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151話:続・メリヤナの手紙(1)

85話の続きで、後編以降の章で話題にあがっていたメリヤナの手紙の中身です。長くなったので、2話構成。

 1月4日

 体調を崩してこの数日は寝台から起き上がることができなかったのだけれど、新年おめでとう! あなたは、どんな新年を過ごしているのかしら?

 ……わたしのほうは、少し嫌なことがあったの。無理をしすぎたせいかもしれない。結局、婚約式で倒れてしまって、まともな誓いができなかったわ。ルデルさまは……問題ないと言っていたけれど、いやなできごとが起きる前ぶれな気がしてしまう。すごく不安……なのに、なぜかしら、どこかほっとした自分がいる。自分がよくわからない。


 でもね、ひとついい知らせがあるの。わたし、エストヴァンに行くことになったわ!

 ユステル皇太子殿下にご招待いただいたの。時宜がすごいと思わない? なんて偶然なのかなって思ったけれど、これで正々堂々とあなたに会いにいくことができるから、待っていなさい!


 1月16日

 最近、雨が降ってばかり。冬って、ほんとうによく雨が降るわ。寒いし冷たいし、最悪。あまり出かけられなくなるし、はやく冬が終わって欲しい。けど、あなたは雨が好きなのよね? なんでかなって思いながら窓を見ていると、少しだけ……雨が好きになりそう。今度会ったら、どうして雨が好きなのか教えてよね。

 あ、首飾りはちゃんと毎日してるんだから! 約束は守ってるわよ。だから、ちゃんとあなたも約束を守って、連絡寄越しなさいよ。


 2月7日

 エストヴァンへの出発は、三月の半ばって決まったわ。

 まだ、もうちょっと先。早く、行きたいな。待ち遠しい。


 2月25日

 もうあなたと別れて、三ヶ月よ。三回目の三ヶ月。会えない三ヶ月。

 ねえ、ほんとうにどうしたの? さすがに心配になるわ。なにかあったの。帰った先で、なにかあった……? 家族に嫌なことされてない?

 わたし、不安だわ。不安ばっかり。


 ルデルさまとも、婚約式からぎこちない。うまく喋れないし話せない。これから結婚式のための打ち合わせもしなきゃいけないのに、婚約式の失敗から、なんだかうまくいってない。

 ……あなたに、会いたいな。会って、あなたの声が聞きたい。あなたの声を聞いて落ち着きたい。安心したい。大丈夫って言ってもらいたい。ううん、大丈夫はいらない。大丈夫、じゃない。ただ、あなたの声を聞きたい。話したい。

 寂しいな。


 3月14日

 今日、これからエストヴァンに出発します。まだ少し寒いし、雨が降ることだけ心配だけれど、気持ちは大丈夫。

 会いに行くから。待っていなさいよ。


 3月20日

 さっき、食事をしている時に、タルノーさまから聞いちゃった。

 あなたが外交局でどんな感じだったのか、タルノーさまと仲良くなったきっかけを聞いたの。

 思わず、笑っちゃったわ。あなたって、やっぱり人付き合いが下手なのね。下手なのに、優しいんだから。なんだか、あなたらしくて……聞けて良かったな。

 あと一週間でエストリラよ。もうすぐ、きっと、会えるわよね。

 会ったらまず、わたし怒るからね。怒っているんだから。心配だけど、怒っているんだからね。心配だけども!

 

 3月27日

 フィル……、ちがうの。ちがうの。説明させて。うまく言えなかったけれど、ルデルさまとのあれはちがうの。あれは、あの時の口づけは、わたしじゃないの。わたしじゃなくて、わたしからじゃなくて、ただされただけで……本番とかでもなくて……、ちがうの。なんて言えばいいの。

 お願いだから、フィル。信じて。


 わたし、ずっと、あなたに会いたかった。あなたに会うためだけに、大使の申し出を受け入れたの。だから、お願いだから信じて。ちがうのよ、ほんとうに。あなたを傷つけるつもりなんてなかった。フィル……ごめんなさい。せっかく会えたのに、久しぶりに会えたのに……。

 ちがうから、ほんとうに。ちがうのよ。あなたが思っているようなことじゃないから。それだけは信じてほしい。

 これを渡したら、信じてくれるかしら……


 3月29日

 一昨日、到着して、あなたと再会して、あなたが皇子だったことを聞いて、昨日のあなたの様子を見て、思ったことがあるの。

 フィル、わたし、あなたの心の声をちゃんと聞きたい。

 あなたがそうしてくれたように、わたしもあなたの気持ちを聞いて、全部受け止めたい。それでちゃんと、あの時のことも説明するから。ちがうって言うよ。あなたを裏切ったりしない。捨てたりしない。捨てたわけじゃないって。一番大事な……友人……フィルのためなら、わたし、なんでもするから。

 だから、わたし、あなたの心を聞きたい。


 4月10日

 今日、テルーシア妃殿下に会いました。

 妃殿下から、聞かれたことがあるの。わたしは幸せに見えるかって。

 カナンは、わたしといる時が幸せと言ってました。わたしもカナンが大好き。だから、わたしも一緒にいると幸せ。


 ねえ、テルーシア殿下は、好きな人から幸せを願われて、好きな人から別れを告げられたんだって。

 わたしは……、わたしの好きな人はルデルさまだけれど、ルデルさまから幸せを願われて別れを告げられたら? って考えたの。考えてみたの。その、たとえば、ルデルさまから別れを切り出されて、その、ほんとに、これはたとえばの話だけど、あなたと幸せになれって言われたら? って妃殿下の気持ちを想像してみたの。想像よ、想像。友人の……大切なあなたを例にしちゃって悪いけれども、妃殿下の気持ちを考えるためにね。


 あのね、そしたら、考えてみたら、わたし、ちっともつらくなかった。おかしいと……思わない? 妃殿下はすごくつらそうだった。とてもつらそうで、こんなわたしが慰めの言葉を口にするなんて失礼なくらい、つらそうだった。

 なのに、わたしはちっともそう思わなかった。

 おかしい……わよね。おかしいのよ。だって、むしろ……もし、ルデルさまからそんなふうに願われたら……、むしろ、わたしは……


 4月27日

 フィル……フィルク……フィルクス皇子、あなたに〈唯一〉がいるなんて、知りませんでした。知らなかった……気づきませんでした。

 会っていないあいだに、エストヴァンに帰って来てから、できたの? わたしが会ったことある方? 知っている方?


 あなたの〈唯一〉はどういう人? どんな人?

 きっと、あなたが好きになるんだから、かわいらしい人なのよね。ミリーさまみたいな、可憐でかわいくて、それからきっと慎ましやかで、わたしみたいに泣いたり怒ったりばかりするような女じゃないわよね。


 わたし、あなたにはいつも遠慮せず過ごしていて、ルデルさまの前ではがんばって感情は出しすぎずに、けれどさりげなく伝えるような……あなたが教えてくれた秘術を実践してがんばれるのに、あなたの前ではなにもがんばっていないわたしで……きっと、あなたのためにがんばれるような、そんな人が好きなのよね。あなたの〈唯一〉なのよね。ごめん、文章が変よね。


 わたしは……わたしは、あなたがわたしの幸せを、わたしとルデルさまの幸せを祝福してくれると言った言葉が頭の中から離れない。あなたに〈唯一〉がいるということと、あなたが祝福してくれると言った言葉が……離れない。離れなくて、胸が痛い。

 どうして。なんで。わたしなんで聞いたの。聞くんじゃなかった。


 5月4日

 今日、図書の間に行ったわ。

 あなたに教わった秘術がどこかにまとまってないか調べてみたの。……見つからなかったわ。皇族秘伝ってたしか言ってたものね。図書の間にそんな置いているわけがないわね。

 今日はあたたかくてぽかぽかしてて、頭がぼうっとする。何も考えなくてよくて、だからちょっと気持ちはおだやか。この数日、気持ちがすり減るような感じだったから、久々におだやかな……ちょっと麻痺してるのかも。

 ……このまま何も考えたくないな。


 5月7日

 さっき、随分と親しげに、どこかのご令嬢と話していたけれど、あれは誰? もしかして、彼女があなたの〈唯一〉……?



 

本日中にもう1話もアップします。

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