帰国。by美玲
「寒っ!」
久しぶりの日本の空気に触れた瞬間の第一声はコレだった。留学先のロンドンから帰ってきて空港を出た瞬間だった。
盛大なクリスマスと日本よりもひっそりとした新年を迎え、約10か月の留学を終えて、二年生の残り一ヶ月少々を普通に登校して、3年生を迎える。交換留学なので単位の互換システムがあるから、普通に進級して受験体制に入る。最初は一年の予定だったけど、私たちの学年は受験を控えているために2か月だけ繰り上げての帰国を学校側にすすめられたので、私もそうすることにして、予定より少し早い帰国にした。
「あまり連絡してこなかったけど、元気にしてた?パパが寂しがってたわよ。」
空港からの帰り道、ハンドルを握るママが言う。
「まあね。忙しかったのよ。ママも変わってないね。」
助手席で返事をする。久しぶりに並んで座るのもなんだかなつかしくてホッとする。
「そうそう老け込んでたまるもんですか。」
「アハハ。そうね。パパは元気?」
「元気よ。今日は早く帰ってくるって張り切っていたわよ。」
よかった。相変わらずパワフルで若々しい様子にまたホッとする。
なかなか忙しかったのよね。勉強に学校にイベントに遊びに。留学は単位の互換システムの恩恵があるだけに甘くない。油断をして補習を受けた子もいるし、単位がもらえなくて、日本での補習が確定してる子もいる。
「ところでピアスまで開けちゃって。学校は大丈夫なの?」
「バレたか。大丈夫よ。たぶん。」
ピアスは学校では一応禁止だけど、留学帰りの子や、いわゆる帰国子女クラスの子が多い学校だから、その辺はおおらかなのでたぶん心配ないだろう。
「玲奈とデニもお待ちかねよ。そうそう。玲奈は急に背が伸びたの。」
「そう。追い越されちゃったかな。」
会ったら早速、背比べかなあ。三歳下の妹の玲奈はすごく背が小さくてかわいかったんだよなあ。デニにも早く会いたい。デニは、ウチの愛犬。三歳のアプリコットのトイプードルの男の子。甘えん坊でかわいいのよね。
そして、もう一人、会う予定の相手がいる。コウキ。元気にしているかしら。予定といっても、会うかどうかすらハッキリしていない。私がやり直す気があるかどうか。そしてコウキがまだそういうつもりでいれば、の話。何度か連絡をもらっていたけど、私は一切スルーをした。だからコウキに新しく彼女ができていたとしたら、もう会うことはないはず。待っているとは限らない。私はコウキに会うべきかどうか決めかねている。彼氏はいない。だからといってコウキとやり直すのかどうか。嫌いになったわけじゃない。待っていてくれるとしたらちょっとはうれしいけどね。