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99.悪魔の手下

 二十数年前だ。まだ子供の頃に、キツネの母がいなくなった。タヌキである父からたくさんの魔術を教わった。これから恐ろしいことになるかもしれないと父は言っていた。


 母は魔術に惚れ込み、悪魔にも魔術を教わっているようだと父は見抜いていた。化けキツネの掟では許されないことだ。そんなある日、巣穴に母が戻っていた。別の子供を抱えて、ミルクをやっている。父は激怒した。


 悲劇が起きたのはその時だった。その子供はキツネでもタヌキでもない。竜との間に作った子供だった。それも悪魔に仲介してもらっての結婚。「これで人間に怯えることなく生活できる!」と母が狂った。今まで共存しようと言っていたではないか。人には優しくと。



 父が母に噛みついた。喧嘩もしたことがなかったのに。運悪く首を噛んだので、母は死んでしまった。弟が泣きだした。しかしそれは、唸り声にしか聞こえない。


 口を大きく開け、トカゲのような舌を覗かせる。と思ったら、一瞬にして父の頭がその口に飲み込まれた。



 弟はおしゃぶりと勘違いしていると思った。父の首から血が噴射されても、吸いついている。や、やめてくれよ。


 それだけが言いたかった。でも言えなかった。弟は父の頭をもぎ取り、ごみを扱うように吐き捨てた。「ロディリーホフ、お止め。やめなさいロディ!」と、まだ息のあった母が苦しそうに叱りつけると、ロディは耳を垂れてすまなさそうな顔をしながら笑った。



 竜の尻尾を振りながら走り去っていく。あれが弟との出会いで、別れだ。


 「悪魔の手下になっていたのか」



 怒りはない。悲しみが満ちるだけだ。弟の誕生そのものが悲しい結末だった。こんな悲劇などない。あれから弟がいたことは、なかったこととして考えなければ生きていけなかった。


 人間のために魔術を使い、人々を救い、魔術のあるべき姿を模索することで、母を理解しようとした。


 まだ答えは出ていないけれど、それを続けるため四大政師という地位にもついた。まさかこんな形で、弟と再会することになるとは。


 「その言い方嫌いだな。僕は母さんのせいで悪魔に一生使えないといけないんだ。悪魔に仲介を頼んだりしたから」


 母が脳裏をよぎった。決して悪い母ではなかったと思うのだ。魔術に深入りしすぎただけなのだ。


 「何てこと言うんだ! 母さんはお前を産んだんだぞ。母さんを恨んだこともあるけど、お前までそんなこと言ったら、浮かばれないだろ!」


 ロディが声を荒げて笑う。ただ笑っているのだろうが、ここまで声が大きいと壁にひびでも入りそうだ。


 「文句があるなら戦ったらどうなのお兄さん? メアリが戦う気だよ」


 人形のことをすっかり忘れていた。これだけ大きいと小さな人形などロディオに隠れてしまう。


 後ろから殺気。振り返る。手にナイフ。目を突かれそうになる。瞬時に後ろに飛びのく。


 「遅いよ、お兄さん」


 ほとんど身動きせず、ロディの巨大な手が振り下ろされる。この空間にちょうどはまる大きさだから動く必要がないのだ。


 またジャンプでかわす。それでも風圧で押された。床に爆発音かと思わせる轟音(ごうおん)が響き、穴が開き、破片が飛び散る。


 「悪魔から解放してやる」


 「そんなのできないよ。こんな化け物でキツネになれって言うの? それとも僕に勝つつもり? ねぇお兄さん、いいから黙って死んでよ!」


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