事情聴取 その1。
「ほうほう。噂の美玲ちゃんね。」
まるで新品のようにお手入れされた靴を履いて、ピカピカの自転車に乗って、智也と二人、江川家を後にした。そして今は駅前のミスドで向かいあっている。キスの代償の事情聴取。もちろんお詫びなので俺の奢りだ。貴重なファーストキスを奪ったんだから、これじゃ安すぎるってもんだが、甘党の智也は、ドーナツ5個とドリンクというリクエストだったので、従うことにした。ついでに俺も5個オーダーしてみた。俺は甘いのばかりだと食えないから、5個のうち2個はパイだが、それでも食いきれなかったら持って帰るつもりだ。昨日のあのビュッフェではケーキのほかにもデザートもたくさんあったから、俺としてはそうそう甘い物ばかり食えるとも思えない。が、智也は甘いのばかり5個。女子かっ。
夢で美玲と会って、マークという謎の男が出てきて…。しかし現実では俺は智也に抱き着いてキスした上に殴ろうとしていた。そんな経緯を説明すると不機嫌だった智也がドーナツを頬張りながらニヤニヤとしだした。ホントに甘いものが好きなんだな。一口かじる度に口角が上がっていく。まあ機嫌を直してくれただけマシってもんだろう。
「ところで、会えたとして、どうする気だ?」
「どうするって…。」
もう一度、付き合いたいと言うつもりに決まっている。
「会えるとも限らないんだろ?」
「そうだけど。」
会えたら、やり直したいと思ったら、おかしいのか?
「お前よりも美玲ちゃんだっけ?相手の方がサバサバしていると思うぞ?留学を控えてケジメつけようとしたくらいなんだぞ?まさか第2ボタンを渡そうなんて考えているんじゃねーだろーな?」
…ゲホッ!
うっ!読まれてやがる!
「まさか図星?」
「悪いかよ?」
ドーナツでむせながら智也を見ると、驚きと薄ら笑いの混ざった表情をしている。なんだよ。そんなにおかしいのか?
「なんとも言えねーな。来たとして、身軽だったら受け取ってくれるかもしれんが。」
「ソレな。ボタン云々以前に身軽という保証はどこにもないし、その前に来る保証もない。」
「ずっと連絡取ってないんだろ?」
「そうだよ。LINEもメールも何一つ返事が来ない。」
そう。俺から何度か連絡したが、一度たりとも返事がない。
「正夢だったら、どーすんだよ?マークとかいう奴が現れたら。しかもイケメンかもしれねーだろ。」
「お前、俺を苦しめて楽しんでんだろ?」
「そんなことはないぞ。応援しているんだぞ。」
どこが応援だよ?
「それにしても、うらやましいな。お前、学校も模試もそこそこの成績な上に青春してさあ。」
「青春ってさあ。フラれてんだぞ?」
それにしても、夢だって気づけよ、俺。欧米人がハグやキスくらいでケダモノなんて言うはずないじゃねーかよ。