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04.掟

『水の法』

「第七十八条」人は北門から外に出てはならない。一人でもこの掟を破れば、町は滅びるでしょう。もし、これを犯した者が現れたなら、すぐに成敗します。



 意味深長に、こう話してくれたのは、グッデのおじいさんだ。黒い上着に派手な赤いネクタイといった出で立ちはいつまでも若さを感じさせる。実際そのとおり若い思考の持ち主だ。

「というわけで二人とも、北門から行こうなんて考えるんじゃないぞ」


 しかし、そう注意する割に、残念そうだ。

「じいちゃんは冒険好きだから、聞き流そうぜ」


 別れの挨拶なのに、昼間から賑やかな演奏会が開かれている。大広間に集められたのはあの有名なモーツアルト先生や、オーケストラ数百人。おじいさんは、とても嬉しそうだった。音楽に感動しているのではない。あの、モーツアルト先生が来ているのに、それでいいのか。


「君も冒険がしたいのか。そうかそうか」

「いや別にそういうわけじゃないんですけど」


 内心ほっとした。旅に出る理由を聞かれたら、また自分の手を切るはめになるからだ。本当のところ、グッデに見せるときも怖かった。もしかしたらグッデに嫌われるかもしれないと思ったからだ。頑固として、ついて来ると言ってもらえたときは嬉しかった。


「でも何で北門から出たらいけないんだ?」

 おじいさんは、当然のことのように言った。

「封鎖されておるじゃろう? 開かずの扉じゃからのう」


「何だよそれ。理由になってねぇじゃん」と、グッデが文句をつける。僕もこれまでに、何度か掟を耳にしているが、何故出られないのか、詳しいことは知らない。そこから出るなと言われると、出てみたくなるものだ。


 おじいさんは、まあまあとグッデをなだめている。

「掟は掟じゃよ。そりゃあ、わしかて、若い頃は手に負えん暴れん坊じゃったから、悪戯半分で、見に行ったことがある。じゃがな、見つからんのじゃ。その北門とやらが。藪の中にあるから、長い年月の間に木々に覆われてしもうたのかもしれん」


 グッデは抗議する。一度好奇心に狩られると、歯止めがかからないのは僕とそっくりだ。


 「あるのかないのか分からないものに近づくなってのがおかしいだろ? あるから言ってるんだろ?」


 おじいさんは言葉を濁す。額のしわが深くなる。

 「この掟はそんじょそこらの町の掟じゃないから注意しとるんじゃ。掟を破った場合、たいていは警官が罰する。だが例外もあるんじゃ。そもそもこの掟は、水、月夜の(かなめ)姫という偉い方が作ったのじゃ」


 一体どういう偉い人なのだろうか。町長より偉い人が来るのか。

 おじいさんは、手招きをしてもっと近くに来るようささやいた。側に行くと、肩に手を回してひそひそと話した。


 「要姫というのは、四大政(よんだいせい)()なんじゃ」

 二人とも初めて聞く言葉だ。

 「それって何ですか?」


 おじいさんは、わずかに険しい表情をした。

 「四人の偉大な政治家だと聞いたことがある。だが、それは昔の話じゃ。人々を助ける役目だったらしい。町をまとめたり、国王にアドバイスをしたり、自分で国を治めた人もいたそうじゃ。


 じゃが、四大政師は世界最強の者と考え、町を支配したり国を滅ぼしたりするようになっと言われておる。要姫はそういう悪い人じゃないそうじゃが、ただ」おじいさんも一際難しい顔になる。口をつぐんでしまった。


 「ただ?」

 僕が促すと、おじいさんは一呼吸入れてこう言った。

 「要姫は魔法を使う」


 意外な一言だった。真顔で言われたのでどう反応すればいいのか分からない。一方グッデはというと、笑い転げている。少し顔を赤らめて黙ってしまったおじいさん。グッデの笑い声がやたら耳を突いた。


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