51.次期魔王候補ディス
どこにも行きようのない思いが、怒りとなって溢れ出した。
「ふふふ。相変わらずですね。ディスとは似つきもしませんね」
「ディスって、誰なんだ? この前もジークがどうのこうのって」
分からないことばかりで、いらいらする。
「ディスは君の中にいますよ」
平然と語るので、こっちのペースが崩れた。顔の驚きを隠しきれていないようだ。バロピエロが僕の顔を見て笑い声を立てた。
「そもそもなぜ君が、悪魔に狙われるようになったのか、考えたことはありませんか? そう、全てはあの日から始まりました。白い髪の彼、悪魔ジークはあの日を、ゲームのスタートと呼びますが、あのときジークは君に、ある人物の魂を入れました」
言葉をつらつらと連ねられ、まして魂なんて、存在するかも分からないものにまで話が及ぶ。しかし全部が否定できないと、ここ数日のできごとで分かっている。あの日、体に入れられた光が魂なのか?
「それが、ディス?」
こちらが軽蔑の眼差しで見ても、バロピエロは微笑むだけだ。
「そう、それが君の中に眠る悪魔の名です。彼は特別、ほかの悪魔と違うところがありました。赤い血というのもその一つですが、何だと思いますか?」
聞かれたところで答えられるわけがない。首を振るとさらに驚く答えが来た。
「彼は次期魔王になる人物だったんですよ」
話が大きすぎる。自分はやっかいなことになっている。
「だったってことは、今は違うってこと?」
「一つ問題があったんですよ。魔王は代々、引き継ぐという魔王の掟があるんです。しかしそれが、どうにも都合が悪くなったんですね。彼は赤い血、レッズでした。魔王の血筋から赤い血が出るということは前代未門です。
魔界では赤い血はさげすむべき人間の血とみなされますから、先代魔王のエレムスク・ジ・イズネルも頭を悩ませたことでしょう。でも、心配はいりませんでした。ディスには弟ができましたから。もう誰だかお分かりでしょう?」
ここまでの話からして、そいつは。
「ジーク」
「魔王になれば、ジーク・ジ・イズネルになりますけどね」と、ここでまたバロピエロはにっこり微笑む。
「つまり、魔王の権限はまだ、君にあるということですよ」
そんな理不尽な話があるか! ジークとは面識もなかったし、まして魔王になろうとも自分は考えていない。地位を争う者同士のいざこざならともかく、自分は全くの赤の他人だ。
「僕は関係ないじゃないか! だいたいジークって悪魔もおかしい。何で自分の兄の魂を、僕に入れるんだ? そんなことして、何のゲームになる?」
バロピエロもそこだけは軽く首を振った。
「さあ、そこまでは私にも分かりかねます。ただ、言えることは、君は悪魔に魅入られた人間ということです」
腹から熱がこもってくる。あの火事の日、父さんと母さんが死んだ日のように、この男とジークが憎い。どうして、こんな目に逢わなければならない? どうして僕が悪魔なんかに好かれなくちゃならない!
「じゃあ、僕はおまえらに悪魔にされたんだな?」
「私は依頼を受けただけですよ」




