事情聴取 その2。
智也はドーナツをほお張り、コーヒーをおかわりしてすっかりゴキゲンだ。まあいい。今日の目的はこいつの機嫌を直すことなんだから。それにしてもよく食うよな。俺は一個だけ食べてコーヒーを何回かおかわりしているが、智也はすでに完食している。
智也はデブとまではいかないが、ぽっちゃりとしたタイプだ。痩せたらモテそうな顔立ちだが、もしそれを言っても痩せることよりもミスド通いを選びそうなタイプ。
「もし会えたら、やり直せたら、友達を紹介してって頼んでくれよ。」
「もしかして、応援してる理由ってそっち?」
「そういうワケでもないけどさ。紹介してくれたら、この初チューのことは墓場まで持っていってやるからさ。」
「高い口止め料だな。」
「まあまあ。そう言わずに。ところで食わねーの?貰っていい?」
「あ、ああ。いいよ。」
俺の皿を差し出すとむんずとドーナツをつかんでモフモフと食べている。ドーナツが吸い込まれるように口に消えていく様子は気持ちが良いが、仮に紹介したとしても、この食いっぷりでドン引きされるぞ。
「会えるといいな。」
「そうだな。」
実のところ、一途というよりも、受験のことがいっぱいで他に目が行かなかったから、美玲のことが引っかかったままになっているともいえるが、やっぱり会いたい。そしてできればボタンを受け取ってほしいし、やり直したいんだ。
「まあ、お前と相手との温度差が気になるけどな。」
「やっぱり、そうだよな。」
温度差。あるよな。俺が駄々をこねて引き留めている感は否めない。
「まあ、そう暗いカオすんなよ。きっといいことあるって。」
いいこと、かあ。どんないいことだろう。合格通知?再会?ボタン?できれば全部手に入れたい。
とりあえず、合格通知だけは手にしなければ。
「じゃあな!明後日また学校でな!ごちそーさん。」
店を出ると智也が持ち帰りの紙袋を軽く上げて自転車にまたがる。そう。俺が食べ切れなかった分を持って帰ってもらったのだ。
智也の後姿を見送って、俺も自転車をこぎだした。