約束のこと。
ワイワイとパーティを楽しみつつ、酔った頭に浮かぶのは、街路樹での約束のこと。一年前のクリスマスのときに、元カノである美玲と交わした約束。
それは『俺の卒業式の日にこの場所で会うこと』こと。
美玲は違う高校の一学年下で、一年ほど付き合っていた。この日に、一年間の留学を理由に別れを切り出された。留学することは聞いていたから、俺は留学先での様子を聞かせてもらえることを楽しみにしていたのに、美玲は遠距離なんて無理だからと別れを切り出したんだ。それでも俺がどうしても別れたくないと言ったら、そう言われた。もし、やり直せると思ったら、ここで待っているから、と。だから、もしかして留学を終えて帰ってきていたとしても、今日あの場所で会えるはずがないんだよな。実は今日に限らず俺は何度も足を運んだ。学校の帰り道に何度寄り道をしただろう。様子を知ることができないだけに、今でも留学したことすら信じられない。
「ところでさ、お前、彼女とどうなんだよ?」
「さすがに帰り道にマックに寄る程度だよ。」
「だよな。あー。入試終わったらラブホ行きてー!」
「よくそんなこと考えられるな。」
どこからともなく恋バナが始まった。俺もそうだけど、一般入試チームはエッチどころか、デートなんてしている余裕はない。二人そろって推薦で決まったカップルはすっかり色々とエンジョイしているらしいが。
「コウキはどうなんだよ?」
「え?別に…。」
おいおい。俺に振らないでくれよ。
「待ってんだろ?え?ホントに待ってんの?」
「ほっとけ。」
せっかくのクリスマスに、傷口に塩を、しかも岩塩をすりこむなよ。
「きっとさあ。来ねえぜ。それか男連れで来るかもな。青い目のイケメンとか。」
頼むから言わないでくれ。一番心配していることなんだぞ。本当に留学しているのなら、留学先で新しいオトコを捕まえている可能性は否めない。
「その話題はやめてくれ。悪酔いしそうだ。」
「一途だなあ。」
「俺の話はいいから。大樹、お前こそどうなんだよ?」
「いねーよ。俺、モテないから。」
「またまた。謙遜すんなよ。」
そう言うものの、大樹は気のいい奴だし、育ちの良さがにじみ出ているが、ごく普通のルックスなので、実際のところ、あまりご縁がない。つまり、いわゆる“いい人”なタイプ。ただし、高校生にして、見合い話だけは事欠かないらしい。世間の娘を持つ良家親というのは、早いうちにこの江川家の長男にツバをつけておこうと必死のようだ。まあ、本人は逃げ回っているが。