく。傷を全て治してくれたのは二十代後半の男だった。服装はだらしないランニングシャツにだぶだぶのズボン。しかも大きなあくびをしている。髪が変わった色で、緑青の短髪。だから悪魔かと思った。


 「何だよ。あいつなら死んでないぞ」親指で男は後ろを指す。その先にはレイドがいた。上向きで眠っているように見える。よく見るとあれだけの傷跡がなくなっている。


 「あなたは一体」と聞きかけたが、すぐにまずいと思って後ずさった。以前にも増して自分がコントロールできない状態なのに、人と接するのは危険だ。命の恩人をいつ殺してしまうか分からない。いや、命など助けてもらう必要もなかったのだ。


 そうすれば、いまいましい自分、恐ろしい自分、グッデを殺してしまった自分ともおさらばできたのだ。こうなった以上長居はできない。すぐにこの塔から飛び降りるかしてしまおう。


 「おい待て悪魔」

 直球を食らった。この人は誰なんだ? 見抜かれている。

 「悪い。悪魔にされたんだったな」男は頭をぼさぼさにしてかいている。


 「まあ逃げてもいい。俺が助けに来たのはこいつだからな」と言って男はレイドをかつぐ。

 「誰なんですか?」

 「面倒臭いな」


 男はやれやれといった様子で答えた。


 「シャナンス・ジルドラード・オルザドーク。魔術師が仕事で、こいつの伯父に当たる」


 四大政師のチャスが言っていた、大魔術師ではないか。しかも、レイドの伯父さんらしい。それにしては若いと感じる。


 もっと大魔術師っていうのは高齢で、しかももっとこう、だらしないわけがない。威厳や尊厳というものを欠いていて、かつやる気のなさが顔からも滲み出ている。


 「こいつの手当は済んだ。その辺の宿に置いていく。起きたらうるさいだろうからな。お前も顔を合わせる気分じゃないだろう。どうする? 俺を探してたんだろ?」


 「何でそのことを?」

 名前の長い魔術師オルザドークはレイドをかついだまま階段を降りはじめた。

 「ついて来るのか? どうなんだ?」


 一瞬ためらったが、黙ってついていった。悪夢から覚めたような感覚だ。だけどこんなだらしない人が魔術師で、どこまで信用できるんだろうか? いや、信じていいのだろうか? 期待していいのだろうか? 心配なくせに期待は膨らむばかりだった。


 さっきジークに潰されたはずの心臓が早鐘を打っているのが分かる。そう、自分は願っている。今まで起きたこと、取り返しのつかないこと、グッデを殺してしまったこと、全てを元に戻してくれとさえ願った。


 魔術師は塔を降りても行き先も告げず、あれから一言も話さない。どこか近くの村に着いて、レイドだけを置いて行った。少々後味が悪いがこうするしかできない。目が覚めたときに顔を会わせることが恐ろしくてたまらない。


 それにしても、身内である魔術師の方はレイドに顔を見せないのだろうか? 気を使ってくれているのかと考えたが、そうは思えない。とにかく面倒臭そうなのだ。歩くのでさえ力が抜けているふうに見える。


 村を出てから魔術師と夜空も見えないほど深い森に入った。危険な予感のする森。暗いし、湿った感じがする。しかし見覚えがあるような気もする。今まで行ったことのあるどんな場所とも、似ても似つかないのに。


 「どこに連れていくんですか?」

 「お前も知ってる場所だ。この森は姿を変える」

 森の奥から灯りが見えたとき、その言葉の意味が理解できた。

 「あれは、チャスフィンスキーの家?」


 「あいつが俺を探しててな。要姫に頼んで俺をこっちによこした。お前をしばらく面倒みてやる」

 家の玄関から名前を呼ばれた。懐かしくさえ感じるチャスフィンスキーだ。なぜか目元が涙ぐんでくる。出て来たチャスが第一声に困っている。チャスは僕の心を読み取ったのだろう。何が起きたのかも。


「あの、魔術師さん」

「オルザドークだ。チャスは俺をシャナンスと呼ぶが、ファーストネームは好みじゃないと、チャスに伝えとけ」


「やっぱり僕、ここにはいられません」

 魔術師オルザドークはそうか、と短く言った。


「だが薬は作ってやれる。お前を人間には戻せないが、ある程度自分を制御することができる薬だ」


 不治の病でも告げられたような感覚が肌をぬめるように包み込んだ。たとえ今まで起こしたような行動は抑えることができても、グッデがいないという事実は変わらない。

「もう少し考えさせて下さい」


 今はそれしか言えない。

 「待ってくれよバレ。俺、グッデをおまえがやったなんて信じられない」


 チャスがそう言ってくれると、今にも泣き出しそうになる。

「きっと、グッデもおまえに何か異変を感じてたはずだ。だから、お前だけに責任があるんじゃない。グッデも、きっとお前のことを信じてるはずだ」


 グッデの肉声が聞こえるようだ。死ぬ間際まで、信じて何も疑わない。だから、いけないんだ! どうして、もっと早く、離れなかった。僕達は二人でいることが間違ってたんだ。僕は罪を犯した。まんまと策略にもはまった。自分が悪い。


 挙げていくと、きりがない。初めから兆しはあったのだ。どこかで歯車が狂った。どこかで戻せたかもしれないけれど、僕は何もできなかった。

 誰もが重い空気を吸っていた。しかしオルザドークは違った。


 「薬ができるまでこの家にいるのか? ここにいたくないなら、はっきり言って邪魔だ」


 「おいシャナンスそんな言い方はやめろよ」チャスがすぐさま割って入ってきたが、確かにオルザドークの言う通りかもしれない。無言で立ち去ることにした。今度は誰も止めなかった。


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