ピーターパンを捕まえて
「でも、大人になったら次は「大人だから」って差別されるんだよ。」
ユウジは振り向かなかったが、代わりにうーん…と唸ると、こう答えた。
「それは自分でなんとかできるだろ?でも『子供だから』は俺たちがどんなに頑張ってもどうにもならない。だろ?」
たしかに。お酒はどんなに頭が良くても飲ませてはもらえないだろうし、タバコも買えない。
そして大人はそういったところに見えない線を引いていて、その線からどちら側かで多くの物事を判断している。
なにもタバコを吸いたいわけではないが、タバコを吸えない奴は子供で、だからつまり無知で、純真で、大人を無条件に尊敬するものだと信じきっている。
僕らはそんなに単純ではないし、一様でもない。タバコを吸ったらかつて子供だと差別されてた頃の嫌なことまで煙のように消えてしまうのだろうか?
「大人になったら、僕らも『子供だから』って言うようになるのかな」
次は振り向いたが、笑顔だった。
「バカ言え。あんな奴らと一緒にするな。俺たちほどその差別に苦しまされたやつはいないさ。」
自信満々な様子でユウジはそう言うと、また前を向いた。
「大人は…大人だと思ってる奴らはわかってないんだ。あれだけ男差別、女差別、そう騒いでおいて子供だけは一律で『子供だから』だとよ。笑わせるぜ、まったく。」
怒った様子でそういうと足元の石を放り投げた。
石が放物線を描き、楠にぶつかって樹皮を剥がし、跳ね返った石が草むらを3回ほどでんぐり返しして止まっても、まだ僕らは黙っていた。
こうやって「子供だから」「大人だから」に文句を言うことすら大人から見れば「子供らしい」ことだと、僕らは知らないわけじゃない。僕らはそうやって自分で自分を、他人を苦しめる大人が嫌いなだけだ。
趣味を言ったら「子供じゃないんだから」言葉遣いで「子供じゃないんだから」食べ物、飲み物、家、好きなもの、嫌いなもの、服装、顔、化粧、全部で「子供じゃないんだから」。
僕らはそんな大人になるのが怖い。
否定されて、気に食わなければ弾劾されて、人目を気にして、伺って、歩幅を合わせて、一緒に「子供じゃないんだから」と言って、周りが「大人」だらけになって、そして子供に「子供だから」と言い始める……。
足元の石を拾い上げた。
ユウジもすかさず足元から石を拾う。
「せーので投げようぜ」
「うん、わかった」
『せーのっ!』
放物線を描いた二つの石は、空中でぶつかり合い、 楠をそれて僕の石は茂みに、ユウジの石は水たまりに入った。
数年前の書きかけ供養。
スタンドバイミー的な何かを描きたかった頃。
作中では切っていますが、書きかけでは5年後ーとなっていました。
どうやら本編は5年後のようです。
確かにラストが意味ありげですよね。
それぞれ違う道を歩んでそうです。
まあ、今となっては知らんわという感じですけど。