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39.血の味

 二日後、グッデとレイドは病院を退院した。レイドは撃たれた肩が、治ってないのに、無理に退院した。頭も殴られていて包帯は巻いたままだ。病院側は引き止めようとしたが、言うことを聞かなかったらしい。


 グッデは、足を何針も縫う大けがだったが、こちらも、レイドに負けじと退院を希望した。だから、レイドと一緒に病院を出ることになり、相変わらずグッデはレイドの悪口ばかり愚痴る。やはり、レイドは全く応じない。でも珍しく、町を出るとき、レイドの方から話しかけてきた。

 「盗賊、お前が倒したのか?」


 僕が返事をするより早くグッデが身振り手振りで説明する。全く大げさだ。

 「すごいんだぜ! こうやって背負い投げしたんだ!」


 「こいつ無敵だからさ。斬られても、刺されても、無傷なんだぜ」

 グッデが自慢げに言うので困った。

 「言わないでよ」


 案の定、レイドが眉根を寄せて睨みつけてくる。

 「そうなのか?」


 答えに困る。最初会ったときはあんなにレイドに死なない原因を聞きたかったのに、今はもう聞く気になれないし、不死身だと知ってもらいたくもない。そのまま黙り続けていると、レイドがいつものようにそっけなく言ったのでよかった。

 「行くのか?」


 「レイドはコステットを探しに行くの?」

 「ああ。またな」


 木枯らしの吹き始めた並木道を、レイドは一人去っていく。

 「あいつに聞かないのか?」


 グッデには自分がコステットだとまだ告げていない。

 「もういいんだ」

 不安げな顔をして、グッデが顔を覗き込んでくる。

 「昨日も一昨日も寝てないよな?」


 眠れない。眠りたくない。眠るのが怖い。などは言わなかった。小さい子供じゃないんだから、夢で寝つけないとかかっこ悪くて言えない。

 「ちょっと疲れてた」


 「ほんとだ。顔色悪いなって、バレ。おまえのその手には乗らねぇぞ」グッデにわきを小突かれた。


 「世話がやけるぜ。どうした? 透明人間に何飲まされたんだ? 医者は何も死ぬようなもんは飲んでないって言ってただろ? それを心配してるのか?」

 グッデの言うことは一部当たっている。


 「違うよ」

 あの味だ。血の味をすばらしいと感じた自分が怖い。それにもう一つある。

 「じゃあ何だよ」グッデはよく分からないという顔をした。


 「だんだん変になってる。今まで不安だったんだ。自分が一体何なのか分からなくて。それにいつか、自分が自分じゃなくなっていくような気がするんだ」

 「どういうふうにだ?」


 「昨日、盗賊に斬られた時、血が出ただろ。でも、治る早さが早くなってるんだ」

 「それいいことじゃねぇのか?」

 「よくないよ。痛みも感じなかったんだ。これでもいいって言える?」

 グッデが複雑な顔をして言葉が見つからないようだ。


 「こんなの嫌だよ。自分が気味悪いし、盗賊の透明人間にけだもの呼ばわりされるし」

 その時グッデが背中をぼんと叩いた。

 「大丈夫だって。おれがついてる」


 グッデがいた。そうだグッデがいる。グッデがいてくれたら、旅はどこまでも続けられる。そう思った。ずっといっしょなのだ。大丈夫だ。

 「うん」


 グッデがいっしょにいてくれる。そう信じた。でも、このときにはまだ自分の中で、何が起きようとしているのか知らなかった。


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