フェンス
呆れるほどの炎天下。
子どもの落書きのような影が這いつくばっている。
僕は人知れず爪先を使って、消え失せるカーテンを引き寄せる。
醜い程の汗。
洗ったばかりのハンカチを、一目惚れしたガラスの箱に叩きつける。
ほとばしる欲求が、きらびやかなハイヒールにすがりつく。
見上げれば、そこは霞の頂上。
さっきも聞いたよ、ささやかなSOS。
さっきも見たよ、ささやかな夢。
僕の四肢が引っ掛かりの棘で愛撫をこなす。
大胆に痙攣する電話に、いつか匿名で告白しよう。
僕の謝罪は、音信不通をいいことに消え去った。
眠くて目を擦る振りをして、ひとときの沈黙をものにする。
いつも答えは、目障りな迷彩の中。
国境は見たことないし知らないから、片足が越境しても許してください。
立入禁止の裏側で、夏に似合う花を育てましょう。
できたてのフェンスに、かわいい花を飾りましょう。
手を汚して見上げれば、そこにモザイクの境界線。
ニコニコした猫が、隠された排水溝を走り抜ける。
僕の代わりに助けを呼んで。
ここを守るから。
嘘でオフェンス、嘘でディフェンス。
ここで匿名を守るから。