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24.樹海

「大丈夫か」


 側で支えてくれたグッデを太い幹が弾き飛ばす。自分なら何ともないのだ。もっとグッデの心配をすべきだった。傷はすぐに塞がり始める。だが、太い幹が立ち塞がった。這ってでも逃げようとすると、同じ方向へついて来る。空を覆う無数の葉も迫ってくる。空が低くなったように感じられる。壁際に追い詰められた。


 足が思うように動かない。床を這ったつるが、傷口に触れた。足の上を這って血をまさぐり散らすのは、獰猛なヒルといったところか。傷が塞がるにつれて、つるは残念そうに離れる。木はただ獰猛なわけではなさそうだ。


 「走って」

 「え? バレは?」

 「今、隙を作る」


 確か果物ナイフをかばんに入れていた。こんなところで使うことになるとは。失敗すれば命はない。だが、全員やられるよりは、ましだ。グッデには立派な音楽家になってもらいたい。僕の家は貧しくて、そんなのはいつだって夢に戻る。


 刃先の鋭さは何度見ても恐ろしい。腕に立てるとき鳥肌が立つ。少し食い込ますと、血が滲み出てきた。滴り出した血に木々の枝は擦れあって騒ぐ。歓声や、拍手が聞こえそうだ。


 だが、この程度ではすぐに血が止まってしまう。反対の腕も切る。飛び散った血に反応して、バルコニーを囲む樹海が開ける。これでグッデだけでも逃げられる。


 「何やってんだよ! いっしょに逃げろ!」

 聞き分けのないグッデが走ってくる。だが途中、鋭いとげに阻まれた。引きつけるにはまだ十分ではないのか。これ以上傷をつける自信はない。もし、血が止まらなかったら? いや、そんな考えはよそう。自信を持って試すのだ。自分は不死身だと。


 「ごめんグッデ」

 一思いに腹を刺した。痺れたような感覚、後に脈打つ血が、激痛を運んでくる。足がすくむ。吸う息が凍りつきそうな程苦しいのに、木々はなかなか関心を示さない。

 「バレやめろ!」


 悲痛なまでのグッデの叫びが聞こえる。頼む一気にやらせてくれ。腸を自分で噛み切るぐらいに苦しいのだ。傷口を広げるべく血の花を再び咲かすと、木々が、幹が、葉が、緑の空が、巻きつき覆いかぶさり、落ちてきた。何も見えなくなる瞬間、巻き添えになった斧の男の懇願の叫びと、夜空の星が垣間見えた。


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