見かけた。
年が明けて、いつものように学校帰りに駅へ回り道をする。授業後も補習があるからすっかり暗くなった時間。まだ寒い今は一般入試も真っ只中。私立の日程はほぼ終わっているこの時期。国公立の日程が迫っている。自宅で勉強する奴もいるけど、集中できるから俺は相変わらず学校に行って勉強をすることにしている。
「いるワケないんだけどな。」
そんな独り言を言うこともすっかり習慣になってしまった。
「あれ…?」
駅前の街路樹の通りで、見覚えのある制服姿が目に留まった。美玲だ。間違いない!急いでペダルを漕ぐ。…次の瞬間、俺の動きは遮断された。
「いったーい!」
歩いている人が視界に入らず、ぶつかってしまった。
「すみません。」
謝りながら顔を見ると、美玲と同じ制服を着た女の子だった。
「ちょっと!どこ見て走ってんのよ!」
「すみません。」
ペコペコと頭を下げていると、女の子は立ち上がり、スカートのホコリをポンポンと乱暴に払って立ち上がった。美玲の同級生だろうか?知っているか聞いてみようか。などと思いをめぐらせているうちに相手はスタスタと歩いて行ってしまった。
「あ。そうだった。」
立ち上がって自転車を起こして周りを見るともう、見覚えのある姿は見えなくなっていた。
相手にケガがなかったようなのが幸いに、不覚すぎたと反省するも、思いはまた美玲のことに戻っていく。帰国しているのか?留学は終わったのか?マークの存在は?
あれは間違いなく美玲だった。そう思いたい。
「痛っ…。」
ぼーっとしたまま自転車をこいでいるといまさらのように腕に痛みが走った。俺も打撲をしたようだ。あいての女の子、大丈夫だったかな。この様子だと、俺の自転車も多少のダメージを受けているだろう。また江川家でオーバーホールをサービスされてしまうかもしれない。
最寄りの駅は同じだから、駅の回りでばったり会う可能性は高い。お互いの家は駅を挟んで逆方向なので、それほど近くはないが。もともと、駅前のコンビニでよく見かけていて、気になっていたところを、俺から声をかけたのが始まりだったし。
本当に帰って来ているのなら、神様、俺にチャンスをください。合格通知もください。どちらかだけ、なんて言わないで、両方、ください。