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101.一人ずつ

 通路には赤いじゅうたんが敷かれている。壁には使われて間もないロウソクが赤々と灯っている。まるで、歓迎されているかのようだ。ハズレを引かなかった者だけの道。


 それを雰囲気で感じられる。本来ならチャスもこの場にいるはずだ。ハズレさえなければ、と幻想にすがりつく。ずっと一緒にジークの所に行って、闘ってくれると思い込んでいた。甘かった。


 甘すぎたんだ、考えが。思わず笑いがこぼれる。別に面白いわけじゃない。自分がバカみたいなんだ。


 「まだ考えてるのか? ジークを倒すんだろ」


 足を止めて、オルザドークに聞きたいことがある。


 「悔しくないんですか。あんな奴らにチャスを奪われて」


 さっきあんなに取り乱していた人が、どうして平静さを取り戻せるのか。納得いかないのは同じではないのか?


 「行かないなら帰るんだな」

 突き放すような言い方しかできないのか、この人は。

 「あなただってそうじゃないんですか?」


 立ち止まると、後ろを向いたまま答えた。

 「たとえ納得がいかなくても、いちいち動揺していたら、悪魔の思う壺だ」


 オルザドークは正しいし、返す言葉もない。それよりも、見間違いかもしれないがオルザドークの顔が悲しそうに見えたので言葉に詰まった。


 一分も経たず、広い庭に出た。血を盛ったような夜の赤い月が、黒い噴水を毒々しく見せる以外、視界は開けている。建物と建物の間にある中庭のようだ。やっと城の最上階が見えた。


 ということは、ここはもう雲の上なのだろうか? 建物の構造が違うのかもしれない。雲は見せかけなのかも。高く見えるだけで、ジークのいる場所は遠くないのかもしれない。


 灰色で統一されている味気ない庭を警戒しながら歩く。もう誰も失いたくない。オルザドークが躊躇(ちゅうちょ)なく歩む姿はもう見慣れたが、自分は一歩出遅れる。かっこ悪い。ジークを倒すと決めたのに先頭を立って行けない。あいつの顔を思い出すと憎いのに。





 「待ってたよお前ら」


 男の声が降ってきた。眩しいライトにさらされた。目を細めて城壁を見上げると、人影が見えた。長い髪をなびかせて男が飛び降りた。ポニーテールの金髪の悪魔はキースだ。


 オルザドークが前に出る。脇に挟んだ杖を、いつでも振りかざせる構えを取る。


 「悪魔みたいな男だね。戦う前から殺意むき出しだなんて」


 オルザドークはキースの暴言にも動じず、逆になじる。

 「用件を言えばどうだ。ジークは当たりを引いた奴を通してくれないのか?」


 そう言われたキースはいてもたってもいられない様子で笑い出す。





 「ジョーカーを引いたのは?」



 やはりジョーカーもハズレなのか? ハズレが何枚もあるとは言っていなかった。


 「俺だ」


 オルザドークが嘘をついた。身代わりにでもなるつもりなのか! しかし、キースはにんまりと笑って近づいてくる。



 「嘘だね。ジョーカーはちゃんとコステットに引かせろって、ジークがうるさいから。バロピエロが細工して引かせたはずだけど?」

 火がつけられた勢いで頭にきた。


 「細工をしたのか!」


 キースは鼻歌を歌い出した。それも知らなくて残念だね。というように。最初から仕組まれていたのかと思うと、バロピエロだけでなく、キースの態度にも胃がむかむかしてきた。


 「いいカードだよ、ジョーカーは。ジョーカーを引いた者しか城にはたどりつけない。逆に、俺は手を出せない」


 キースは指を鳴らす。今まで噴水以外に何もなかった庭に、生き物が無数に現われた。白いペンキで塗りたくったような肌の人間。でも、目と耳と髪がなく、服も着ていない、人形のような身体。それが赤い舌を出しながら近づいてくる。囲まれた。


 「ジークはコステットの周りにいる奴らを、一人ずつ引き剥がしていく気だよ。お前一人で来いってこと」


 肩を震わせて笑う様を見せつけられると、ジーク本人に言われたような感覚がして、胸が締めつけられる。


 「しっかりしろ。お前だけで行かせはしない」


 意外なオルザドークを見た。頭に降りてきた暖かい手が、髪を優しく押さえつける。不思議と恥ずかしいものでもなく、特別嬉しいわけでもない。どこか懐かしく、優しくなれる気がした。



 「そんなに離れたくないんだ。そういうの見ると、余計に引き裂くのが楽しいんだよね」



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