会いに来ちゃった。
「コウキ。少し早いけど、会いに来ちゃった。受験で忙しいのにごめんね。」
街路樹の下で立っていた美玲は、俺を見上げて言う。
「いいよ。そんなこと。気にするなよ。」
俺たちは抱き合い、一年ぶりに唇を重ねた。今日はいっそこのまま、もっと先まで進んでしまおう。強く強く抱きしめる。
「オー!コウキはケダモノですネ!」
背後から声がして振り返ると、青い目のごっつい男が立っていた。
「マーク!どうしてついてきたのよ?」
マークだと?こいつ、やっつけてやる!美玲は俺のものだ!俺は拳を振り上げる。
「…おい、よせ!」
どこかから声が聞こえるが、構うもんか。国際問題だろうが、知ったことじゃない。改めて拳を振り上げる。
「おい!落ち着けよ!」
二度目の声にはっとすると目の前にあったのは智也の顔だった。おかしいな。俺は今からマークをやっつけるはずだぞ。
「お前なあ。すげーでかい声で寝言を言ってたぞ。マークって誰だよ?てか、離せよ。男同士で抱き合う趣味はねーぞ。」
俺が抱きしめていたのは、美玲ではなく、今回のメンバーの一人の智也だった。まさか、俺がキスした相手って…?考えるだけでゾっとする。智也に抱き着いていた上に、キスまでしちまったんだろうか?怖くて聞けねえ。
「悪い。」
腕をほどいて、起き上がるとペットボトルのウーロン茶が差し出された。言葉もなくウーロン茶を受け取り一気に飲む。唇を重ねた相手がこのウーロン茶のボトルだけでありますように。ああ。気まずい。
「一体、何の夢を見ていたんだよ?」
「い、いや、その…。」
「俺様の唇を奪ったんだから、それくらい話してくれてもいいだろう?」
奪った?ということは、やっぱり?慌てて袖口で唇をゴシゴシと拭う。
「バカヤロ!ゴシゴシやりたいのは俺のほうだぞ!なんでファーストキスの相手がお前なんだよ?」
智也の声で他のメンバーが起きだす。
「何かあったのか?」
「い、いや、別に。」
智也が急に口をつぐんだ。お互いに回りに知られたくないよな。運よくみんな寝ていて聞こえていなかったようだ。
「コウキ。いいかお前。今日は一緒に帰るぞ。」
みんなが起きだす中、智也が耳元でコソっと言った。事情聴取が確定した。