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54.処刑台

 僕は返答することもなく、コンパスを手に取っていた。指針が北に振れている。この先にいるのだ。白い髪の悪魔が。僕を悪魔にした張本人がいる。

 バロピエロは黙って見ていたが、突然去ろうとする。


 「それでは私はこれで」

 「待て」


 まだ聞きたいことがたくさんある。しかし、みるみるうちに、バロピエロの体が透けていった。最後に微笑みを返してきたときには、霧のように消えてしまった。だが、驚きよりも、逃げられたとの思いが強かった。


 しばらく手に残るコンパスを見つめていた。ジークという悪魔に直接真相を聞くことを考えた。それは、まだ自分が悪魔ではないと、否定したかったからだ。気づくと、さっき伸びていた爪は元の爪になっていた。


 バロピエロは嘘つきだとも考えた。そう何度も疑っては、自分の服についたグッデの血のしみを見て重く何かがのしかかる。


 悪魔という言葉が何度も頭の中で回転していく。どこまでも否定しようとする自分が、やっきになっていく。


 悪魔の待ち構える場所だろうが、悪魔に殺されようが、どうだっていい。グッデを殺してしまった自分などどうなろうと構わないのだ。


 北。そこには、誰もいない廃墟と化した町があった。崩れた建物。たくさんのものを失ったような、もの寂しい空間が散乱していると、胸の奥から言い表せない悲しみが込み上げてくる。


 割れた窓ガラス。壁の大きな穴。原形をとどめていない家の屋根。しかしある意味よかった。誰もいないと、誰かを切り裂いたりする心配がない。


 町の中央には塔があった。ひときわ大きく、大した損傷もない唯一の場所。きっとあそこにいる。ジークがいる。


 入り口は一つで、そこから特にためらいもなく階段を上りはじめた。まるで、死刑台に上がるような気分だ。


 事実、死にに行くようなものだ。あのキースという悪魔の攻撃は死なないはずという考えを一変してしまった。悪魔同士は殺せるのかもしれない。


 階段の終わりが見えた。しかし、人の気配はない。別に悪魔ならいてもいなくてもいい。真っ暗な中じっと立っていると、横を何か大きなものが通った。


 これには驚いた。バサバサバサという大きな音と風。コウモリだった。だが普通のコウモリと明らかに大きさが違う。


 尾が長く白く大きな耳。うさぎなみに長い。体格はワシぐらいだろう。そのコウモリが大きく旋回して、割れて窓ガラスのない大きな壁の上に飛んでいった。そこで、何かに止まる。よく、見るとそこに何者かが座っていた。

 「いい子だ。ディグズリー」


 黒の服。ドクロだの鎖だののアクセサリーでいっぱいだ。首にチョーカー。耳にピアス。黒い革の上着を着てその肩に白いコウモリがいる。そのコウモリと同じぐらい真っ白な肩までかかる長い髪の少年。少年はコウモリに何かエサのようなものをあげている。どこか血なまぐさい。


 「おまえがジーク」


 ジークは僕を見下ろした。

 「よく来たな。コステット」


 ジークがニヤリと笑う。その黒い瞳はまるで獣のようだった。

 「僕はコステットじゃない」

 言い返すとジークは意外とすんなり納得した。


 「バレだったか? そっちで呼んだ方がいいのか?」しかし慣れなれしいのが気にさわる。第一、名乗った覚えはない。


 髪を指に巻きつけたりほどいたりしながら、ジークは唇の端をなめて笑った。


 「悪魔が珍しいか? コステットの意味も分かっただろ? 悪魔の子だ」


 無意識のうちにジークの黒い爪に見入っていた。



 「お前と同じさぁ。血の色以外」



 「僕は」

 違うと言いかけて口をつぐんだ。どこにも否定できる根拠がない。そう思いたくないだけだ。

 「言い返せないか? 敗北ってのは辛いな」


 「まだ負けてない」腹が立ってそう言った。しかし丸腰でここに来てしまっては話にならないだろう。分かっていたのでこちらから話を変えた。


 「何で僕を悪魔にした」


 いざ口にしてみると怒りを感じた。この白い髪の悪魔が憎らしい。それに対し返ってきたのは優しさまで感じられるような声と、含ませ笑いだった。

 「さぁ。何でだろうな?」


 「何が望みだ?」

 最初から見下ろしていたジークだったが、何かとても小さなものでも見るように身をかがめていき、笑みだけがつり上がっていく。さすがにこの質問は間違いだったか?




 「お前の息の根を止めること。って言ったら?」



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