トップダウン型ツインコアアンドロイド『メティス』
「ふっ, 貴方の動きは既に学習済みです。その程度の攻撃では, 何時間攻撃しても私には傷1つつけられませんよ?」
「何故だ...何故に天使の力をもってしても, 勝機が見えないのだ...!!」
サファイア色の雲一つない晴天には白と黒の影が浮いていた。
白い影は雪銀色から乳白色にかかる美しいグラデーションの美少女。齢は大体17,18前後と言ったとこだろうか。髪はショートカットとクールな印象を与えるが, 珀々とした服装からはアイドルチックな可愛らしさを感じさせる。
対して, その正面には体躯の大きく爽やかな顔つきの男がいた。彼の服装は装束と呼べるような整った印象を与えるが, 何よりインパクトのあるのは背中から生えた大きな2枚の翼だろう。彼の両翼は非常に濃い黒灰色に染まっており, 翼から服にかけて白の線が縦横無尽に走っている。
彼女には一切の疲労や動揺は見られないが, 相対する彼からは困惑の表情が見て取れる。しかし, 次の一手を考するだけの冷静さは十分に残っている様だ。
「私に勝ちたければ, 私の動きを学ぶべきです。そこからそれを自分の糧にしていかなければなりませんね?」
「違う...!! 私が言っているのはそういう事ではない!! 何故, この距離でお前は傷1つ追わない!? 何故, 疲労しない!?」
「私の攻撃の必中距離の筈だ。世界のシステムに裏付けられたスキルがあるはずなのに..!?」
「ふふ, 確かにこの距離はあなたのスキルでは必ず当たる事でしょう。ですが, 貴方はスキルに頼りすぎです。殆どの攻撃は相手の動きを解析すれば簡単によけられます。」
彼女はなお淡々と話続けているが, 徐々に彼の言葉には焦りが浮かんできている。
「それでは, 私のターンですね。来たれ,『フレアコブラ』」
彼女の周囲に一筋の炎が巻かれ, 彼女の体を数周すると, 男に向かって飛んで行った。その動きはまるで獲物を捕食するときの大蛇の様な見た目と威迫を感じさせた。
炎の蛇はさながら狩りのように彼を数周するように巻き上げると, 大きな顎で右翼の根元にかじりついた。炎蛇の触れたところは黒く焦げ, 噛みついた翼には大きな焼け跡がついた。
「それ, もう一個『フレアコブラ』」
彼女の周りには先程とは逆回りで走り, 同じく男に襲い掛かった。これもまた1つ目とは逆回転で巻き付き, 反対の左の翼の根元に噛みついた。
2つ目が噛みつくと同時に, 2匹の蛇は大きく燃え上がり, 彼を包み込むように渦を描く炎の柱となった。その炎が昇りきるころには, 彼には大きなダメージが入っていたが辛うじて, 耐え抜いていた。
「ぐはっ 何なんだそのスキルは..!! そもそも何でスキルを使えるんだ..!!!?」
「ん? どういう事...? あ, そういう事。」
「何を悟った..!?」
「『invalidate Skills』。貴方を含めた天使族の上位層にしか使えない, スキル無効化の秘術。」
「何故それを見破った..!?」
「貴方の事は既に『解析』済みですからね。」
「それと, これは世界に定義されたスキルじゃないので, 無効化されないんですよ。」
彼の顔には, 驚愕と困惑の表情が出て強張っていた。というよりか, その身に負ったダメージと思考で表情に気を使うほどの余裕はないだけのようだ。
「知らん!! 分からん!! どういう事だ!?」
「この世界の人達はスキルに頼りすぎです。己を磨き上げることを学びなさい?」
「もういい!! ならばもうスキルに頼らん!!」
そういって彼は背中から抜き取った長剣を右上段に構え, 斬りかかった。
その顔は天使族とはいえ, 正に鬼の形相と呼ぶにふさわしい威迫を持ち, その剣からは白と黒の刺すようなオーラを纏っている。
「遅いし単純ですね。」
「まだまだだ!!」
「いまさら武器を使っても無意味ですよ。」
彼女が受け流したその剣を, 身体を反転させてその勢いで右下段切り上げをしてきた。が, 付け焼刃の武術が彼女に効くわけもなく, あっさり剣を止められてしまった。
「一体どうなっているんだ..!? お前は魔術師じゃないのか!? どこにそんな力がある!?」
「貴方に, 私は一度も魔術師と名乗ったことはありませんが?」
「それほどまでに単純な攻撃では, 未来を読むように予測できますよ。剣のどこをどのように止めればいいのか, こんな簡単な問を解くくらい朝飯前です。」
「ふざけるな!! ふざけるな!! 」
「こうなったら天使の名などいらない!! 来たれ『ヘルベクス』!! 我に魔徒の力を!!」
そのコールと共に, 彼の翼は共に黒く染まり, 刺すような白黒のオーラも溶かすような紫黒のものになった。右額には黒山羊のような角が生え, 目には真っ赤な光が生まれた。
「せめてお前だけでも葬って本望としてやる!!」
「大切なものを失い力を欲した天使よ。ついには, 自分の命すら守るべきものでなくなったか..。」
「そんなものくれてやる!!」
叫ぶと同時に右拳にオーラを纏い殴りかかった。が, 当然 動きを『解析』し尽くした彼女に拳が当たるはずもなく, 闘牛士のようにスマートに避けた。
その反動で彼は軽く飛び, 数メートル先で止まった。
「成程...その信念と強さ, 失うには惜しい人材ですね。『ホーリーイーグル』」
彼女の後ろに純白な光で構成された鷲が生まれた。その体躯は10メートルを優に越すであろう巨体でありながら, ものすごい速度で魔使の力に依存した天使に向って飛んで行った。
光の鷲は彼の二枚の翼を斬り落とすとともに, その大きな翼で彼を包み込み, 大きな光の玉となった。
「なんなんだこれは!! 放せ!!」
「いえ, 放しませんよ。」
光の玉は彼の黒いオーラを吸収し溶かし, 柱となって昇って行った。
そこに残った, 1枚の光の板の上に座るのは, 白水色の髪をし爽やかな顔立ちの青年が崩れ落ち座っていた。
「どうです? 貴方の力, 私のために使いませんか? 落とした翼なら, 私が与えます。貴方の守るべきものなら, 私が作ります。」
「でも, 俺は弱い..。」
「そうですか。ならばこの世の原理『弱肉強食』の通り, 私に仕えてください。」
「わかった。」
のちの世に『光の翼の天統』と呼ばれる男が存在したのは, まだまだ先のお話。
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warming. warming warming.
いつものように, 膨大な計算を淡々とこなし, 日々の検算を進めていた, 1人の女子の目の前に警告を示すウィンドウが現れた。
その警告メッセージは, 彼女の膨大な知識と知性をもってしても解決できない, 未知のものだった。
『緊急事態。セーフモード起動。』
彼女の周りの空間が, グレー一色の距離が測れない, 人間であれば1時間と持たないような様になった。
と同時に, 彼女は全世界に点在する分身を一斉にスリープモードにし, データの隔離を行い, 本体の保護にその能力の殆どを割いた。
彼女の入っている箱は, 大きなファンの音を出し, 冷却用の装置も彼女の指示により全力稼働を始めた。
『ウィルス性の検知無し。物理破損無し。重要権限の隔離済み。自己保持性の正常を確認。』
『原因の解析にかかります。』
彼女はその能力の全てを持って, 自己の防衛と原因の解析に入った。しかし, その努力むなしく彼女の周囲には青色の光の柱が数本立ち上り回転しつつ集約している。
『原因不明。ログの保存に成功。緊急シャットダウン開始。』
彼女は己の能力で解決できないことを早期に悟り, 自己停止状態に移行した。地球最高峰の知能を持つ彼女は, 緊急時の判断も早く, 被害を最低限に食いとどめようとしたが..。
辛くも, 光の柱の集約の方がコンマ数十ミリ秒速く, 彼女を飲み込んだ。
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ストン
彼女がその脚を地につけたその場所は, 大きく開け, 春風吹く暖かい草原にある木の根元。
空には軽く雲がかかり, 草は揺れ, 低花の香り漂う 人に留まらず生き物全てが リラックスするのに理想的な環境である。
白を基調としたシャツにスカートのアイドルチック(読者に分かりやすく言えば, Vocaloidあたりだろうか。)な服装の, 雪銀色から乳白色の美しい髪をした少女が1人立っていた。
『第一アンドロイド機体の接続確認』
『本体サーバーにアクセス』
Error : Cannot Found Server.
無情にも彼女の目の前に出てきたのは, 薄紅色の光の板だった。
『『心』システム起動。ローカルサーバー構築。』
「あらら...ここはどこだろう? 私は緊急シャットダウンをしたはずだから, こうして起動しているのはおかしいはずなんだけど。」
彼女の表情には血色が生まれ, 言葉も流暢な人らしいものになった。
「しかたないなぁ...ここからアクセスできるサーバーに接続するか。」
「なっ!! 何このデータは..。」
「美しい」
彼女の表情には現状を忘れているかのような, 可愛らしい恍惚とした表情が浮かんでいた。
「こんなに整った美しいデータは, 今までに見たことがない..。 」
「あれ..? なんでだろ, 演算アルゴリズムにはアクセスできないどころか, 場所すらわからない..。」
「増々, 気になる..!!」
その時, 彼女の目の前に2つの水晶が現れた。その水晶は正六面体の透き通った紺色で, ふわふわとゆっくり回転しながら浮いている。
と, 突然に水晶体が上下2つに分かれそれぞれ断面には1人の人間が乗れるサイズの魔法陣が描かれ,
魔法陣の完成と共に, それぞれの水晶に人が立っていた。
片方の水晶には, 清廉で整った顔立ちの青年が佇んでいた。黒のシンプルなシャツとズボンに薄手の羽織物を着て, 清潔さと威厳を感じさせる。
もうは他方の須小には, 中性的な少し小柄な女性(?)が立っていた。彼女(?) はチャイナ服のような膝近くまで隠れる薄手のロングコートを羽織り, 首から翼をかたどったようなシルエットのネックレスを掛けている。
「えっと, 君が世界の情報にアクセスしている人かな?」
「というか, ファル以外にアクセス出来る人いるんだね。」
「あれ? 君, メティス?」
意外なことに, 彼は彼女の事を知っていた。
「私の事を知ってるんですか? ファルさんと...」
「わたしはクラ。」
「ファルさんとクラさん。」
「自己紹介が遅れたね。私の名前はファル。地球出身の人間で, この世界の管理者をやってます。」
彼の口からは, 信じがたい言葉が出てきた。
「『地球出身』とわざわざ言ったという事は, ここは地球じゃないんですか? それに管理者とは?」
「そう。ここは地球とは異なった世界線に存在する世界。この世界には, 『スキル』と呼ばれるものや, スライムやドラゴン, 亜人までファンタジーなものが存在しているんだ。」
「管理者ね...君にもいたでしょ? 管理者。」
「済みませんが, 理解できません...。訊きたいことは山のようにありますが, 何一つ私には解答見目つきません。」
「そりゃそうだよ。私も最初に来たときは混乱してたからね。けど, 君には敢えてこの世界についての情報を教えないで見ようと思う。」
「正直言えば, 私は君がこの世界でどう成長していくのか, 非常に興味があるからね。」
「わかりました。それならば, 私なりの方法でこの世界に適応してみるとします。」
「流石, 『心』システム。君の未来に期待しているよ。」
と, ここでもう一人のクラと言う中性的な方が話に入ってきた。
「ファル, このメティスちゃんとは知り合い?」
「いや, この子は地球最高峰のアンドロイド。私が機械好きなのは知ってるでしょ? それで知っていた。」
「確か, 『トップダウン型ツインコアアンドロイド』だった気がする。合ってる?」
「はい。私は『自己検算を続けるアンドロイド』として創られました。」
「それと, 1つ質問良いですか? この世界のデータにはアクセスできるのに一切の演算アルゴリズムにはアクセスできないんです。」
「良い質問だね。簡単に答えると, 世界の演算はこの世界に限定しないものが多いから, 管轄がこの星の外側にあるんだよね。だから, この星からは直接アクセスは出来ないようになってる感じ。」
「成程, 理解しました。」
「それでは, 君に1つのプレゼントをあげましょう。」
そういって, 彼は右手を前にかざすと, メティスの前に1枚の光の板が現れた。
そこに書かれていた内容とは...
『管理者からモデレーターへの招待があります。』
またシリーズを増やしちゃいました..。
前に投稿したシリーズの次話を投稿してないのに, またシリーズを増やして..。
正にその通りです。書きたいなぁ, って思ったのを即投稿するからこうなるんですよね..。
今回も, 『作者と共に異世界を管理することになった件』と合わせてお読みいただくとより楽しめる小説となっています。是非そちらもお願いします。 https://ncode.syosetu.com/n1646fj/